第71話 姉様なんか嫌いだ
そうこうしていると、エーリカが両親と弟を連れてこちらへやって来た。
「お父さん、お母さん、紹介するね。私の恋人のリュータ・ヒジカタよ。リュータには私とユーリカがこっちの世界に転移しちゃってからずっと助けてもらっているの。」
そのように紹介され居住まいを正した俺は、エーリカのご両親に挨拶する。
「お初にお目にかかります。リュータ・ヒジカタと申します。エーリカさんとお付き合いをさせていただいてます。別の世界で戸惑う事も多いかと思いますが、ここでの安全と生活はお任せ下さい。」
エーリカのご両親は俺の周りに三人も女の子(一人は妹だが)がいる事に驚き、ちょっと複雑そうな表情をしていたが、そこは大人の対応をしてくれた。
「初めまして、エーリカの父でエーリッヒ・バル・サバールと申します。娘達が大変お世話になりまして、有難う御座います。」
「エーリカの母でイレーネ・バル・サバールと申します。宜しくお願い致します。」
だがしかし、ここにいるのは大人だけではない訳で。先程から何やら射殺さんばかりのキツイ視線を感じている訳で。
「リュータ、この子が弟のビクトルよ。ビクトル、リュータにご挨拶して。」
エーリカが弟のビクトル君を俺に紹介してくれたので、少し身を屈めて俺の方から
「ビクトル君、宜しくな。」
と声をかけて握手しようと右手を差し出したが、ビクトル君はキッと俺を睨みつけ、差し出した俺の右手をバシッと叩き弾いた。
「なれなれしく呼ぶな。僕はこんな女たらしがエーリカ姉様の恋人なんて絶対に認めないからな!」
あ〜、やっぱりそう来たか。うるさい、このシスコンガキが!とか言ったらダメかな?はあ〜、また面倒事が増えたな。頭痛い。
だが、俺を罵ったビクトル君にサキの怒りが爆発。
「リュータさんは女たらしなんかじゃない!取り消してリュータさんに謝りなさい!」
俺はそう食ってかかるサキ(相手が年下だからかちょっと強気)を押しとどめる。それでも憎々しげに俺を睨みつけるビクトル君。もうこの後からは"君"は付けない事にした。
成り行きとはいえ、この人達が魔王国軍から追われるようにしてこの世界に転移して来て、彼等が魔物や困窮に脅かされないように俺は散々骨折ってきたつもりだ。それが何故に、その自分が守る対象からこうも罵られ、憎々しげに睨まれなければならないのだろうか?
などと思いながらも、まあ、俺も大人だから子供一人に罵られ、睨まれだからといって、多少はムカっ腹は立てつつも何をするつもりもない。
俺は肩を竦めてビクトルをスルーしようとしたが、エーリカはそうではなかった。
「こら、ビクトル!リュータに何て事言うの!謝りなさい!」
「絶対に嫌だ!」
「どうしてよ?」
「……」
エーリカに叱られ、追求されて口を閉ざすビクトル。そりゃ言えないだろう。大好きなお姉ちゃんが何人も女の子を連れている男なんかに盗られたくないなんて。俺にはわかる。
黙ったままのビクトルに焦れたのか、エーリカがビクトルに語りかける。
「あのね、ビクトル。私とユーリカがこっちの世界に転移しちゃって、初めて会った人がリュータとあっちでユーリカと一緒にいるタケシなの。この二人に会わなかったら私達、この何もわからない異世界でどうなっていたかわからないわ。リュータがずっと守ってくれたから、今こうして私達家族がこうしてまた会えたんだよ?今だってリュータはこの国の代表に掛けあって、エルム大森林からこっちの世界に転移して来た人達が生活出来るよう援助を取り付けたり、この世界にまで侵攻して来た魔王国軍を撃退したり、リュータがいなかったら折角この世界に転移して魔王国軍から逃れられたって、みんなすぐに魔物に殺されたわ。」
エーリカはここまで一気に捲し立てると少し落ち着き、ちょっと照れたように続けた。
「それとね、リュータはとても誠実な男よ。私がリュータを好きになったのだし、私がリュータに他の女の子達の好意を受け入れてあげてって頼んだの。だから女たらしなんかじゃないの。わかった?」
「わかんないよ、そんな事!エーリカ姉様なんか嫌いだ!」
ビクトルはそう叫び、元来た方へと走り去った。そりゃわかんないよな。
「あっ、ビクトル、待ちなさい。」
エーリカはビクトルの後を追おうとしたが、ユーリカに止めらていた。まあ、ビクトルも今一番来て欲しくないのはエーリカだろう。
"アミッド、頼む"
"わかったよ、兄貴"
俺は仕方なくアミッドに目配せしてビクトルを追って貰った。何せ、ここは山の上だからね。迷ったり、落ちたりしたら大変だ。
その後はエーリカのご両親から先程のビクトルの件について随分と謝れた。俺は「私の行動で理解して貰えるよう努力します」とか、当たり障りの無い事を言ってその場を治めた。とはいえ、俺は自分からビクトル坊やに歩み寄ろうとは思っていない。面倒臭いという事もあるが、これは理屈じゃなく感情の問題だ。余計な事をしてもかえって拗れてしまうだろう。なるようになるしかないのさ。
そして、世界線を越えたもう一つの親子の再会があった。キャストン侯爵家の再会劇だ。
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