第81話 夢で会いませう
☆雪枝視点〜
さてさて、今日も私の密かなお楽しみ、お兄ちゃんの夢日記を拝見するとしますか。お兄ちゃんは嫌がっていたけど、私が言った通りきっちりと見た夢を見た通りに書いてくれているんだよね。
あの朝食時、お兄ちゃんはほんの雑談のつもりで夢の話をしたみたいだけど。でも、斉藤さんから聞いたお兄ちゃんが子供の頃見た夢の話も合わせて考えると、これらが単なる夢ではなく、そもそもが謎多いお兄ちゃんの深層心理とか内面世界とかに迫る鍵になると私には思えたのだ。
どれどれ、最新の、昨日の夢はどんなのかな?
『水盃を乾し、滑走路に叩きつけて割ると、俺は隊長の「搭乗!」の命令で愛機に乗り込んだ。今日は誉エンジンの調子も良さそうだ。俺は機体共々世話になった整備員に礼を言って風防を閉めた。 視界の端には日の丸の小旗を振る地元の女子高生達が見える。俺達の死によってこの娘達が生き残れるのならば、それも良いだろう。 ー略ー 開聞岳、そして黒島を過ぎた。天候の回復が遅れたため、沖縄上空に至る頃は陽が傾いているだろうか。 ー略ー 沖縄周辺海域の上空に至れば西の空は紅に染まりつつあった。待ち伏せの米艦載機群と友軍の直掩隊との空戦が始まる。 ー空中戦の描写・略ー ここまで一緒に来た僚機が対空砲火の直撃を受けて一瞬で爆散した。上松一飛曹、世話になったな、俺もすぐ行く。俺は上松機の撃墜により一瞬空いた弾幕の切れ間を縫って右下方へ機体を旋回させると、エンジン出力を上げ、海上に白い航跡を描き取舵で回避運動をする輸送艦へ急降下で突っ込んだ。』
「…」
名前はわからないけど、この人は大日本帝国海軍の戦闘機パイロット。海軍兵学校を出てからパイロットの道を進み、エースパイロットとして活躍するも戦局は遂に彼をも特攻隊員とするに至った。これが"この人"に関してお兄ちゃんが見た夢。この人が子供の頃からの夢が続いていたけど、遂に戦死してしまった。
お兄ちゃんに夢日記を始めて貰ってから一ヶ月ちょっと。毎晩夢を見ているようで、随分と書き溜められている。お兄ちゃんの夢日記を現時点でその内容を分析してみると、主役となる登場人物は6人。そのいずれもお兄ちゃんではない。しかし、お兄ちゃんはそれぞれの人物として夢を語っている。
一人目は夢日記のきっかけとなった古代日本の神武東征に従軍した大友氏、若しくは久米氏出身の武人。
二人目もやはり古代日本の武人。白村江の戦いで船を失い、敗残兵と現地の倭人を率いて帰国のため半島を南下した苦労人。どうにか船を手に入れるも、船出の際に現地の百済人の裏切りに合い、船を守って戦死した。
三人目。平安時代だと思う。その人は北面の武士か滝口の武士。突然現れ都を襲った鬼の群と戦い、最後は鬼の王と刺し違えて御所を守り抜いて戦死している。
四人目。時代はやや下って鎌倉時代。おそらく九州の御家人で弓の達人。弓兵を率いて矢衾により博多に上陸した蒙古軍を迎え撃ち、上陸部隊を大宰府に寄せ付けず、蒙古軍に船への撤収を余儀無くさせた(その後は史実の通り)。本人は蒙古軍の毒矢により戦死した。
五人目は幕末維新で活躍した士族。会津藩士として藩主松平容保公に従い新選組と共に京の治安維持に尽力し、鳥羽伏見の戦い、会津戦争を戦い抜いた。斗南に行くを潔しとせず、西南戦争の勃発により警視庁に入庁、抜刀隊員として田原坂を薩軍から奪取するも撤退する薩軍に狙撃され戦死した。
六人目は第二次世界大戦時。大日本帝国海軍の戦闘機パイロット。エースとして抜群の戦果を挙げるも、最期は特攻隊員として沖縄沖の海域で米海軍の戦車揚陸艦に突入し、見事撃沈させて散華した。
