第69話 追憶
今回の事態があって俺が最も懸念したのは、果たして転移者達への援助が約束通りに実施されるのだろうか?という事だった。なんとなくそれどころじゃないからと有耶無耶にされてしまうのではないかと思ってしまった。
さて、その場合はどうしようか、SNSでこの窮状を全世界に訴えようか、などと考えていた。もっとも、モンスターアタックは全世界同時に起こった事なので、世界中がそれどころではないかも知れないが。
ところが、竹内中尉の話によれば転移者達への援助は人道援助が建前であり、既に決定済みである事から、今頃は関係省庁の官僚組織が全力で取り掛かっているだろう、という事だった。
そうして懸念していた転移者達への援助も実施される運びとなり、また、暫く待つように言われていた満峰山への復路の便も案外と早く手配がついた。駐屯地へ復旧用の資機材を空輸して空き荷となった陸軍のCHー47Jが俺達を帰途のついでに満峰山へ送ってくれる運びとなったのだ。
往路のVIP用VTOL機がリムジンとするならば、復路のCH-47Jはトラックという感じだ。陸軍からのせっかくの好意だから贅沢も我儘も言ってはいけない。早く満峰山へ戻れるだけでも実に有り難いのだ。
あの魔物の群による襲撃の後、別行動となっていた斉藤達と俺達は早々に合流した。そして、斉藤とユーリカから彼等と火竜のバーン・ゾフィ夫婦が秩父特別駐屯地に救援に来た経緯を聞いた。
一昨日、俺達が秩父特別駐屯地へ出立した後、火竜のバーンが一人の若い男性エルフを乗せて満峰山に飛来してきたのだという。その男性エルフは、何とエーリカとユーリカの従兄で、彼が言うにはエルム大森林のサバール村の住民と魔王国軍の奇襲に遭って敗走した有志連合軍の敗残兵達が、バーンとゾフィの住まいである広瀬湖周辺に転移して来たというのがだった。
バーンとゾフィはこの世界に転移して来てから、秩父と言わず結構あっちこっちをバーン曰く「好奇心と調子に乗って」飛び回っていたらしい。それは当然、この地の空を守る炎龍の目に止まる結果となり、彼等は炎龍から呼び出しを喰らい、勝手な事をするなとシメられてしまったらしい。その際に炎龍の加護を受けている俺の名前をだして友達だと主張したところ、あいつの友達ならと二頭にも炎龍が加護を授けたのだという。
そうして炎龍の眷属となったバーンとゾフィは、突如として自分達の前に現れた転移者達に驚いたものの、俺達が転移者達を探して保護している事を思い出し、それじゃあ、という事でその中の一人を伴って満峰山を訪れた、という事だった。
突然、元の世界にいるはずだった従兄のアルフレッドが火竜に乗って現れたので、喜び驚いたユーリカと、炎龍がバーンに告げた「駐屯地が魔物に襲われ危うくなるから救援に行け」という神託から俺達の危機を察した斉藤が、俺達の救援に行こうとしているバーンとゾフィに同行を申し入れ、2頭と2人で助けに来てくれたのだ。
サバール村のエルフ達や有志連合軍の兵士達がこの世界に転移して来たのは、俺達にとっても朗報だった。何と言ってもエーリカとユーリカが再び家族や一族と会えるという事もあるが、魔法に秀でている300名からのエルフ達と、魔王国軍と戦い続けていた多数の有志連合軍の兵士達が戦力として加わるのだ。そして、何とその中には有志連合軍の総司令官だったキャストン侯爵、つまりバローニ、アーニャ、ターニャの父親がいるという事だ。
アーニャはその知らせを聞くや、驚きと嬉しさから泣き出してしまった。エーリカ達はこの三日の間にアーニャと随分と打ち解けて仲良くなっていて、共にアーニャの父親の生存を喜んでいた。
因みに、アラン兄さんにキャストン侯爵の為人を聞いてみたら、
「まあ、悪い人じゃないが、良くも悪くも食えないどら猫のオヤジって感じだな。」
との事だった。どう評価していいものか。
エーリカは俺を家族に恋人として紹介するんだと意気込む。俺もエーリカの家族にちゃんとご挨拶しなければと思いつつも、エーリカの親父さんに「異世界のヒト族などに娘との付き合いは認めん!」などと言われたらどうしよう、などと考えていた。そして、ふと気付いたのだが、バーンが連れてきたエーリカの従兄というのは、確か以前にユーリカから聞いた事のあるアルフレッドという人ではないだろうかと。
それは俺とエーリカが晴れて恋人同士になった頃、ユーリカがエーリカをからかったのだ。
「ねえリュータ、お姉ちゃんは従兄のアルフレッド兄さんが好きだったんだよ。」
それを聞いたエーリカは
「あんなのは子供の頃の一時の気の迷いよ。兄さんったらさっさと別の氏族の女と婚約しちゃったんだから。」
と言ったものだった。その時は俺はただ「ヘェ〜」と思っただけだったが、ここに来てまさかの再会があるなんて。
エルフの男性は先に転移して来た有志連合軍の兵士達の中にも何人かいたが、皆が皆とんでもなく美形なのだ。エーリカがそのアルフレッド兄さんとやらに靡くとは思わない(というか思いたくない)が、小ちゃい男で嫌だけど、あまりいい気分ではないかな。
そんな思いが表情に出てしまったものか、エーリカから
「私はリュータ一筋だからね。今更アルフレッド兄さんに会ったからって、何でもないよ。」
などと手を握られて言われてしまったものだ。あぁ、何て可愛いいんだ、エーリカは!何を考えていたかも忘れ、エーリカの魅力に悶絶してしまう俺だった。
駐屯地を去るにあたり新村司令に挨拶をしたかったが、その頃には新村司令は駐屯地にはいなかった。新村司令は今回の襲撃について市ヶ谷に報告するために出向してしまっていたのだ。本当なら俺も新村司令に同行して一緒に報告した方が良かったのかもしれなかったが、自分の行動や知り得た情報などをレポートにして提出する事で勘弁して貰った。
新村司令は、今回の襲撃で被った被害の責任を追及され、恐らくは駐屯地司令の職を解かれるだろう。だが、あの人ならきっとすぐに立ち直り、今回の経験を生かして最前線に復帰し、復仇戦の指揮を取る筈だ。俺はそう信じている。
今西大尉は部下を亡くし、生き残った彼の部下達もその多くが負傷した。そのため今西大尉は魔王国軍への復讐のため、新たなる部隊編成や部隊強化、魔法教育などに燃えている。俺も陸軍の戦術魔法教官とやらになってしまったからには協力は惜しまないつもりだ。
満峰山に向かって飛ぶCH-47J。そのエンジンの騒音の中、取り止めもなくそんな事を思い返してみた。数十分のフライトもそろそろ終わりに近づき、俺達を運んでくれたこの古い大型ヘリは着陸態勢に入っていた。
ヘリの中からでも満峰神社の神威を感じる。離れて3日しか経っていないが、色々な出来事があったせいか酷く懐かしい感じだ。着陸すれば雪枝とサキが待っている。ミアもアックスも元気だろうか。
転移者が増えた事で、これから新たな人間関係を築かなくてはならない。それが煩わしく、不安でもあり、そして、新しい展開が開ける事が楽しみでもあった。
お読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。




