第76話 コードネームはリッキー
今回から第三章相当パートとなります。引き続き宜しくお願いします。
眼下の国道にはサラマンダーに襲われて横転した大型長距離トラックが黒煙を上げている。積荷は牧場から出荷された肉牛だ。今の私達米国民にとってとても貴重な食糧。それが国民の元へ届く前に、このようにモンスターに襲われて餌食となっている現実。
私の能力"千里眼"には横転したトラックの荷台をその鋭い爪で切り裂き、積荷の肉牛を生きたまま貪り食う二頭のモンスターサラマンダーが映っている。銃弾を跳ね返す黒々とした硬い鱗に覆われ、背中からは一対の翼を生やした炎を吐く巨大なトカゲ。三年前のあの日、私の故郷を襲って燃やし尽くし、両親を食い殺した憎い化け物共。
私は国道を見下ろす丘の中腹で愛用の狙撃銃マクミランTAC-50を構えてボルトを引いた。この距離からの狙撃では奴等の体表には大したダメージは与えられない。だから私は眼を狙う事にしている。いくらサラマンダーであっても眼を撃ち抜いて脳を破壊すれば容易く殺す事が出来るから。
重火器でなければ倒せないサラマンダーを私のような一介のハンターが倒すにはそうするしかない。それには精密な狙撃銃と非凡な狙撃技術が必要となり、普通なら到底不可能な事だ。でも、私なら銃弾の射程距離内だったらそれが可能。何故ならば私にはESP能力"千里眼"があり、奴らを必ず見つけ出し、狙いを定める事が出来るから。
私にはスコープは必要ない。肉牛を汚く食い散らかすサラマンダーに千里眼で狙いを定め、僅かに息を吸って吐き出すと、息を殺して引き金を引いた。
ドンッという衝撃が肩から全身に伝わり、バシューンという銃声が響く。私はその成果を確認する事無く、すかさずもう一頭に狙いを定め同じく引き金を引いた。
私が放った二発の銃弾は高速で回転しながら飛び進む。やがて銃弾はサラマンダーの右眼を撃ち抜き、頭蓋内に侵入して脳を破壊。バタン、バタンと僅かな時間差で力無く崩れる二頭のサラマンダー。これで通算して10頭のサラマンダーを単独で屠った事になる。しかし満足感は無い。
いくらモンスターを、サラマンダーを屠ったところで殺された両親が蘇る事は無い。それはわかっているけど、そしてこの復讐に終わりが無い事もわかっているけど、渇者が水を求めるように、私はモンスターの死を求めて止まない。
「リッキーよりガウリィ隊長。」
"リッキー"は私の会社でのコードネーム。私が無線にて支社で待機する上司を呼び出すも応答は無い。また居眠りでもしているのか、シャワーでも浴びているのか。あの人は全くしょうがない。その後、3回程呼び出しを繰り返すと、漸く応答が入った。
「こちらガウリィだ。リッキー、どうかしたか?」
「ルートXX上にてサラマンダー二頭を仕留めました。確認とトラック運転手の救護を願います。」
「了解した。お手柄だな、リッキー。すぐにドローンを飛ばして救護班を向かわせる。」
「お願いします。」
これで私の任務は終わりだ。今回の任務は、この付近に棲み着いた番のサラマンダーの討伐。サラマンダーが国道を通行するトラックなどを襲って物流が止まってしまったため、この地域にある複数の武装コミュニティの代表と牧場主達から私が所属する民間軍事会社「モンスターバスターズ社」にサラマンダーの討伐依頼がなされた事による。
私の名前はフレデリカ・ラングレー、20歳。ロスアンゼルス市郊外に暮らしていた私は、三年前に起きた最初のモンスターアタックで両親と故郷を失った。当時ハイスクールの2年生だった私はチアリーディング部の大会で地元を離れていたため難を逃れる事が出来た。だけど、両親はサラマンダーに食い殺され、自宅も周囲の家々共々焼き尽くされていたのだ。
当時は両親を失い、自分だけが生き残ってしまった罪悪感で生きる事に絶望していた私だったけど、カルフォルニア州のハイウェイパトロールで白バイ隊員をしている兄が、私が身を寄せていた避難所に相棒のパンチョレロさんと度々来てくれて励ましてくれた。
また、兄から勧められた一本の動画を見て立ち直る事が出来た私は、両親の復讐のため銃を取り、ハイスクール卒業後に民間軍事会社「モンスターバスターズ社」の門を叩いた。私には父譲りの射撃の腕前とESP能力"千里眼"があったから。
私は任務から支社に戻り、すぐに報告書を作成して提出した。大した手間じゃない。私は今日出来る事は今日やる派。そして宿舎に使っている支社に隣接するトレーラーハウスに帰った。
このトレーラーハウスを私は同僚のジェニー・ガースとシェアして住んでいる。ジェニーは私と同い年で、白い肌に赤く長い髪が似合うとても綺麗な女の子だ。彼女は戦闘員の私とは違って武器や車両のメンテナンスを行う技術士で、職種が違うためか私とジェニーは、まあ問題無くやっている。
シャワーを浴び、濡れた髪をドライヤーで乾かす。それから、バスローブ姿のままでソファーに座り、タブレットでお気に入りの動画を見るため動画サイトを開いた。
「またその動画みてるの?好きだねぇ。」
「まぁね。この人は私の希望だからね。」
動画を見る私の後ろからジェニーが私の手元にあるタブレットを覗き込む。私は日常的にこの動画を見る事が多い。それは三年前の日付けで、日本で撮影されたもの。画像はあまり鮮明ではなく、おそらくヘリコプターの機内から窓越しに携帯電話のカメラで撮影されている。
