第四章 魔王は助けてみる2
そうして、時は数分後。
場所は――。
「ここだ」
「え、えっとジークくん?」
と、聞こえてくるのは、戸惑った様子のユウナの声だ。
彼女はジークへと言葉を続けてくる。
「ここって――普通に街中だよね?」
「あぁ。しいて言うなら、アルスの街の中心部だな。人通りもかなり多いし、通りの左右に店もある商店街だ」
「ど、どういう事かな? さっき『アハトは地下実験施設に居る』って言ってなかった? だからその、あたしてっきり下水道に向かうのかと……」
と、戸惑った様子のユウナ。
彼女の疑問は正しい。
なんせ、地下実験施設への入り口は二つ――下水道か、ミハエルの城。
『侵入』を前提に考える場合は、裏口である下水道を考えるのが普通だ。
だがしかし、ジークの場合は違う。
などなど、ジークはそんな事を――。
「ん……ユウナはまだまだ、まおう様の思考を理解してない。まおう様は目的地に行くのに、そんな回りくどい事はしない」
「あは♪ 魔王様が地下実験施設に行くのに、くっさい下水道を使う訳がないじゃないですか!」
と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、そんなブランとアイリスの声だ。
付き合いが長いだけあり、二人はジークの思考を理解していたに違いない。
故にジークは改めて、ユウナへと言う。
「いいか、ユウナ? 俺達が立っている場所の真下から、アハトの反応があるんだ」
「え、じゃあこの下に地下実験施設があるってこと!? でも、入り口はないし……どうやって行くの?」
「まぁ、それは実際に見た方が早い」
さて、となれば後は簡単だ。
ジークはアイリスの方へと向きなおり、彼女へと言う。
「アイリス、人払いを頼む――俺がやりたいことは、わかっているんだろ?」
「もちろんですとも、全ては魔王様の心のままに!」
言って、くるっとターンするアイリス。
彼女はそのまま、ジっと周囲の人々へと視線を向ける。
その直後。
「あんなにあった人通りが、なくなっちゃった! すごい、人っ子一人歩いてない!」
と、驚いた様子のユウナの言う通りだ。
アイリスが精神操作魔法を使い、通りの人々をダッシュで遠くへと退避させたのだ。
さて、どうしてジークはアイリスにそんな事をさせたのか。
それは簡単だ。
「アイリス。降りる時は、ユウナとブランを抱えてやってくれ」
「えぇ~~~! 重労働じゃないですか! でも、やらせていただきますとも! 魔王様のためなら!」
ハグっと、ユウナとブランの腰を抱くアイリス。
ジークはそれを見た後、地面へと手を翳す……そして。
「下位闇魔法 《シャドーフレア》」
ジークの手から放たれたのは、闇色の炎。
それは凄まじい速度で地面を伝い、いく筋も放射線状に広がっていき。
爆ぜた。
巻き起こったのは凄まじい連続爆発。
立ち上るのは、空を落とすほどの火柱。
鳴りやまない怒涛の爆音。
時間にして数秒。
ジークの魔法が収まった頃には。
「ざっとこんなものか」
ジークの目の前には、大穴が開いていた。
無論、この穴が続いている先は地下実験施設だ。
要するに、これこそが先の答だ。
(下水道からの潜入は論外、する必要がない。城側から堂々と入るのもいいが、それだと時間がかかる……だったら、するべきことは一つ)
地下実験施設――そのアハトが居る真上に、直通の入り口を作ってやればいいのだ。
ジークはそんな事を考えた後、大穴の中へと飛び降りるのだった。
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