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第四章 魔王は助けてみる4

(仮にも仲間にこの仕打ちとは、本当にクズだなミハエル。勇者の――ミアの子孫として、恥ずかしくないのか? それにさすがの俺も、冒険者が哀れになってくる)


 などと。

ジークが考えている間にも。


「ぁ、ぁあ……あぁ~~~っ」


 と、耳障りな声をあげながら、人質に襲いかかる元冒険者の怪物。

 ジークは瞬時に剣を構え、そんな怪物たちめがけて剣を振るう。

 魔力を纏わせた斬撃を飛ばしたのだ。

 直後――。


 斬撃は怪物達に間違いなく直撃。

 通常ならば、身体が真っ二つになるレベルの一撃だ。

 しかし奴等は未だ立っていた。


 それどころか。

 怪物達は斬撃でようやくジークに気がついた――そんな様子で、彼の方を向いて来る。


(この様子……まさか、俺の斬撃を無効化しているのか!?)


 並大抵の耐久度ではない。

 間違いなく、五百年前の魔物を凌駕している。


「おもしろい、いいだろう!」


 腐っても自称天才のミハエルの傑作……という事か。

 ならばジークも、より強い一撃を繰り出すのみ。


 などなど、彼はそんな事を考え、再度剣を構えた瞬間。

 ジークの方へと、ダッシュしてくる怪物達――その数は八体。

 そして、その直後。


 怪物たちの胴体から上。

それがズルリと地面に落ちた。


「……は?

 そんなジークの視線の先で、下半身だけで走って来る怪物八体。

 けれど、やがて怪物の下半身達は、ジークの前でぶっ倒れ、痙攣し始める。

 要するに、これは――。


「あはははははっ! だっさ! 至高の傑作ざっこ♪ 一撃で死んでるじゃないですか! しかも時間差で! ぷぅうううう~~~~~っ、魔王様とのレベルの差がやばすぎて、もう笑い堪えられないんですけど!」


 と、聞こえてくるアイリスの声。

 彼女はそのまま、誰にともなく言葉を続ける。


「同じ『至高』でも、魔王様の斬撃の『至高』さの方が、上だったみたいですね! なんせ、怪物達が死んだことに気がつかないで、しばらく走れるほど凄い斬撃なんですもん! もう、さっすが魔王様ですよ!」


 と、ジークの強さを再確認してか、ご機嫌な様子のアイリスさん。

 ジークの斬撃が至高かはともかく、彼女が彼の考えをだいたい言ってくれた。

それにしても。


(これは判断に迷うな。ミハエルの錬金の秘薬が微妙なのか、はたまた素体となった冒険者が微妙なのか……まぁ、おそらくは)


 後者に違いない。

 人造竜タイラントや、アハトを見る限り――ミハエルは腕だけは確かだ。


(それともあれか? これがミハエルの作戦だったのか?)


 ジークは視線を、先ほどまでミハエルが居た場所へと向ける。

すると当然、そこにミハエルの姿はない。


(俺を亜然とさせている間に逃げる……もし狙ったなら、敵ながら見事だな。完全に俺の真理を見抜き、利用した作戦といえる)


 もっとも今からでも、ミハエルを追えば確実に追いつく。

 だが、それはこの場に居る全員を置き去りにした場合だ。

 けれど、当然――そんな事をすれば、ここに居る全員は爆発に巻き込まれる。


《ヒヒイロカネ》を身体に流しているミハエル。

そんな奴が作った錬成陣だ。

 ジーク以外が受けて、無事ですむわけがない。


(やっぱり論外だな。ミハエルの命と、仲間の命じゃ釣り合いが取れない)


 それに、ここには捕まっていた人々も居るのだから。

 ジークとしては興味ないが、彼等を助けるのはアハトとの約束だ。


「ジークくん、なんだか爆発しそうだよ! どんどん放電が強まってる!」


「ふぁ……お、おっと! あは♪ 魔王様が居る安心感から、あくびが……危ない危ないっ」


「まおう様……このままだと、いい人間が危ない。ブランでも守り切れない……っ」


「勝手なわたしを、助けに来てくれたことは礼を言います! ですがこの状況……どうするのですか!?」


 と、言ってくるのはユウナ、アイリス、ブラン、そしてアハトだ。

 一名を除いた三人は、それぞれの様子で慌てている。

 それも仕方のない事に違いない。


 なんせ、まだ爆発していないにもかかわらず、巻き起こっている件の放電。

 それは周囲の地面や壁、実験器具に襲いかかり、破壊し続けているのだから。


「ひ、ひぃ! な、なんだこれ――ぐぁ!?」


「だ、ダメだ! た、助け――っ!?」


 と、聞こえてくるのは、ミハエルの部下のクソ冒険者達の声。

 当然、彼等も地面などと同様、放電に襲われ傷を負っていっている。

 住民やユウナ達が無事な理由は一つ。


(放電が飛んでくる場所を、いちいち斬って防御してるけど、面倒になってきたな)


