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第79話 居眠れば奴を見る

このところ、よく夢を見る。夢なんて子供の頃はよほど印象的な内容でもない限り、翌朝目が醒め、トイレで大小済ませて歯でも磨いている頃にはすっかり忘れているものだ。あれ?どんな夢だったっけ?まっいいか、ってなもんである。


それでも憶えていて、学校で友達にこんな夢見たぜ!と話しても、それは夢の断片であり、結局のところ自分が見た夢の全容は知りようがない。


また、小学生も高学年になると、そうして話した夢の断片を頼みもしないのに「それはフロイト心理学で分析すると云々」と聞きかじった知識で知ったかぶって分析し出す奴もいたりしてうんざりだった。なので、すっかり俺は自分が見た夢を他者に話すなんて事はしなくなった。


では、25歳にもなってどんな夢を見たかというと、自分の夢でありながら土方竜太という"俺"は全く登場しない。つまり、俺は夢の中では俺ではない他者となっていて、その他者目線でストーリーが展開されて行く。そして、主役の他者は6人いて、場所は日本であるも時代はそれぞれ違い、遙か古代から近代までと様々だった。


例えば初めて見た夢はこんな感じだった。


ー 俺達を乗せた何十艘もの軍船は内海を陸伝いに東へと進み、やがて大きな湾を渡りきると、遂に高く聳える山々を背負った浜に上陸を果たした。

 だが、偉大なる我が大王(おおきみ)の元、目的の地を攻むるべく太陽に向かって山道を進む俺達は、現地の敵対勢力に待ち伏せされて四方から矢の集中攻撃を受けてしまった。

 この事態に、俺は咄嗟に我が大王を押し倒して覆い被さり、自らの体に矢を浴びて敵の矢から我が大王を守る事が出来た。

 体中の矢傷には焼けるような激痛があり、胸の内からは血がこみ上げて口から溢れた。そのため喋る事叶わず、息も出来ない。我が大王は俺の無礼をお咎めにはならず、伸ばした俺の手を取られると、俺の眼を見て黙って頷かれた。そして再起を図るため足早にその場から去って行かれたのだった。

 この戦は失敗だった。我が大王は太陽の御子。俺達は太陽を背にしてこそ戦うべきだったのだ。そう思いながらも、俺は一命にかけて我が大王を御守り奉り、その辺で死ぬ満足感を抱き、我が大王の勝利と弥栄を願って命が果てた。ーというものだった。



「う〜ん、歴史についてはリュウの方が詳しいだろうが、それは記紀神話の神武東征じゃないのか?」


とある朝食の席の事。深い意味は無く、俺がそうした夢の話をすると、斉藤はそのように感想を述べた。そして更に懐かしそうな表情を浮かべて俺の小学生時代の頃の話を喋り出したのだ。


「リュウが夢の話をするなんて何年振りだよ?子供の頃はよく朝一で、俺さぁスッゲー夢見ちってさぁ、とか言って自慢げに話してたのにな。」


「そんな馬鹿っぽくは言ってないだろ。」


そんな話題を出せばみんな喰いつこうというものだ。


「えーっ、リュータさん、可愛い!」

「…うん、リュータ、可愛い。」

「先輩、私には将来の夢を語ってくれてもいいんですよ?」

「今の竜太からは想像つかないわね。」

「ねえタケ、リュータはどんな夢を話してたの?」


エーリカに尋ねられた斉藤はニヤリと笑みを浮かべると、黒歴史という程ではないにせよ、それなりに恥ずかしい小学生時代の話を始めた。


「何か、自分が侍で鬼と戦ったとか、海を渡って攻めて来た敵と戦ったとか、戦闘機に乗って戦ったとか。兎に角、自分が戦って活躍する内容が多かったよ。なあ?」


なあ?と言われてもな。しかし、改めて言われると内容が厨二っぽくて恥ずかしくなってくる。皆もへぇ〜と言いながらもニヤニヤ俺を見るのは是非やめて欲しい。


「だけど、いつからか全然そういう話をしなくなったんだよな。」


「そりゃあ、お前が妙な夢診断とか分析とかしだして、やたら俺を欲求不満人間に仕立て上げたからだろ。」


「そうだったか。それは済まんな。俺も知った知識を活用したかったもんでな。まっ、お互い子供だったって事だな。」


いや、何お前、どっちもどっちみたいに場を治めてるんだよ、まあいいけど。


それでこの話は終わるかと思いきや、思わぬ伏兵が潜んでいた。雪枝はまだ終わらせないとばかりに、意外な解釈で斬り込んできたのだ。


「でもお兄ちゃん、さっき言った夢の内容からすると、斉藤さんが言ったように明らかに舞台は古代日本で、神武東征でのエピソードでしょ?」


「まあ、多分な。妙にリアルだったよ。」


「斉藤さんが言ったお兄ちゃんの子供の頃見た夢も、断片的だけど過去の日本での話っぽいじゃない?」


「うん。あまり憶えちゃいないけど、そうだね。」


「じゃあさ、古典的な手法だけど、これからそういう夢見たらすぐノートに書き残してみれば?なんか関連しているかもしれないし。」


「う〜ん、めんど「面倒臭いとか言わない!」わかりました。」


「うん、じゃあそれ私にも見せてね?」


「ええっ、25歳にもなって夢ノートなんか書いて、尚且つ、それを妹に見られるとか、それなんて罰ゲームだよ?嫌だよ!」


「えーっ、見せてよお兄ちゃぁん。何か面白い研究テーマになりそうだし、お願い?」


随分とおねだりが上手くなったようだな、妹よ。美人で可愛い妹に上目使いで「お兄ちゃぁん、お願い?」とか言われると実に断り辛い。


モンスターアタックから三年が過ぎた。雪枝は今、俺と斉藤の母校である若松大学に入学し、心理学部の一年生となっている。通信制だから通学の必要が無く、授業もオンラインだ。


結局、俺は夢ノートを付けて雪枝に見せるハメとなった。斉藤は妹に甘い奴だとからかい、エーリカ達も何故か俺の夢ノートを見る前提で話が盛り上がっていた。


この時は朝食時のほんの雑談といった感じで終わった。俺は余計な話をして変な約束させられちまったな、くらいにしか思わなかったのだが。




 

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