第四章 魔王は助けてみる
時は遡る事少し前――ユウナがジーク達の部屋に飛び込んできた僅か後。
場所は変わらずアルスの街の廃屋――アハトが横になっていた部屋。
現在、ジークはそんな彼女が横になっていたベッドを眺めていた。
「ジークくん、ごめんね。アハトさんがどこかに行っちゃったの……あたしのせいだよね?」
と、言ってくるのはユウナだ。
彼女は申し訳なさ全開といった様子で、ジークへと言葉を続けてくる。
「あたしがもっとちゃんと見ておけば……」
「いや、ユウナは悪くない。だって、お前はアハトのために水を汲みに行ってたんだろ?」
「そう、だけど……」
「お前はただ、アハトに親切にしようとしただけだ。それが悪いはずなんてない」
「でも……」
と、すっかりいつもの元気がなくなっている様子のユウナ。
ジークはそんな彼女へと言葉を続ける。
「何度も言うが、お前は悪くなんていない。もちろん、アハトもな」
大方、アハトは一刻も早く、住民をたすけに行きたい。
そして、ジーク達に迷惑をかけたくない。
などと、そんな事を考えていたに違いない。
もっとも。
「それにだ――正直な話。アハトがここから勝手に出て行くのは、想定通りだ」
「え、それってどういう事?」
「右に同じくですよ! どういうことですかそれ!」
と、ユウナに続いて反応してくるのはアイリスだ。
彼女はジークへと言葉を続けてくる。
「てっきり、アハト探しにめちゃくちゃ時間取られて、魔王様とのイチャコラ時間が減るんだろうな……って、ものすっごい辟易してたんですけど、そうじゃないんですか!?」
「俺がアハトの行動を読めないと思ったか? そして、逃げると想像出来た以上、何も対策してないと思ったか?」
「うっ……た、たしかに!」
「ちなみにだが、ブランは気がついていたみたいだぞ――俺が何をしたか」
「ん……ブランはアイリスと違って、ちゃんとした魔法使いだから……まおう様の魔力の流れがわかってた」
と、ドヤっとした様子のブラン。
それではここは、魔法使いブランに説明してもらうとしよう。
ジークがブランへと説明を促すと、彼女はアイリスへと言葉を続ける。
「まおう様は部屋から出て行く時、アハトの肩に触った」
「声かけた時ですよね?」
「そう……あの時に、まおう様はアハトに刻印を刻んでた――効果は『刻まれた者の位置』が、『刻んだ者にわかる』……ってやつ」
「な、なんと! あの一瞬でそんな刻印を! さっすが魔王様じゃないですか!」
「ん……まおう様はすごい!」
わーわー。
きゃーきゃー。
と、騒いでいるアイリスとブラン。
一方、ユウナはというと。
「じゃ、じゃあアハトさんの居場所って、ジークくんにはもうわかってるの!?」
と、ジークへと詰め寄って来る彼女。
ユウナは『アハトの事はユウナのせいではない』と、ジークから説明を受けてなお――よほど、アハトの事が心配だったに違いない。
相変わらずユウナは優しい。
(さすがは真の勇者ってとこか)
とにかくユウナの心配は、これ以上は無用の心配だ。
なんせ、少し探知に時間はかかったものの。
ジークは先ほどちょうど、アハトの場所を探知完了したのだから。
「場所は街の地下。アハトが言っていた、地下実験施設とやらか」
行くとしたら、ミハエルの城か地下実験施設。
そのどちらかだと、だいたい予想はしていた。
しかし、こうして搾り込めたのは、手間が省けて本当によかった。
そういう意味では、刻印をしかけて置いて万々歳だ。
なお、ジークがアハトの単独行動を読み、それを出来た理由は簡単だ。
(若干の猪突猛進具合はミアに通じるものがある。かつてミアも、傷が治っていないにもかかわらず、仲間を助ける為に俺に挑んできた)
きっと、正義感が強い人物にありがちな行動に違いない。
さらに言うならば。
アハトはやたらと、住民の事を気にかける発言ばかりしていた。
(身体が動く様になったら、飛び出しそうな勢いだったからな……まぁ、実際そうなったわけだが)
なんにせよ、備えあれば憂いなしだ。
ジークはそんな事を考えた後、アイリス達へ言うのだった。
「行くぞ。アハトを助けに行く――あいつとは、約束があるからな」