これらの人生一つ一つが壮絶な物語だ。どの夢、どの人生も映画化決定してしまいそうな程。特に私のお気に入りは六人目の戦闘機パイロット。時代が近いのでわかりやすいし、海軍士官らしくスマートで活躍ぶりが読んでいてワクワクした。まあ、残念ながら昨日の夢で戦死してしまったのだけど。
私には彼等六人がお兄ちゃんの前世なのではないかと思えてしまうのだ。人の魂というものが一体どこから来るのか?どこを始まりとするのか?そして最終的にはどこへ行くのか?また、生まれ変わり、輪廻転生はあるのか?誰にも確かな事はわからないし、現代の科学では解明も証明も出来ない。お兄ちゃんに加護を授けたこの満峰神社の神様に尋ねたならば、その答えを聞くことも出来るかもしれない。まあ、私如きじゃあその機会があるとも思えないけど。
仮に彼等六人をお兄ちゃんの前世と考えるならば、お兄ちゃんの魂は七生報国の言葉通り、何度も何度も生まれ変わってこの国を守るために戦っている、という事だろうか?
そして今世で七度目。お兄ちゃんはこの七度目の生でも戦っている。それは自分を守るためであり、お兄ちゃんが大切に思っている人達(勿論、私も含まれるし)を守るためだけど。今迄の六人が皆か皆、この国を守るために戦っている事から考えると、多分、これからお兄ちゃんはこの国を守るために戦うのかもしれない。いや、七度目という特別な数をもって考えれば日本一国に限らず、これまで以上に強く邪悪な敵から世界を救う戦いを!とかね。
それは強ち冗談じゃなく、そう考えるとお兄ちゃんを取り巻く状況について鍵がカチリとはまるように、パズルのピースが合うように、私には全てが理解出来た。七度目の生、七度目の戦いは人ならざるモノとの戦い(仮)だ。きっと兄だけでは勝てないのかもしれない。だからお兄ちゃんには沢山の女の人が引き寄せられるように集まって、みんな恋人になっている。日本にはかつて斎宮とかおなり神(沖縄)とか、荒ぶる男の魂を守る女性がいたという。誰の思惑かはわからないけど、きっとお兄ちゃんの恋人達(まぁ私も含めよう。だっておなり神は妹だっていうしね)はお兄ちゃんに対してそうした役割を持っているのだろう。お兄ちゃんの魂を守るために。
お兄ちゃんの夢日記から仮定に仮定を重ねて導き出したこの結論。一応エーリカさん達にも話しておこうと思う。みんなにはそんな馬鹿な、とか思われるかもしれないけど、私が変な奴と思われるくらいはどうという事はない。それよりもそういう可能性もあるという事をみんなにも知っていて欲しいから。
後日、みんなにこの話をしたら案外あっけなく信じて貰えた。むしろみんな、
「リュータは」
「竜太は」
「先輩は」
「リュータさんは」
「…リュータは」
「「「「「私達が守る!」」」」」
と鼻息も荒く誓い合っていた程だ。
こうしてこのメンバーによる通称「リュータを守る会」が本人に秘密裏に結成された。これによってみんなの絆がさらに強くなったのは結果オーライで良かったと思う。ただ気になったのはサキちゃんが言ったこの言葉。
「今のリュータさんが七回目の転生という事は、私達って今六人だから、これからもう一人増えるって事、ですかね?」
「「「「「……」」」」」
それは想定外。サキちゃんが何気無く言ったこの言葉、果たして予言となるのか、杞憂で終わるのか。私にとっても義姉になる女性の事だから気が気じゃないな。
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