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第75話 アースラ諸族連合爆誕

モンスターアタックが全世界で起きてから一年と二ヶ月が経過した。今の世界がどうなっているのか、は別に譲るとして、日本国では害獣出現特別封鎖地区内で異世界からの転移者達による自治組織、アースラ諸族連合が発足、その自衛組織であるアースラ諸族連合警備隊が発隊しようとしていた。


アースラ諸族連合の発足とアースラ諸族連合警備隊の発隊については、あの日、俺と斉藤が指摘した事項が殆ど受け入れられた形で計画は修正され、アースラ諸族連合最高評議会(仮)で全会一致の賛成を経て、遂に発足及び発隊の運びとなったのだ。


現代の日本や先進国に生きる我々から見れば、それは荒削りで素朴な組織構造であり、きっと大江広元もグラックス兄弟も笑うであろう政体ではある。だがしかし、転移者達からは一日でも早く無政府状態からの脱却と秩序ある社会造りが望まれていたのだ。見切り発車ではあったが、どうにか発足まで漕ぎ着け、恐らく徐々に総務省などからアドバイスなどの形で指導が始まり、より安全で安定した政体へと変わっていく事だろう。多分。


発足するアースラ諸族連合の最高評議会は各コミュニティからの代表者たる評議員10名から成り、評議会の議長は斎藤宮司が就任した。キャストン自治領からの評議員はバローニがなり、キャストン侯爵は警備隊の最高司令官に就任した。結局、キャストン侯爵が両職を兼ねる事は無く、無用に警戒される事を避けたかったのだろう。


そして、斎藤宮司が以前に俺に言ったように、これから俺達は神託に従った活動に専従する事となった。そのメンバーとしては、満峰神社の女神様から加護を授かった俺、斉藤、エーリカ、ユーリカ、真琴。それから俺の希望と本人達の希望から舞、真琴、雪枝、サキ、アーニャ、ラミッド、アミッド、アックス、ミア、ガーライル。そして、アーニャの配下としてキャストン侯爵家から獣人の戦士が三人と、ガーライルの村から狼獣人の戦士が同じく三人が参加し、総勢20名の集団となった。


俺達の活動についてはひ最高評議会も警備隊司令部も口出しは出来ない事となっている。俺達は言ってみれば独立した遊撃隊のような位置付けで、アースラ諸族連合の憲章にも俺達については何も記されていない。例えるならば、ちょっと違うけど、検非違使のような令外の官、若しくは満州国の白系ロシア人連隊といったところだろうか。いや、自らを帝国憲法外とした帝国陸軍参謀本部かな。


だからといって俺達がアースラ諸族連合とは無関係という訳でななく、情報は共有して必要に応じて相互に協力する。また、俺達の活動予算は齋党と国防軍から出る事となり、拠点は満峰神社の宿坊が当てられる事となった。


その後も転移者は増え続け、その人口は3000人ほどとなった。国からの援助は順調なので衣食に困る事は無くなったが、住の問題が深刻化しつつあった。が、幸いな事に魔物狩りに精通した転移者も増え、また正式な発隊を待たずに警備隊が活動を開始したため、転移者達の安全な生活圏は旧大滝村の落合地区から秩父湖、その北側にある奥秩父もみじ湖周辺まで広げる事が出来たのだ。


そうして日本政府や国防軍の援助、転移者達の自助努力の甲斐もあり、転移者達の生活環境は整っていった。そして、遂に今日の日を迎えるに至った。間も無くアースラ諸族連合の発足及びアースラ諸族連合の発隊をこの世界に高らかに宣言する式典が始まろうとしていた。




「アースラ大陸、エルム大森林より転移し同胞の皆さん。この世界で再びこうして会えた事、大変喜ばしく思います。我々は残忍にして凶悪なる魔王及び魔王国軍の侵略により理不尽にも祖来の故郷を追われ、多くの者が愛する家族、友人など親しき者達を奪われました。しかし、有難くも精霊樹様の御慈悲によりこの世界へ導かれ、我々は再び生きる機会が与えられています。我々の中には魔王へ復仇の念を抱く者も多い事でしょう。かく言う私もその一人です。」


キャストン侯爵は舞台上から聴取を見回し、演説を再開する。


「しかし、我々が転移したこの世界。この国の神々、そしてこの日本国の皆さんは、自らも魔王の侵略により混乱の渦中にあるにもかかわらず、我々をこうして受け入れ、手を差し伸べてくれました。我々はその恩に報いらねばなりません。今は報復を忘れ、復仇の念を捨てて互いに手を取り、この地で我々の子や孫のために汗をかき、時には血を流し生きていかねばなりません。」


キャストン侯爵はここで再び演説を止め、来賓席から日本政府の特使を演台に招いた。そして、演台に上がったスーツ姿の政府代表の手を取り、再び正面を向いた。


「この度、我々は日本政府よりこの地に住う事を許される事となりました。私、侯爵アルベルト・ネル・キャストンは本日、ここに日本国政府承認の元、アースラ大陸及びエルム大森林からの転移者による自治組織「アースラ諸族連合」の発足、その自衛組織たる民兵隊「アースラ諸族連合警備隊」の発隊を宣言します。」


