第80話 あの人達は今…
あのモンスターアタックが起きてから約三年が経過した。アースラ諸族連合は上手く機能していて、転移者達の生活も順調のようだ。
今では食糧生産も行われていて、元の地権者がモンスターアタックで死亡したり、避難していたりして耕作放棄されていた耕作地が転移者達によって再び耕され、小麦やじゃが芋などの収穫がなされるようになった。また、逃げて野生化していた鶏、兎、豚、山羊などを捕まえて家畜の飼育も始まった。アースラ諸族連合は徐々に自立への道を歩み出していた。
そして、警備隊はアルベルトさん指揮の元で周囲の魔物狩りを押し進め、転移者達の居住地を広げている。今では県境を跨いだ山梨側の広瀬湖や東京都の雲取山辺りまでが魔物の脅威が無い安全地帯となっている。
満峰神社にも随分と人が増えている。国防省、厚生労働省、警察庁からの魔法研修生。常駐する厚生労働省の医療研究チームや文部科学省の研究チーム。文科省からは害獣出現特別封鎖地区の調査隊も来るため、それらのベースとなる宿坊も賑わってしまっている。
そうした国からの常駐者や調査隊の護衛も警備隊が務めている。また、宿坊も駒木さん夫婦だけでは回らなくなってしまったので転移者達(主に狼獣人達)を雇用して宿泊内のサービスを行なっている。勿論、宿泊を利用する各省庁から宿坊の使用料が支払われる事は言うまでも無い。
日本国内でもアースラ諸族連合は既に知られた存在となっている。何故なら、満峰神社からSNSの動画投稿サイトへ定期的に転移者達の日常やイベントなどの動画を投稿しているからだ。何と言っても日本人は獣人萌え、エルフスキーなどのファンタジー大好き人間が多い。なので、転移者達はあっという間に受け入れられ、今や大人気だ。
今西少佐(昇任)や竹内中尉(連絡官として現場復帰)によると、国防省や陸軍には一時はマスコミからの取材依頼が殺到したとか。勿論、現地は魔物の危険があるとして一切の許可は出していないし、出す予定も今のところは無いそうだ。しかし、中には転移者達と接触を図ろうと、マスコミの取材班や獣人好きすぎな連中が無謀にも害特封地に侵入したりもしたとか。
アースラ諸族連合発足と共に転移者達の捜索、保護、生活の立て直し等の件からお役御免となった俺達は、魔法の修行・研究、遠距離偵察、陸軍の戦術魔法教官として研修生への魔法教育などに専念した。
とはいえ、皆それぞれに立場や身分もある。舞と雪枝は大学生であり、真琴は陸軍の軍人としての仕事(現地の情報収集、分析、報告など)がある。エーリカはユーリカと共に父親である村長から直々にエルフのサバール村再建への協力を求められて宿坊にいる事がやや少なくなった。ハーレムキングなどとかつては呼ばれた俺だが、今や俺と四六時中一緒にいるのは俺の秘書を自認するサキと、俺とキャストン家との連絡官を自認するアーニャの二人。そのため、この2人に俺は自分のスケジュールやら動向やらをガッチリ掴まれていたりする。
秩父特別駐屯地への魔物の大規模襲撃はあれ以来起こっていない。しかし、甲府や長野の方では魔物が増えていた。そして、俺達が文部科学省の調査隊エスコートのため同行したところ、魔物ばかりかこちらの世界に出張っている魔王国軍の部隊と遭遇してしまったのだ。
それは大月辺りでの事。大規模は部隊ではなかったが、鬼ばかりのその部隊を率いていたのは、魔王国のカイネル第一王子の四人いる側近(四天王とか言った方が格好いい?)の一人で、関羽みたいな筋肉ムキムキな奴だった。
俺達には同行していた文科省の調査隊がおり、調査隊の観測資機材等(かなり高価との事)もあったので、出来ればそのまま発見されずにやり過ごしたかった。しかし、魔族の姿に恐怖に駆られた調査隊の一人が大声を上げて逃げ出したため、止むを得ず交戦する事でとなったのだ。
その魔王国軍は比較的小規模な部隊であり、何かしら任務の途上といった感じであった。俺達にしても文科省の調査隊のエスコートが主任務であり、戦う事が目的ではない。なので、この場合は何事も無くお互い無傷で引き揚げたいところ。しかし、魔王国軍の大将も部下の手前だからかやる気を見せていたし、こちらも仲間や調査隊の手前があって弱気は見せられない。
どうにか双方引ける方法は無いものかと考え、俺は古典的な一騎打ちを申し入れると、敵の大将はこれに上手く乗ってくれたのだ。
「やあやあ我こそは赤鬼族にその者有りと音に聞こえし魔王国第一王子カイネル殿下の四天王が一人、剛腕のガウォーキである。貴様の挑戦うけようぞ!」
(いや、なんで魔王国軍の名乗りってこんなに時代がかってるのだろうか?前の奴、ビク・ザムだっけ?グワ・ジンだっけ?もまるで鎌倉武士みたいだったしな。)
俺の名乗りは恥ずかしいから省略。結果的には互いに鍔迫り合いの最中にこそっと、
「ここらで引かないか?」
「それが良かろう。」
と話がつき、「憶えていろ!」だの「次は容赦せん!」とか捨て台詞を吐きあって引き揚げたのだった。
第一王子の側近という大物が、何かしら隠密行動をしていた件は国防省に報告した。どうも魔王国軍は甲府や長野の辺りで何かしらを企てているようだった。国防軍が偵察衛星やドローンで上空から害特封地を常時見張っているだろうから、魔王国軍も小規模な部隊で隠密行動をとったのだろうか?
いずれにせよ、モンスターアタックから三年が経過し、こちらの態勢も整いつつも、魔王国軍も新たな動きを見せつつあった。
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