幕間12 夏が来る扉②
要塞訪問の際には魔物大群が空から陸から攻めてきて、とても大変だったけど全部リュータがやっつけてしまった。いや、勿論エーリカさん時やアランさんも活躍したけど。逆に私は剣術にも魔法にも自信があったのに何も出来ず、エーリカさん達との力の差に愕然としてしまった。
リュータが魔物と戦う姿を見て、こんなに物凄く強くて素敵な男の人はこの先絶対に現れないと思った。世の中には強い人はいる。頭のいい人もいる。優しい人も多いし、かっこいい人だって意外と多い。だけど、これら全てを兼ね備えている男の人なんているだろうか?そんな人はリュータ以外にはついぞお目にかかる事は無かった。
結局、要塞にいる間に私とリュータが急接近するような事はなかった。だけど、この頃になると私はリュータに完全に惚れてしまっていて、それは当然リュータの周りの女の子達にはバレバレとなっていた。
きっと私の気持ちに気づいていなかったのはリュータ本人だけだったのだろう。その鈍感さにはちょっと呆れてしまったけれど、その欠点とも言えないような欠点を見るにつれ、リュータに可愛らしさを感じてしまったのは惚れた欲目だろうか。
後にリュータに私と出会った頃の印象を尋ねたら、彼はずっと私に嫌われていたと思っていたそう。私の態度に問題があった事が原因だけど、鈍感さここに極まれりという感じだ。
私のリュータへの思いはエーリカさん達に妨げられる、とそう思っていた。だって、そうでしょ?彼女達から見れば、私は後から来てリュータを狙う文字通り泥棒猫だ(この言葉がこの世界にも有る事には驚いた)。私はだからといってリュータを諦める気なんて微塵も無かったし、実際どうやって彼女達の間に自分が食い込んでいくかと思いを巡らせていた。
しかし、要塞にいる間、私の懸念を他所にエーリカさん達は私の事を随分と可愛がってくれた。それどころか、私をリュータの恋人の一人として受け入れてくれる気配さえあったのだ。これは後になってリュータの正妻ポジションにあるエーリカさんに教えてもらったのだけど、やはりリュータほどの男の人ともなると、リュータの事を好きになったり、或いは利用しようとしたりして近づこうとする女性の存在は仕方ないという事だった。ただ、リュータ自身がそうした女性達を上手い事躱せるかというと、それも全ては難しい。だからリュータを独占したりせずに彼に恋人として受け入れて貰った女の子達でリュータの周りを固め、彼女達でリュータをそうした女性達から守ろうという事だった。
ならば、彼女達から可愛がって貰っている私はどうなのか?明らかに「彼を好きになって近づこうとする女性」だ。
「アーニャちゃんは可愛いし、戦友だし、リュータへの思いは本物と感じたの。そういった事を色々考えて合格ってところかな?」
と、そう恋人会議で決定したのだという。
そう、「色々考えて」合格なのだ。この「色々」の中にエーリカさん達が私を受け入れる、いや、受け入れざるを得ない要素が含まれているのだと思った。
私の父はエルム大森林の自治領主であるキャストン侯爵だ。私達がこの世界に転移する前、父が指揮する有志連合軍野戦軍の前線が魔王国軍の猛攻により遂に突破された事は伝令により知らされていた。それによって戦線は崩壊し、避難する領民達を守る私達の部隊に魔王国軍が迫る事なった訳だけど、父の生死は不明であり、私達がこの異世界に来てしまった事もあって、私はもう二度と父には会えないのだと思っていた。
ところが、父は生きていたどころか、生き残った部下達と共にこの世界まで転移していたのだ。ただでさえ中立地帯のエルム大森林で自治領を持つという実に危くて困難の多い我がキャストン家だ。それ故に権謀術数を駆使する我がキャストン家でもある。その歴代当主の中でも傑物とされるのが我が父アルベルト・ネル・キャストンなのだ。
父は負け戦の責任を取って自害するような殊勝な人物ではない。きっと上手い事脱出して再起を謀るだろうと思っていたら、案の定だった。流石にこの世界ににまで来ていたのは驚いたけど。
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