幕間13 夏が来る扉③
父が生きていて、勿論私は、私だけじゃなく兄上も妹のターニャも喜んだ。父はがっしりとして体も大きく、ハンサムだけど強面で、無頼漢のような物言いをするし、領地と領民を守るためならどんな悪辣な事でもやってのける、敵対する者には恐ろしい男なのだ。
だけど、父が無頼振るのは半ば演技だし、悪辣といってもそれはこちらに敵対する者に対してであって、自ら悪意を持って相手を騙したり、陥れたり、裏切ったりとかは決してしない。娘の私が言うのも何ですが、父は見方になれば頼もしい男なのだ(エヘン)。
父は側室を置く事無く、数年前に母が流行病で亡くなった後も後添えも娶らなかった。父曰く「アシリアよりもいい女なんて有り得ない」んだそうで、その後も私達兄妹を男手ひとつで育ててくれた。
私は父との再会を喜んだと同時に、リュータとより近くなり、いや、それ以上の、エーリカさん達みたいにリュータの恋人の一人になれる最強の切り札になると、そう思った。
父は必ずバローニ兄上と側近のアランさんからこの世界の情勢や、この満峰神社における人間関係などの報告を受けるはず。そしてその中には絶対にリュータについての情報が入っているはずだ(逆に入って無ければ二人の能力を疑うよ!)。であるならば、父ならば必ずリュータ達と良好な関係を築こうとする事は必定なのだ。
しかし、リュータ達はこれからこの山の神様からの神託に依る行動をする者になっていて、これから出来る私達の自治組織とは別行動になるというのだ。だったら、リュータとそれなりに(くっ、今だけだ、きっとそれ以上に)人間関係が出来ている私が両者の間に入って連絡役になればいい!
だけど、それにはそれ相応の覚悟も必要だ。貴族の娘が男性の重要人物に家の役目として付くという事は、単なる連絡役以上の役割を課せられるという事。例えば、よっ、夜を共にして両者の結び付きを深めるとか…
私が父にその提案とお願いに上がると、父は一瞬驚いた表情となり、次いで少し考え込んだ後、私をジッと見つめるた。父にその動機について問われ、私は前述したような事を述べたのだけど、父は納得せずに黙って私の目を見つめ続けた。それは生半可な理由付けなど許さない、心の奥底まで見透かすような視線。堪らず、私は本当の動機を、リュータの事が好きになってしまった、彼の恋人の一人になりたいと恥ずかしかったけど、思い切って口にした。
父はそれを聞くとニヤリと表情を崩し、
「正直でよろしい。」
と人の悪そうな笑みを浮かべた。
「アーニャもそういう年頃になったか。お前が惚れた男ならきっと大した男なのだろう。この異世界ではもう俺達も貴族なんかじゃない。好きな相手と添い遂げるのも良いだろう。ライバルが多いようだが頑張れよ。」
そう言って父は私の願いを果たしてくれる事となった。私もキャストン家の娘、目的を叶える為なら立ってる物なら親でも使う。でも、父の力を借りるのもここまで。この先は自分の力で進むのだ。
もうすぐ父と対面するため、リュータがこの部屋にやって来る。そう言えばリュータは夏に生まれたとマイから聞いた。この世界の別の国の言葉で「リュータ」は夏を意味する、とも。夏は私が一番好きな季節。リュータは夏、私の大好きな夏なんだ。
あの扉が開けば、私の夏がやって来る。
お読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。




