幕間11 夏が来る扉①
「父上、お願いが有ります。」
私は、父であるアルベルト・ネル・キャストンに直談判に及んでいる。何の?といえば、リュータ・ヒジカタと父との連絡役として私を彼の元に送り込んで欲しい、と。
あの日、リュータと出会う前の私はバローニ兄上が率いる部隊に一兵卒として従軍していた。魔王国軍に追われてサラクーダ市へと避難する領民達の殿を守っていた私達の部隊は、追撃する魔王国軍にほぼ追い付かれてしまっていた。
私達は領民達の避難時間を稼ぐために最後の一合戦をして死ぬ覚悟でいた。私も領主の娘として戦って戦って、最期は魔族などに捉われて辱めを受けぬよう自決しようと思っていた。ただ、せめて妹のターニャにはサラクーダに落ち延びて欲しかった。その話を兄上と三人で話し合ったけど、ターニャには頑強に拒否された。私もキャストン家の娘であり、一人だけ逃げるなんて恥ずかしい真似は出来ないと。
だけど、私達は魔王国軍と絶望的な戦闘になる前に不思議な霧に包まれてしまった。周囲が冷たい湿気を帯びた真っ白な霧の中、何も見えず、戦の音も聞こえず、気が付けば自分が見知らぬ山の中にいる事に気付いた。
ここにいるのは私だけなのだろうか、バローニ兄上やターニャや部隊のみんなは?と思っているとターニャの泣き声が聞こえて来た。
ターニャの泣き声は意外と近い位置から聞こえた。私は霧で何も見えない中だったけど、泣き声を頼りにターニャの名を呼びながら声のする方へ向かった。すると、果たして路上(そこで私達が真っ平らに舗装された路上にいる事を知った)にへたり込んで泣きじゃくるターニャがいた。だけど、そこにはターニャだけじゃなく、ターニャの横には一人佇む見知らぬヒト族の男がいたのだ。その男こそ、後に私が人生で初めて好きになり、そして愛する事になるただ一人の男、リュータ・ヒジカタだった。
だけど、私達の出会いはとてもロマンチックなものでは決して無かった。何故なら、私はその状況から、てっきりリュータがターニャに危害を加えようとして、ターニャがその恐怖から泣き出してしまったものだと勘違いしてしまい、思わず彼を詰問してしまったからだった。
その頃になるとターニャの泣き声と私がリュータを詰問する声で部隊のみんなが集まって来ていて、リュータと私達とは一触即発の状態になっていた。すぐにターニャが否定し事無きを得たのだけど、私は意地になってしまい、すぐに誤解した事をリュータに謝る事が出来無かった。
そして、その後すぐに魔王国軍の赤鬼族の戦士が現れ、あっという間にリュータとリュータが連れていた狼がその鬼共を倒してしまった。その強さに驚いて余計に彼へ謝るタイミングを失してしまい、反発心も残ったままになってしまった。だけど、恐らく、いや、きっと私はその時からリュータの事が気になっていたんだ。
気になってはいたけど、なかなか私は自分の気持ちに素直にはなれなかった。だって、彼の周りには綺麗な女の子が何人もいたから。でも、それは裏を返してみればリュータがそれだけ魅力的な男の人だという事。
あれから幾らか冷静になってみれば、リュータがとても魅力的な男の人だとわかる。背が高く引き締まった身体。とても綺麗な顔立ちで色白の黒髪、漆黒の吸い込まれそうな瞳はゾクゾクするほどエキゾチック。切れ長の目はちょっとキツい印象を受けるけど、その瞳で見つめられると一瞬何も考えられなくなりそう。
それより、何より、あの強さ!あの魔力!
私達獣人族には強者に惹かれ従う傾向がある。だから強いという事は女性にモテる要素の一つなのだけど、リュータの強さは本当に桁違い。
私はリュータに惹かれていたけどまだ素直になれず、ツンとした態度をとってしまっていた(ターニャからは呆れたような視線を送られる)。そんな時、リュータ達がこの国の要塞に私達への援助を求めに行く事となり、その際に私達転移者の代表にも同行して欲しいと要請があったのだ。これはリュータに近づく絶好のチャンス。そう思った私は本来要請を受けていたバローニ兄上を説得(キャストン家の跡取りを危険には曝せません!)して代わってもらった。
いざメンバー集合という時、私が兄上の身を案じて志願したと言うと、リュータは私の事を兄想いの優しい女の子だと思ったようだった。それはそれで私の思惑通りになったのだけど、その時、なんとリュータが私の頭をポンポンとしてくれた。私は突然の事で驚いたし、何が起きたのか理解すると嬉しさと恥ずかしさで頬がカーッと熱くなってしまった。リュータはその後、エーリカさん達に取り囲まれてお説教されてしまったけど。
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