第五章 魔王は殴りこむ
時は翌日――昼少し前。
場所はアルスの街――ミハエルの城へと続く道。
現在――。
「これからミハエルを倒しに行くんだろ? 頑張れ! 俺はあんた達を応援してる!」
「あたしもよ! あなた達ならミハエルを絶対に倒せるわ!」
「きみらは娘を救ってくれた英雄だ! ミハエルなんかに負けるな!」
「あとで酒場に来てくれ! 美味いもんをたらふく食わせてやる!」
「全部終わったら、銅像を建てるよ! おまえさん達の銅像だ!」
と、聞こえてくるのは昨日救った人々や、その家族たちの声だ。
ジークがチラリと道の左右を見ただけでも、その数はかなり居る。
こうまで応援してくれると、正直ジークとしても嬉しい。
けれど、ここまでくると『ミハエルの不人気』具合に笑ってしまう。
(まぁ、あれだけの事をしているんだから、当然といえば当然か)
エミールもそうだが、やはり奴等現代の勇者は早々に潰す必要がある。
人々から応援されないどころか、恐怖される勇者など、絶対に勇者ではない。
まさに勇者の面汚し、ミアへの冒涜だ。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
「ユウナちゃん! 俺達も応援してるよ!」
「俺、昨日さっそく人助けしたんだ! これからも頑張るから、ユウナちゃんも頑張れ!」
「正直、ミハエルの野郎は気に喰わなかったからな! ぶっ潰しちまえ!」
「危なくなったら呼んでくれよ! ユウナちゃんのためなら俺、なんでもするよ!」
「おい魔王野郎! ユウナちゃんをしっかり守れよ!」
聞こえてくるのは、元ミハエルの配下である冒険者達の声だ。
彼等は各々ユウナへと手をふり、必死な様子で存在をアピールしている。
(昨日も薄々思ってたけど、こいつら単純だな)
おおかた、ユウナに手を握られて諭された結果。
冒険者の中では、『ユウナ=清く正しい女神様』みたいな式が出来たに違いない。
とはいえ、恐ろしきはユウナだ。
「えへへ、頑張るね!」
と、無垢な笑顔で手を振り返しているユウナ。
その度に、冒険者達から凄まじい歓声があがるのだから。
しかも、彼等の顔はまさしく熱狂といった様子。
それこそユウナが頼めば、どんな戦いでも平気で向かっていきそうなレベルだ。
(これもある意味、勇者の資質か。勇者は本来、周囲の人間に勇気を与える役目も担うからな)
もっとも、かつてのミアが『人に戦いを強制しなかった』様に。
確実にユウナも、そんなことは強制させないに違いないが。
(どちらかというとユウナは、断っても勝手に仲間が集まって来て、勝手に戦い始めるタイプだろうな、実際、ミアがそんな感じだったか――)
くいくい。
くいくいくい。
と、ジークの思考を断ち切るように、引かれるジークの服。
この呼び方は、きっとブランに違いない。
ジークはそんな事を考えた後、服が引かれた方へと眼をやると。
「その、本当におまえを――おまえ達を付き合わせて、よかったのですか?」
そこに居たのは意外や意外、申し訳なさそうな様子のアハトだ。
彼女はそのままの様子で、ジークへと言葉を続けてくる。
「今朝、おまえから『もう事の中心はおまえ』だと、その理屈は聞きました。しかし、少し考えてみたのですが、やはりそれは屁理屈で――」
「アハトは本当にポンコツだな」
「な――っ! お、おまえはまたわたしをバカにするのですか!」
「自分にとって都合がいい所は、いちいち追及しないで、話しに乗ればいいんだよ」
「つまり、どういうことですか?」
「世の中には気がつかない方が、得することもある――そういう部分で、あえてバカになれってことだ。俺達がミハエル討伐に付き合うのは、お前にとっても得だろ?」
「それは、そうですが……っ! おまえ! それはつまり、今朝言ったことは屁理屈――」
「それと、言ってなかったが俺にも、ミハエルを許せない理由はある」
言って、ジークはアハトの言葉を途中で断ち切る。
そして、彼は手短に要点をまとめて、アハトへと語る。
内容は三つ。
一つ。
ジークとミアは魔王と勇者。
当然、敵同士であり、何度も何度も命のやり取りをした。
最終的にジークは負けたが、ミアの事を誰よりも認めているという事。
二つ。
ジークは勇者との再戦を――ミアの子孫との再戦を夢見て、この世界に蘇った。
しかし、この世界の勇者は堕落しきっており、ジークはそれに絶望した事。
また、好敵手たるミアが願っていた『平和』を子孫自ら壊している事が許せない事。
三つ。
ジークは戦いの敗者として、ミアの願った世界を実現するため――ミアの面汚しである現代勇者を駆除する計画を立てた事。
そして、ジーク自らの手で『真の勇者』であるユウナを育成、いずれは彼女と最高の戦いをしたいと考えている事――またそのため、勇者の試練を探している事。
時間にして、数分。
ジークがそれをアハトへと、ざっと聞かせ終わると。
「ちょっと待ってください! おまえが個人的にも、ミハエルを倒したいのはわかりました ですが……ですが、その」
と、なにやら驚いた様子のアハト。
正直、ジークはそんなに驚かれる事を言ったつもりはない。
ジークが不思議に思っていると――アハトは彼へと言葉を続けてくる。
「ユウナが、真の勇者?」
「あぁ、それか。さっきも言っただろ? あいつには真の勇者の証である『光の紋章』が、手の甲にしっかり刻まれている。俺が断言してやる――あいつは当代の勇者だ」
「そう、ですか。だから、ユウナはおまえ達と共に、旅をしているのですね」
「そういうことだ。もっとも、今のユウナにはまだ力はないけどな」
「わかっています。おまえの話に出た『勇者の試練』を探しているのですね? そこでユウナの力を覚醒させるために」
「…………」
と、ここでジークは気がついてしまう。
なんとなく、アハトの元気がないのだ。
故に、ジークはそんな彼女へと言う。
「まだ休養が足りなかったか? 俺の見立てだと、心体ともに回復したはずだが」
「いえ、少し自身を戒めていました」
「どういうことだ?」
「ユウナは『何の宿命も背負っていない、か弱い少女』と……わたしはかつて、自分の中で勝手に決めつけてしまったのです」
「仮に声に出したとしても、ユウナは気にしないと思うぞ」
「そう、でしょうか?」
「あぁ、絶対にユウナは気にしたりしない。なんなら、直接聞いてみればいい。ただ……聞くのは今度にしてくれ、もう目的地だ」
言って、ジークは立ち止まり、視線を前へと向ける。
すると見えてくるのは、巨大できらびやかな城――ミハエルとの決戦の場所だ。
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