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第78話 トッド、撃進!

俺の名はトッド、トッド・ヘイワード。ボストン出身で、24歳になる。東部の名門プリンストン大学で法律を学んでいた俺は、訳あって今はCIAの工作員になっている。大学を出て弁護士として成功する事を夢見ていた俺だったが、ほんの些細な好奇心、というか魔が差した事によって全てを失い、現在は気に食わない奴等に顎で使われている。


「やあ、トッド。待たせてしまったかな?」

「いえ、それほどでも。」


その男は、俺を待たせている執務室に入るなり取ってつけたような明るい調子でそう俺に尋ねた。相変わらず嫌味な奴だ。人を30分近くも待たせておいて、一体どの口がそんな事を言うんだか。


「私が来るまでの間に、まさか変な薬なんてキメてないだろうね?」

「ハハハ、ご冗談を。」


クソが!誰のせいでこうなっていると思ってるんだ。


今から三年前、まだ大学三年生だった俺は、パブで知り合った友人に言葉巧みに覚醒剤を勧められ、好奇心から覚醒剤に手を出してしまったのだ。そして

、その友人宅で他の仲間と覚醒剤を炙りで吸引しようというその時、司法の捜査の手が入り、そのまま逮捕されてしまったのだ。


室内には覚醒剤と吸引するための道具があり、俺自身も覚醒剤を渡されて所持していたため、その状況ではどんな言い訳も通用せず、また、友人に誘われただけの俺は覚醒剤の製造や売買に関する情報など何も知らなかったため司法取引の対象ともならならなかった。おそらく、どんな敏腕弁護士を雇ったとしても俺の実刑は間逃れず、俺は自分の愚かさを呪い、後悔するしたなかった。


そんな俺の窮地を救ったのがこの嫌味な上司イェーガーだった。本名かどうかもわからないこの痩せた中年の白人男性は、収監されていた俺を訪ねると、「自分はCIAに勤めていて、私が君の身柄を引き受ける事で君を窮状から救えるかもしれない」と言い出した。


後悔と絶望の底にいた俺にとって、それは地獄の暗黒に差す一条の光の階だった。俺は迷う事無く、奴から差し伸べられた手を取った。


その結果は現状の通り。その後、俺は突然釈放され、大学は卒業出来たものの、就職先はニューヨークの大手法律事務所ではなく、CIA。それもイェーガーの部下としてだった。


おそらく、あの覚醒剤事件がCIA、若しくはイェーガーが仕組んだ罠だったのだ。どのようにしてか知らないが、俺に"魅了"の能力がある事を知り、俺を取り込んで便利使いするために。


勿論、何の証拠も無い。しかし、俺に覚醒剤を勧めた友人には二度と会えていないし、待っていたかのように俺の任務は魅了を使ったものばかりだ。まあ、イェーガーを問い詰めたところですっとぼけられるのがオチだろう。



「さて、どうも君は私の事が嫌いらしいから、要件は手短にしようか。」


イェーガーはそう嫌味な前置きをすると、漸く俺に椅子を勧めた。


「日本にはモンスター以外にも様々な人型の知的生命体が出現している事は知っているな?」

「はい、勿論。」


SNSの動画サイトでも日本から投稿された幾つかのそうした動画を見る事が出来、話題となっている。


「日本政府は彼等を保護して友好関係を築き、モンスターが現れる閉鎖地区内で彼等の自治まで許可している。日本では彼等は転移者と呼ばれているそうだ。別の世界から転移して来たという事らしい。これに倣ってここでは彼等の事を便宜上転移者と呼ぶ事とする。転移者の中には特殊な能力を持つ者達もおり、日本人はその特殊能力を魔法と呼び、情報では転移者と接触した日本人の中には彼等から魔法を習い、使えるようになった者もいるようだ。」


「炎を纏った男がオークキングを一撃で倒した動画を見た事があります。」


それはモンスターアタックが始まった頃に投稿された動画で、当時は話題になったものだ。


イェーガーは「見たまえ」と言うや、壁掛けのテレビ画面にその動画を再生した。うん、これは何度か見ている炎を纏った男の動画。次いで再生された動画は、場所はどこかの公園。大勢の観客を前に、舞台上には民族衣装を着た二人の女性が立ち、やがてギターの演奏をバックに歌を歌い始める。二人の女性は金髪と銀髪の一見白人の美しい少女達だが、顔がアップに映し出されると彼女達の両耳は長く尖っていた。人間ではなく、ファンタジー作品に登場するエルフのようだ。


彼女達の歌はとても美しく澄んだ声で、どこか寂しく、それでいて力強さを感じる不思議な旋律な曲だ。しかし、その歌は何を言っているのか全くわからない。曲が終わると観客から大歓声が湧き上がりる。そして、その観客達にアングルが移ると皆頭に獣の耳があったりと人間ではない事が見て取れた。


「見ての通り彼女達は人間ではない。無論、耳が尖っているからといってバルカン星人でもないがね。」


ここは笑った方が良いのだろうか?判断に迷うところだが、俺は構わず話を進めた。


「エルフという種族ですか?」


「ほう、知っているのか?意外だな。」


イェーガーは某スペースオペラネタをスルーされた事には触れなかった。まあ、俺だって『指輪物語』の最初くらいは目を通している。もっとも、すぐに劇場版を見てしまったが。


