第74話 式典から再び幕は上がる
「先輩?準備出来ましたか?」
部屋のドアがノックされ、舞がドアの向こうから俺に声をかける。
「もう少しかかるから、入って待っていてくれ。」
「え、いいんですか?」
そう言って舞は嬉しそうに「お邪魔しま〜す」と言いながら俺の部屋に入って来た。
キョロキョロと珍しいものを見るように俺の部屋を見回す。満峰神社の宿坊に部屋を与えられている俺達だから、舞の部屋も同じ間取りなのだが。
「ああ、もう。先輩、まだ髭剃りですか?」
舞が洗面台で髭を剃っている俺を見てもどかしそうに声を上げるので、俺はごめんごめんと謝りつつ最後の一剃りを終えると手早くタオルで顔を拭う。
Yシャツを羽織りながら舞の方を振向くと、俺の視線を感じた舞は両手でスカートを摘んで小首を傾げる。
「どうですか?似合いますか先輩?」
この時の舞の服装はというと、大きめの白い襟が付いた紺色のミニワンピースにグレーのタイツ。肩まで伸ばしたストレートの黒髪が美しく、白い星のイヤリングがよく映えている。
「とても良く似合ってる。綺麗だよ、舞。」
俺が正直な感想を述べると、嬉しそうに恥ずかしそうに喜ぶ舞。
季節は既に11月。ここ奥秩父の晩秋では上着が必要だ。きっとこの上にコートを羽織るのだろう。
「あっ、それより早く仕度して下さい。そろそろ行かないと、ですよ?」
「すまん。ネクタイとか久々なんで結び方忘れちゃったんだ。」
俺達はこれから正装をしてとある式典に出席しなければならない。俺には現在、陸軍中尉の戦術魔法教官などという肩書があるので、陸軍の制服を着るのに四苦八苦しているところだ。
「もう、ネクタイが結べないなんてしょうがない人ですね。私に任せて下さい。」
そんな言葉とは裏腹に、嬉しそうに首に掛かる制服の黒髪いネクタイを奪い器用に結び直す舞。
「ありがとう。でも、こうしてると新婚夫婦みたいだな?」
「えっ?」
と、急に舞がネクタイをギュッと締めたので、思わずうっと呻いてしまった。
「先輩が急に変な事言うからですよ?はい、出来上がりです。」
俺は舞に礼を言って制服の上着に袖を通した。この制服は国防軍からの援助物資と一緒に俺宛で空輸されて来たものだ。あの秩父地方特別駐屯地での戦いの後から、満峰神社には定期的に援助物資が空輸されるようになっていた。お陰で転移者達は衣食住の衣と食に関しては差し当たりの不自由は無くなっている。
上着のボタンを止め、黒いベレー帽を被ってみせる。
「どうかな?」
ネクタイを結んでくれたので、俺は舞に感想を求めた。
「凛々しくって、とっても似合ってますよ、先輩。」
「そうか、良かった。」
そう言って俺は舞に近づき、そのまま抱き締める。細く柔らかい舞の身体、フワッと鼻孔をくすぐる舞の香り。そして舞の瞳を見ていると、舞が両目を閉じて僅かに顔を上げた。
もう何度目かになる舞とのキス。体を密着させ唇をお互いに軽く食むように、それから貪るように交わす事暫し。
「先輩、もう行かないと、」
唇を離すと、舞は小さな声で喘ぐように言った。
「そうだな。」
確かに、もう行かないと、移動時間など考慮すると式典に遅れそうだ。
舞との抱擁が名残惜しくはあったが、俺達は体を離すと、俺は舞に手を引かれて自室を後にした。
宿坊一階のロビーには既にスーツ姿の斉藤とアックスが来ていた。
「リュウ、遅いぞ。」
「すまん。」
すると、エーリカ、ユーリカと真琴が少し遅れてやって来た。女性の身支度は時間がかかるものだから、ここで無神経な事は言ってはいけない。
エーリカとユーリカはこの日のために自ら作ったサバール支族の正装を着ている(因みに、エーリカはここ暫くこの服の製作に掛かりきりであまり構ってくれなかった)。それはエルフにとって聖なる色である森の緑を基調としたロングスカートにブーツ。サバール支族伝統の魔術的模様の刺繍が施された白いブラウスにデザイン化された精霊樹が刺繍された黄緑色のベスト。そして、美しい金銀の髪に映える榊(代用)で編まれた冠。
