表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/207

第三章 アハトの冒険4

 そうして少し後。

 現在。


(住民達の協力もあって、想定していたよりも早く、牢屋からの救出が終わりましたね)


 アハト率いる住民達は地下実験施設の中を進んでいる。

 吹き抜けのある二階建てになっているこの場所。


 一見すると、地下とは思えないほどに整えられ、清潔感のある美しい作りなっている。

 けれど。


(机に並べられた血の付いたメスに、臓物の入った容器……相変わらず趣味の悪い)


 これを見ていると、改めて思う。

 と、アハトが後ろを向けば、そこに居るのは大量の住民達――その数およそ百。


(ミハエル……周囲の村からも人を攫っているのは知っていましたが、まさかこれほどの人数を牢屋に閉じ込めているとは)


 もし、このまま彼等を助けず放置したら。

 彼等全員がミハエルの手にかかって、死んでいたに違いない。


 要するに、先ほどアハトが見た容器の中の臓物。

今アハトが連れている人々が、あの様になっていた可能性があるのだ。


それを想像すると、本当にぞっとする。

 アハトはそんな事を考えた後、前を見る。


(もう少しですね。今いる大部屋を抜ければ、下水道はすぐそこ……このまま、何もないとよいのですが)


 恐れていても何も始まらない。

 仮に何かあれば、アハトが住民達を守ってやればいいのだ。


(幸い……わたしの身体もあと少し動きそうですしね)


 などなど、そんな事を考えるアハト。

彼女は人々を率いて、件の大部屋の中央へと――。


「やぁっ、アハト! 早いうちに来るとは思っていましたけど、こうも早いとは思わなかったですよ」


 聞こえてくるのはミハエルの声。

 見れば、少し離れたテーブルの上に、彼が座っている。

 そんな彼はからからと、楽しそうな様子でアハトへと言ってくる。


「いやまったく、相変わらずの正義感だね。身体もまだまだ不調なんだろう?」


「っ……どうして、おまえがここに居るのですか!」


「どうして? それはだって、ここは僕の実験施設ですからねぇ」


「そういう事を聞いているのではありません!」


「あはははっ! わかってますって、怒らないでよ――冗談、冗談ですよ」


 言って、ミハエルはアハトの方へと近づいてくる。

 その間、アハトはざっと周囲を観察するが。


(いつの間にか、かなりの数の冒険者に、取り囲まれていますね……さすがにこの数を相手にするのは無理があります)


 きっと、冒険者達はミハエルが作った錬金の秘薬なりで、気配を消していたに違いない。

 と、アハトが考えている間にも、すぐ近くまでやってきたミハエル。

 彼はアハトへと、からから笑いながら言ってくる。


「キミは優しくて、正義感がとても強いですからね。すぐにでも、人々を助けるために再度侵入してくると思いましたよ!」


「わたしの行動を……読んでいたのですか?」


「当り前じゃないですか! 仮にも僕は、キミが産まれた時から一緒に生活しているんだよ? 創造主が造形物の感情を、読めない訳がないじゃな――」


「反吐がでます。わたしは一度たりとも、おまえを創造主と思った事などありません」


「あははっ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。僕はキミを大切な造形物だと思っていますよ?」


「……っ」


「なんせ、キミは僕達アルケミー一族が、長年研究してきた大いなる題材の一つ――『勇者ミアのホムンクルス精製』。そのようやく形になった、貴重品なんですから……もっとも、失敗作ではあるけどね」


 言って、更にアハトへと近づいて来るミハエル。

 彼はアハトの耳元で、言葉を続けてくる。


「僕にはキミが必要なんですよ。今後、キミをベースに実験や解剖を進めれば、完璧な『ミアのホムンクルス』を作れるかもしれない」


「だから……ここで、網を張っていたのですか?」


「そうだとも! キミは単純ですからね、ここで張っていれば捕まえられると思っていた」


「簡単に捕まえられるとでも?」


「逆に聞こうか――勇者であるこの僕から、無事に逃げられるとでも?」


「…………」


「…………」


「……っ!」


 アハトは痛みと疲労を堪え、全力で抜剣――狙うはミハエルのがら空きの胴。

 しかし、そんなアハトの攻撃は、ミハエルへは届かない。


「おっと、危ない危ない! 危うく、殺されちゃうところだったじゃないか!」


 バックステップでアハトの斬撃を躱した後、そんな事を言ってくるミハエル。

 アハトはミハエルの言葉を無視して、彼へと言う。


「わたしは今ここで、おまえを倒す。頭のおまえを倒せば、他の冒険者は烏合と化す!」


「やってみるといいよ、アハト」


「言われなくとも!」


 言って、アハトはミハエル倒すため――彼へと追撃を繰り出す、準備をするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