この式典会場は荒川沿いにあるイベントなどが出来る舞台と広場、駐車場があるだけの広い公園だ。とはいえ、今や3000人程にもなった転移者全員を収容する事は出来ない。従ってこの会場には各コミュニティから式典に参加する代表者300人程が集まっている。そして、この会場近くに居を構える事となった転移者も会場外に集まって200人程が来ていた。


この500人程の聴衆はキャストン侯爵の演説を静粛に聞いていたが、演説が遂にアースラ諸族連合発足とアースラ諸族連合警備隊発隊を宣言するに至って歓喜の歓声を上げた。


『アースラ諸族連合万歳!日本国万歳!』


その歓声は山々に響き渡り、俺はまだこの辺で生き残っている魔物共を引き寄せやしないかとちょっと心配になったが、それは結果的に杞憂に終わった。


俺も一応式典には貢献者として呼ばれており、特別席にいたが、俺の周りでもエーリカとユーリカは共に手を取って喜び合い、サキとミアも抱き合って喜んでいる。



歓声がやや収まると、続いて日本国政府の特使である夏八木勇雄衆議院議員が祝辞を述べた。この方は与党国防族のベテラン議員で、実は齋党のメンバーだったりするのだ。


政府特使が席に戻ると、エーリカとユーリカと俺は打ち合わせ通り特別席から舞台に上がった。何と俺達三人は式典の最後に歌を歌う事になっているのだ。


実はエーリカとユーリカが以前に自分達の故郷と新たなる故郷を想って歌を作ったのだ。その歌を宿坊でのお楽しみ会的な催し物で俺がアコースティックギターで演奏し、エーリカとユーリカが歌ったところ、参加していたアースラ諸族連合最高評議会(仮)の皆々に大層好評で、ついては式典の最後に歌ってもらいたい、という事となったのだった。


一度休憩を挟んだ式典会場は既に夕暮れとなって暗く、会場の上空には魔法が使える者達による光球が幾つも浮かんで舞台を照らしている。エーリカとユーリカは揃って舞台の中央に立ち、俺は目立たないように、少し離れた後方で椅子に座ってギターを構えた。


「アースラ大陸から来た皆さん。サバール支族のエーリカと「ユーリカ」です。この度は私達の念願叶って、遂に今日のこの良き日を迎える事が出来ました。私達はこの世界で生きて行く事となりました。ですが、今も故郷への想いはこの胸の中に脈々と生きています。この気持ち、そして私達の未来への想いを歌にしました。拙い歌ですが、是非聴いてください。」


エーリカはそう言いながら振り向き、チラッと俺を見ると念話で"リュータ、お願い"と演奏始めの指示を出した。そしてアコースティックギターの調べが会場に流れ、その音にエーリカとユーリカの歌声が乗る。


 地球の空は蒼く澄み それでも私は夢に見る

 我らが生まれし母なる世界

 例えこの地に根差すとも

 どうか皆さん忘れないで

 アースラの大地、エルムの森を


 地球の風は優しくて そして私は夢を見る

 彼等と築く新たな世界

 例え悲しみ襲うとも

 どうか皆さん負けないで

 アースラの民の、その名に賭けて


ギター一本で奏でるその曲は少し寂しい調べだが、二人のエルフの透き通るような声は夕暮れた山間の会場によく響いた。歌い終えた二人が会場に向かって深々と頭を下げると、静寂を破って会場からは大歓声と割れんばかりの拍手が送られた。


この後、エーリカとユーリカは会場からの希望で三回も歌う事となった。そして、この時の模様は巫女の渋谷姉妹によって動画で録画されており、アースラ諸族連合最高評議会と当事者たるエーリカとユーリカの許可の元、SNSの動画投稿サイトに投稿されて全世界に配信となったところ、異世界からのリアル美人エルフ姉妹が歌う故郷の歌としてとんでもない再生回数を弾き出したという。



こうしてモンスターアタックが起きてから約一年と二ヶ月が経過した今、転移者達は援助を受けつつも自立と日本国との共存の道を歩みだした。今後、俺は彼等の「国造り」には直接関係する事は無いが、ここに至るまでの様々な出来事を思い出すと、実に感無量だった。


これから俺は彼等とは一線を画し、満峰神社の女神様からの神託にあった魔物狩りにと魔法修行に専念する事となる。しかし、異世界からは魔物だけではなく、魔王の第一王子が率いる魔王国軍も直接現れたのだ。恐らく、事態は新たな展開を見せると思われ、また近々に次の神託があるような気がする。


そして、俺を導くように話しかけてきたあの謎の声。謎が謎を呼ぶかのような展開に、俺はまだまだこの害獣出現特別封鎖地区から離れる事は出来なそうなのだ。だが、ここには俺の愛しい恋人達がいて、家族がいて、信頼できる友と仲間達がいる。気が付けば、こうしてみんなで一緒にいられるのならば、それも案外悪くないと思っている俺がいたりするのだった。






お読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


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