「リュータ、どう、かな?」
「タケ、似合う?」
エーリカは少し照れたように頬を染め、上目使いに俺の言葉を待っている。
「ユーリカ、綺麗だよ。とっても似合っている。」
「タケ、ありがとう。」
くっ、先を越されて斉藤に遅れをとったか。
「綺麗だよ。森の妖精みたいだ。」
「ふふ、本当?ありがと、リュータ。」
真琴は、この度これまでの成果が認められ、めでたく陸軍中尉に野戦(?)昇進した。だから、俺はてっきり真琴も陸軍の制服を着るのかと思っていたが違っていた。
真琴の衣装は、黒のスリットが入ったタイトスカートにパンプス、白いタートルネックのセーター。まだ室内だからか黒いジャケットは手に持っている。髪型は軍人らしくショートにしているが、色白の肌に少し濃く引いた口紅と、両耳に揺れる銀のイヤリングが大人の女性の色っぽさを醸し出している。
「竜太、私には何も言ってくれないの?」
わざとだろうけど、真琴が少し拗ねたように上目使いに俺を睨んで言った。
「今日は大人っぽくてドキドキするよ。綺麗だよ、真琴。」
「そう言ってくれると思ってた。ありがとう、竜太。」
斉藤は俺の事を時々ハーレムキングとか言ってからかう。まあ、もう今更反論しようも無い。その都度、俺はブッ飛ばすぞ?とか言って脅しておくが、斉藤は鼻で笑って何の効果も無い。人は俺の事をうらやましがったり、嫉妬したり、からかったりするが、ハーレムキングはハーレムキングで結構大変なのだ。皆を平等に愛さなくてはならないのは当然として、決して嘘は言わず、彼女達の魅力を褒めて褒めて褒め続けなければならない。
もう一年以上こうした状態が続いている。流石に俺も、そうした、謂わば「ハーレム道」(自分でも激しく恥ずかしいネーミングだ)を心得るようになったのだ。
「遅くなって済みませ〜ん。」
バタバタと焦ったようにサキと雪枝とアーニャが階段を降りて来た。この三人は、アーニャが加わった時にサキとアーニャがちょっと揉めたものの、今では年齢が近いせいか随分と仲良くなっている。
サキは女子高生っぽいチェックのスカートに紺色のブレザー。タイは赤いリボンで、黒髪ロングのストレートに狼耳がぴょこんと立っていて、もう反則的な可愛さだ。
雪枝はリクルートスーツっぽい紺のスーツを着ている。一年程前に再会した時は首筋辺りで切り揃えていた髪型も、今では肩甲骨辺りまで伸ばしている。我が妹ながら清楚な感じで、綺麗で可愛い。
しかし、俺の周りの女の子達の黒髪ロング率が高いのはどうしてなのだろうか?確かに、俺の好みの髪型なので結構な事ではあるが。以前に誰かに喋っただろうか?
そしてアーニャもエルム大森林のキャストン自治領があった辺りの猫獣人の民族衣装を着ている。それは白いロングのワンピースにブーツ、色々と刺繍が施された白いハーフコートのような上着。白にアーニャの赤い髪が映えて、何ともエキゾチックな美しさだ。
三人とも今日の式典に行くのに気合いを入れておしゃれしたようで、褒め言葉の期待を込めた視線を俺に向けている。俺は彼女達の服やメイクがとても似合っていて、とても綺麗で可愛いと率直に伝えた。三人とも大喜びしていたので、俺も褒め甲斐があろうというものだ。
ラミッドとアミッドは揃ってSPのような黒いスーツを着ている。ミアはサキとスカートのチェック柄違いのブレザー。ミアはこうしておしゃれをしてラミッドと出掛けられる事が嬉しそうで、実に甘酸っぱい。
これから俺達は、ここから少し山を降った川沿いの市民公園で開催される式典に出席する事になっている。それは転移者達による自治組織の発足と自衛組織の建軍とを宣言し、祝うための式典である。
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