第五章 魔王は殴りこむ2
「あぁ、絶対にユウナは気にしたりしない。なんなら、直接聞いてみればいい。ただ……聞くのは今度にしてくれ、もう目的地だ」
言って、ジークは立ち止まり、視線を前へと向ける。
すると見えてくるのは、巨大できらびやかな城――ミハエルとの決戦の場所だ。
(アハトのやつ、ユウナと少し話したそうにしているからな)
そういう意味でも、ミハエルとの一件はさっさと終わらせる必要がある。
ジークはそんな事を考えた後、城の入り口――大扉の前へと進んでいく。
大扉はジークの侵入を拒むように、ぴったりとしまっている。
(仮にも招待したらな、扉は開くべきだと思うけどな)
ジークはそんな事を考えた後、大扉へと――。
蹴りを入れた。
同時、吹っ飛ぶどころか、木端微塵になる大扉。
その後、ジークが仲間を引き連れ、城内に侵入しようとた……まさにその時。
『やぁ、ジークくん! 僕の城にようこそ!』
と、聞こえてくるのはミハエルの声だ。
その声の出どころは――。
「ん……まおう様、お城の入り口。松明のところ――あそこに何かある」
そんなことを言ってくるブラン。
ジークがそんな彼女が指さす方を見てみると、そこにあったのは。
(なるほど、錬金術で作った鉱石か。大方、これと対になる鉱石をミハエルが持っていて――そこに入力した音を、この鉱石から出力しているといった感じか)
さすが錬金術師、なかなか面白い事をする。
ミハエルは勇者を名乗るのをやめ、まっとうな錬金術師になった方がイイに違いない。
少なくとも、そこそこは儲けられるはずだ。
と、ジークがそんな事を考えている間にも。
『さっそくだが、キミを試してあげようと思ってね! 試練を用意してみたんだ!』
聞こえてくるミハエルの声。
彼はジークへと、さらに言葉を続けてくる。
『いまキミ達の前にある大扉。それはね、僕が幾重もの錬金術で加工したものなんだ。正直、僕自身でも恐ろしいほどの硬度を誇っていますよ』
「だからどうした?」
『簡単ですよ、ジーク君。まずその扉を破って見てくれないか? さっきも言った通り、その扉は頑丈です――それこそ、魔法を何発受けても傷一つつかないほどにね』
「そうとう自信があるようだな」
『当たり前ですよ。僕の至高の傑作の一つだ。さて、それじゃあ城の中で待っていますよ――一生壊せない扉を前に、精々惨めに頑張ってください』
「それは楽しみだ、期待している」
ジークがそう言った直後、反応がなくなる鉱石。
きっと、ミハエルが対となる鉱石の使用を、やめたに違いない。
にしても、これはアレだ。
「ぷはっ! ちょ――っ、もう限界なんですけど!」
と、聞こえてくるのはアイリスの声だ。
彼女は『ジークが木端微塵にした扉があった場所』を指さし、ジークへと言ってくる。
「至高の傑作 (キリ)! 幾重もの錬金術で加工された扉(草)!」
「アイリス、やめてやれ。さすがに可哀想だ」
「もう魔王様がミハエルと会話してる時、笑いを堪えるので必死でしたよ! 至高の傑作って……せめて、魔王様が扉を壊す前に言ってくださいとしか!」
「まぁ、タイミングが悪かったな」
「壊した直後に、壊されたものの強度自慢! おまけに『おまえには絶対に壊せねぇ』アピール! 面白すぎますよ! 道化師として百点! ミハエルには百点をあげますよ♪」
言って、腹を抱えながら爆笑しているアイリス。
このミハエルをバカにしている具合――アイリスの人間嫌い爆発といった感じだ。
もっとも、純粋にジークを褒めている意味もあるだろうが。
と、そんなアイリスは涙を拭きながら、ジークへと言葉を続けてくる。
「いやぁ、笑った笑った! 魔王様の反応にも笑いましたわ――『それは楽しみだ、期待している』って……なんで気を使ってるんですか! ぷはっ!」
「いや、ああまで滑稽だと、さすがに気の毒になってな」
「あぁもう、やっぱり魔王様と一緒だと、楽しい事ばっかりですね! 相手の滑稽さが際立つのと、魔王様の格好良さの相乗効果というか……さすが魔王様です!」
言って、ジークの頬を悪魔尻尾でつんつんしてくるアイリス。
ジークはそんな彼女の尻尾を払った後、彼女へと言う。
「褒めてくれている事は礼を言うが、気を引き締めていけよ」
「は~い♪ でも、ふざけてても楽勝じゃないですか? 魔王様が居ますし!」
「まぁそうだが、一応は敵地だからな」
などなど。
そんなやりとりの後、ジーク達はミハエルの城を進んでいくのだった。