オーク、豚の頭部を持つ大型の人型モンスター。ヘリコプターの機内から見えるのは中でも一際巨大な個体だ。機内の民間人はその巨大オークの出現でパニックになっているけど、この撮影者は動ぜず撮影を続けている。
巨大オークは表現しようのない叫び声を上げると、更にヘリコプターに迫る。だけど、次の瞬間、上空から炎を纏った若い男(全裸)が真っ赤な軌跡を描いて現れる。そして、その若い男(全裸)は全身で流星のように巨大オークを貫くと、巨大オークは一瞬で爆砕されて燃え上がり、動画はそこで終わるのだ。
この動画からでは、この炎を纏った男の顔や風体まではわからない。だけど、それがモンスターのような異形ではなく、人間の若い男性である事は十分わかる。
初めてこの動画を見た時の驚きと感動を今でも憶えている。当時、私はロスアンゼルス市に設けられた避難所で両親を失ったショックのため生ける屍のように無気力な日々を過ごしていた。そんな私を心配した兄は、自身も白バイ隊員としてモンスターアタックの後始末で忙しい中を足繁く私の様子を見に来てくれていた。
そんなある日の事。例によって私を励ましに来てくれた兄は、興奮気味に私に動画サイトからある動画を見せてくれたのだ。全てに興味を失っていた私はあまり見る気もしなかったけど、断るのも悪いしな、そんな感じで見るともなく見た動画。
どうやったらただの人間が一撃であんな巨大なモンスターを倒す事が出来るのか。その動画は結構な再生回数を出したそうで、様々な憶測がなされた。特撮説、CG説、宇宙人説に神の使い説。その中で最も説得力が有ったのは魔法説だった。モンスターが現れる世の中だもの、魔法使いがいたっておかしくないでしょ?と言われてしまえば、ああそうかもと思ってしまえた。そして、この動画に伴って日本にはモンスターだけでなく、色々なファンタジー界の住人達も現れたという噂も有り、それが魔法説を更に補強していた。
私はミドルハイスクールの頃にESP能力が発現している。父と兄と行った猟の最中、猟銃を構えたら遥か彼方のスコープでは見えない距離の鹿が突然目蓋に浮かんだのだ。その後、この事象を元にESP検査を受けたところ、千里眼の能力があると判定された。そうして私はESP研究所に登録され、以来時々実験などに協力してきたのだ。
あの動画で見た魔法には圧倒的なまでの力があった。あの男性がどんな人なのかわからないけど、その魔法の力でモンスターと戦っているのだと思うと、もうじっとしていられなかった。こんな所でいじけている場合ではないのだと。彼に魔法があるのならば、それに遥かに及ばないまでも私には千里眼という能力があるのだ。
その頃には国防総省や州政府からモンスターの討伐を請け負って報酬を得る「ハンター」という職業が出来つつあり、退役軍人協会や全米ライフル協会などの肝煎で全米ハンター協会が発足していた。そしてモンスター討伐には民間軍事会社、各地の民兵隊、プロテスタント系の宗教団体などが競って参入していた。
私は州政府の特別措置で高校を卒業すると、モンスターと戦うため、その足でカルフォルニアに進出した民間軍事会社「モンスターバスターズ社」の門を叩いた。
翌朝、私はジェニーとトーストとスクランブルエッグ、ベーコンで簡単な朝食を摂り、ジェニーが入れてくれたコーヒーを喫していると、今日は休暇であるにも関わらず支社長(=大隊長)から呼び出しがかかった。
(面倒事じゃなければいいんだけど、)
そんな思いで支社長室に出頭。
「大隊長、ガウリィ小隊のフレデリカ・ラングレーです。」
50代の黒人男性で、いつもしかめっ面をしている退役軍人の支社長は大隊長と呼ばないと機嫌が悪くなる。ちょっとだけ苦手だ。しかし、そんな大隊長から掛けられた言葉は意外なものだった。
「フレデリカ・ラングレー隊員。君はESP研究所にESP能力者として登録されているな?」
「はい。会社に提出した履歴書にも記載してあると思いますが?」
「そるはわかっている。君にそのESP研究所からの指名だ。君に日本へ行って魔法を学び、修得して欲しいとの事だ。どうするかね?」
私が驚きで声を出せないでいると、大隊長は珍しく相好を崩して「どうした、嫌なのか?」とからかうように言った。
私はぶるぶると全力で頭を振ると、大隊長はニヤリと笑って説明を続けた。
「魔法に興味があるのだろう?折角の機会を無駄にするな。」
「しかし、私が辞めたら会社は困りませんか?」
これは自惚れでも勘違いでもなく事実。私は入社以来かなりの大型モンスターを屠り、会社の利益に貢献している。
「その点も心配無用だ。勿論我が社のエースを手放すのは惜しいが、その分の損失補填も受けている。出所は言えんがね。」
「はい。お世話になりました。」
「しっかりやってこい。体に気をつけてな。」
大隊長、ちょっと苦手なんて思ってごめんなさい。
私は大隊長に敬礼すると、回れ右をして支社長室から離脱した。そしてオフィスで諸々の説明を受けた後、退社の手続きをして荷造りのためトレーラーハウスに戻った。
日本、日本に行ける。そればかりか魔法まで学べるなんて!私はジェニーに抓って貰った頬の痛みに、これが夢でも妄想でもなく現実である事を実感しつつ、思いを遥か彼方の日本へと馳せた。
(あの人に、私を奮い立たせてくれたあの人に会えるかもしれない)
と、そんな事を考えながら。
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