第三章 アハトの冒険3
そうして、時は更に後。
場所は下水道の先――地下実験施設。
アハトは数多くのトラップを掻い潜り、必要とあれば多くの冒険者を打倒し……ついに。
「おまえ達、助けにきました。大丈夫ですか?」
「お、お嬢ちゃんは……たしかミハエルの」
と、牢の中から怪訝な様子の視線を、アハトに向けてくる人々。
それも仕方のない事だ。
彼等にとってのアハトは、ミハエルの忠実な部下なのだから。
故にアハトはなるべく優しい口調を意識し、彼等へと言う。
「心からは信じられないかもしれません。ですが、どうか今は少しでも信じてください。わたしはおまえ達の味方です」
「ふ、ふざけるな! 儂は覚えとるぞ! お嬢ちゃんが……儂等の助けを求める声にそっぽを向いて、ミハエルに従っていたのを!」
「今さら何を言っても、言い訳に聞こえると思いますが……わたしは、おまえ達を救い出せるタイミングを見計らっていたのです」
「そんなこと――っ!」
「なら信じなくても構いません。今からわたしが、おまえ達をここから出す――そして、とにかくわたしについてきてください」
言って、アハトは剣を引き抜く。
そして、彼女はそれをやや大きく構えながら、人々へと言う。
「理由はあれ、わたしがおまえ達に背を向けたのは事実――無事に脱出した後で、罰は受けます。わたしを好きに甚振って、殺してくれても構いません」
「どうして、そこまで儂等を……」
「わたしの中にある正義の心が、おまえ達を助けろと――叫んでいるからです」
言って、アハトは剣を振るう。
一秒にも満たない時間で十二度、牢の鉄格子を切りまくる。
その結果、完全に破壊された牢。
そこから出て来たのは、捕まっていた街の住民達――およそ十名。
「本当に……助けて、くれるのか?」
と、言ってくるのは住民の一人。
アハトはそんな彼へと言う。
「助けます。このわたしの命に代えても――ですからどうか」
「信じるとも、儂等のために命を捨てる覚悟をしてくれた人を……信じないわけがない」
「ありがとう、わたしを信じてくれて……ですが、まだ安心だけはしないでください」
言って、アハトは周囲にまだまだある牢を順に見ていく。
ミハエルが、脱走に気がつくまでに全ての牢を破壊する。
そして、中の人々を全員助けた後に、下水道から脱出する。
(難度は高いですが、決して不可能ではないはず)
などなど。
アハトがそんな事を考えていると。
「儂等にもなにか、出来ることはないか?」
「そうよ! 戦えるとはいえ、あなたみたいな女の子ばかりに任せていられないわ!」
「そうだ! 全員で協力して逃げるぞ!」
「僕も、僕も何かしたい!」
と、次々に上がる住民達の声。
アハトはそんな彼等へと言う。
「それならば――牢はわたしが破壊していきますので、おまえ達は中の人の誘導を。パニックになって、逃げださないよう一か所に集めてください!」
「他には!?」
「おそらく、中には動けない者もいるはずです。彼等に手を貸してあげてください」
「お、俺達は何をすればいい!?」
「念のため、入り口を見張っていてください。誰か来る気配があれば、すぐにわたしに知らせてください――くれぐれも自分達だけで、戦おうとしないでください」
「わかった、任せてくれ!」
と、次々に動き出す人々。
アハトはそれを見て、何か大きな力の様なものを感じた。
(わたしの様な偽物の言葉に、こうまで多くの人々が協力してくれるなんて)
こんなに嬉しい事はない。
きっと、この作戦は成功する……いや、成功させてみせる。
アハトは再度、その決意を決め次の牢へと向かうのだった。
人々を救うために。
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