「日本の国防軍や中央官庁の協力者からの情報では、このエルフ女性達が最初に日本人に魔法を伝えたようだ。この舞台の後で軍服姿でギターを弾く男がそうだ。画像を分析し、炎を纏った男と同一人物である事が確認された。」


「軍服を着ているという事は、日本の国防軍はその男を軍人として取り込んだという事ですか?」


「どうもそのようだ。更にこの男から魔法を習って魔法を使えるようになった兵士もいて、魔法能力者による特殊部隊まで編成されている。」


三年前のモンスターアタックは本当に酷かった。俺の故郷であるボストンは無事だったが、西海岸も東海岸も大都市は大損害を受け、結局、軍はモンスターの殲滅に失敗した。その結果、モンスターは国内に広く拡散してしまい、物流は停止し、郊外の工場なども破壊されて産業も大損害を受けたのだ。今もモンスターは増えていて、アメリカはもうかつてのアメリカではない。


モンスターアタック当初は予備役も召集した軍や州兵も予算の関係からか召集は解かれている。軍や州兵はインフラや重要施設の防衛で手一杯のようで、今や物流はキャラバンを組み、ハンターの護衛が無ければモンスターや強盗団に襲われてしまう。モンスター狩りもハンター頼りで、まるで西部開拓時代に戻ってしまっている。


それに対して日本は東京を始め重要都市や工業地帯に被害は無く、幾つかの都市が含まれて壊滅するも、モンスターをホンシュウ中央の山岳地帯や盆地に封じ込める事に成功している。更に大陸の反日国家群がモンスターによって滅亡し、ロシアも自国とユーラシア大陸同盟内の事で手一杯だ。


先端技術、工業力、軍事力を温存し、大陸からの侵略の脅威も消えた日本にとり、アメリカからの安全保障はその優先度が下がっていると言ってよく、その日本に更に魔法という未知の技術がもたらされているのだ。上の人達が焦るのも理解出来る。


また、深読みすれば、日本からかつての報復を恐れているのかもしれない。今の祖国には日本による報復に対抗する手段は無い。何故なら、今のアメリカにとって日本こそが近代国家としてのアメリカを保つための命綱だからだ。


「君の任務を伝える。君はこれより日本へ行き、この動画に出ていたエルフ女性達を生かして祖国に連れて来て欲しいのだ。手段は任せる。君の魅了で言いなりにするも良し、脅迫するも良しだ。細かい打ち合わせは担当者と済ませてくれ。質問はあるかね?」


「…では三点確認させて下さい。」

「いいだろう。答えられる事ならな。」


「有難う御座います。それでは、日本に行くまでは良いとして、この転移者達の元へはどのように行けば良いでしょうか?私にはグリーンベレーのような技術も体力もありません。」


「日本政府と交渉し、魔法研修生の枠を三人分確保してある。君は他の二名と共に我が国からの研修生として正面から堂々と現地に赴く事が出来る。」


誘拐なんてしないで、このように多少頭を下げて魔法を教えて貰えばいいんじゃないか?とは思っても口にはしない。


「わかりました。では次の質問ですが、何故今なのでしょうか?先程の動画は前者が撮影されたのは三年前、後者は二年前です。どうも不自然さが拭えません。」


イェーガーは俺の質問を受けて少し考え、一瞬躊躇した様子を見せたものの、やがて答え始めた。


「実は転移者と魔法の存在は、モンスターアタックが発生した早い段階で日本国内の協力者から入手していたのだ。政府は日本が魔法技術を掌握する前に協力者組織を動員し、モンスターアタックの混乱に乗じて彼等の身柄を抑えようと図り、実行したが反撃を食らって失敗している。協力者組織もこの時一斉捜査が入って壊滅した。今回はESP研究所から能力者を参加させて、こちらのESP能力の情報とバーターで日本政府の許可を得た。」


なるほど。既に一度手を出して手痛い反撃を受けていたか。今までの祖国のやり方だと、新しい分野の開発には共同研究を持ちかけて半ば強引に技術を奪ったものだが、もうその手は使えなくなったのだろう。しかし、この任務に失敗したら我が国は永久に魔法が手に入らなくなるが、それはわかっているのだろうか?


「最後に、この任務に成功するにせよ、そうではないにせよ外交問題になりますが、それはよろしいのですか?」


「それは別の者達がどうにかする事だ。君は君のやるべき事をやれば良い。」


それはそうだ。俺はしがない現場担当者でしかないからな。どの道俺には拒否権など無いのだ。


「この任務の要は君の能力だ。これが終われば君は晴れて自由の身になれるだろう。」


「わかりました。やります。」


「そうか、頼んだぞ。」


嫌味な奴だが、こいつは本当に人をその気にさせる名人だ。もしかしたら、そういった能力者なのかもしれない。うまうまと乗せられた自分が腹立たしいが。


それに俺がやる気を出したのは、もう一つ理由がある。あの金髪の女エルフだ。あの美しい女を俺の魅了で好き放題に弄んでやる。汚い事なんて何も知りませんとお高くとまった顔を屈辱で歪ませるのもいいだろう。イェーガーは生かして連れて来いとは言っても、手を出すなとは言っていないからな。転移者などと言っても、所詮は祖国を破壊したモンスターと何が違うのか。奴等こそ真の侵略者かもしれないじゃないか。


一週間後、俺は魔法研修に参加するオスカー・ワイルダーとフレデリカ・ラングレーと共に、離発着便が激減してすっかり寂れてしまったロスアンゼルス国際空港から日本へ向けて飛び立った。











お読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。

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