 もうこの数秒で、かれこれ二百回ほど剣を振っている。

 そろそろ爆発もしそうなことだ――一気に決めさせてもらおう。


「下位闇魔――」


「ジークくん、お願い! 冒険者さん達も助けてあげて!」


 と、ジークの言葉を遮るように聞こえてくるのはユウナの声。

 ジークは咄嗟に彼女に応じ、使用しようとしていた魔法を取りやめる。

 その直後。


 ミハエルの大規模錬成。そこから這い出たのは、大蛇の様な獄炎。

 それはフロアの至る所から無数に現れ、のたうち回る。

 その度に、放電など話しにならないほどの破壊が巻き起こっていく。


 獄炎のせいで、どんどん崩れてくる天井。

 聞こえてくる住民の悲鳴。

 パニックに陥っている様子の冒険者達。


 だがしかし、それもそう長くは続かなかった。

その理由は簡単。


 ジークは「おほん」っと、咳払い一したのち、大きく息を吐く。

 そして――。


 吸った。


 暴れ狂っている獄炎目がけ、それはもう大きく息を吸った。

 すると、ジークの口にどんどん吸い込まれてくる獄炎。

 やがてそれは――。


「あんなにすごかった炎が、全部消えちゃった!」


「余波で落ちてきていた瓦礫までも……っ、いったいこれは」


 と、驚いた様子のユウナとアハト。

 ジークがしたことは簡単――。


「あ、ありがとう!」


 と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくる住民の声。

 見れば、住民達がジークの方へと集まって来ていた。

 彼等はなんともむず痒くなる視線をジークに向けてくると、そのまま言ってくる。


「あんたのおかげだ! 儂等はみんな死を覚悟したのに、あんたは助けてくれた!」


「別に大したことじゃない」


「いや、大したことさ。英雄だよ……あんたこそが勇者。ミハエルなんかと違う、本物の勇者だよ!」


「やめてくれ……さすがに寒気がする。それに、俺は約束を守っただけだ」


「約束? それはいったい――」


「お前達を最初に助けようとしたのは……俺を動かしたのは」


 言って、ジークはアハトへと視線を向ける。

 すると、彼女はあわあわしたのち、視線をぷいっと逸らしてしまう。

 きっと、照れているに違いない。

 だがしかし、住民達もバカではないのだ――そんな事をしても気がつく。


「そうだ、あんただ!」


「あの子があたし達にきっかけをくれたんだよ!」


「女神だ……救いの女神。私達を解放してくれた!」


 直後、住民達は「女神女神」と口々に発し、アハトに群がっていく。

 彼女は困り顔だが、その裏には喜びがはっきりと見える。


(アハトの単独行動は決して褒められたことじゃない)


 だが、彼女が『人々を助けたい』と思った気持ちは、尊くとても美しいものだ。

 かつてミアを通して、ジークが見たもの――本来、勇者が持たなければならないもの。

 アハトに後で言いたいことが山ほどあるが、今横から何か言うのは無粋に違いない。

 などなど、ジークがそんな事を考えていると。


「おいてめぇ! どうして、俺達を助けやがった!?」


 聞こえてくるのは、冒険者達の声だ。

 彼等は少し離れた位置から、ジークを睨み付けながら言葉を続けてくる。


「俺達はてめぇの敵のはずだ! なのにどうして助けた!? 俺達を舐めてるのか!?」


「そうだな。舐めてるか、舐めてないかで言ったら……舐めてるな」


「っ……ぶっ殺してやる!」


「拾った命を捨てるとは、とことん現代の冒険者はクズでバカだな」


「黙――」


「待って!」


 と、ジークと冒険者達の間に割って入ってくるユウナ。

 彼女は何故か、ジークに礼と詫びを入れてきた後、冒険者達へと言う。


「お願い。もしできるのなら……心を入れ替えて」


「あぁ!? なんだてめぇ……は。いや……たしか、てめぇは魔王野郎に『俺達を助けろ』って言ってた女」


「あなた達はミハエルさんを見て来て、どう思ったの?」


「どうって……」


「住民達に酷い事して、攻撃に仲間を巻き込んでも知らんぷり。それに、逃げる時には仲間を捨てるように犠牲にする」


「か、金を……そうだ。そうだ! 俺達は金を貰えれば、なんでもやる!」


 と、まるで迷いを振り切る様に言う冒険者達。

 ユウナはそんな彼等へと言う。


「そんなの……嘘だよ。あたしは見てたよ――ミハエルさんに、他の冒険者さん達が怪物に変えられた時……あなた達が、とても悔しそうな顔をしたの」


「…………」


「中にはとても悲しそうな顔をしている人も居た」


「俺達は――」


「そんな人達が、お金のためなら何でもするなんて……絶対に嘘だよ」


 言って、さらに冒険者達へと近づいていくユウナ。

 彼女は冒険者達の一人――彼の手を取るとそのまま言葉を続ける。


「お願い、自分をそんなに貶めないで。あなた達の中にある正義の心から、目を逸らしたりしないで……あなた達は、本当は優しい冒険者なんだから」


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