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第68話 人間とは何か

「そういえば、アイツら何しに現れたんだろうな?」


俺は今更ながらの疑問を口にする。


カイネル王子が恐らく立案、指揮した駐屯地を攻略する作戦。敵ながら見事だったと俺は思う。駐屯地だけの戦力では最終的には陥落していただろうし、俺達がいても随分と追い詰められた。斉藤・ユーリカとバーン夫婦の参戦でミラクル逆転奇跡を呼んだ訳だけど。


「そりゃあ、自分の策を潰したお前の顔を見たかったからだろう。」


斉藤は俺の呟きに、そんな簡単な事もわからないのか、というニュアンスを含めた返事を寄越した。



あの後、俺達は再び合流したが、駐屯地は魔物襲撃の事後処理と来援した部隊による復旧作業でごった返しており、陸軍も俺達を山へ返す便を手配する余裕は無いようだった。しかし、俺達の存在自体が忘れ去られた訳では無かったようで、大型のテントを与えられ、もう暫くはこのまま留め置かれる事となった。


エーリカ達女子チームは、来援した補給部隊が設置した入浴施設に行っいる。当然、こうした事はレディファーストで、男子組は後回し。今頃は一風呂浴びている事だろう。


流石に俺もあの戦闘で随分と疲れを感じたので、補給部隊が出してくれたレトルト食を頂いた後、テントで一寝入りした。そうして目が覚めた後、テントの前に置かれたテーブルで斉藤が入れてくれたコーヒーを飲みながら、先程の会話に至った。


「そう言えば、カイネル王子はやたら天候を操ったのはお前か?って聞いてきたな。」


「で、お前まさか、そうですとか言ってないだろうな?」


「まあ、そこは曖昧にしておいたよ。」


「それでいい。相手は十中八九お前だと思っているだろうが、敵には少しでも不確定要素があった方が行動や思考に枷をかけられる。」


それから、雑談ついでに斉藤に例の謎の声についても話した。一人で抱えるよりも情報と面倒事は共有するに限る。


「そうか、リュウはその声に導かれてあんな大技を使えるようになったという事か。」


斉藤は俺の話を聞くと、暫く考え込んで呟くようにそう言った。


「何だと思う?」


「何だろうな。満峰神社の女神でもなく、炎龍でもないのだろう?」


「そうだね。」


斉藤は再び考え込む。そして、私見だがと前置きしてから滔々と自分の考察を話し出した。


「その声は勿論俺達にとって敵では無いだろう。しかもリュウの話を聞いた印象だと、そうやってリュウに話しかけ、導く事によってリュウを成長させているように思える。事実、リュウはそれによって天候を操れるようになったり、相手から熱を奪うような魔法も出来るようになっている。これはリュウが魔力操作や魔法の分野で確実に成長したと言える。」


「だが、俺を成長させてどうしようというんだ?」


「単純に考えれば、リュウがそうやって強くなれば、異世界からの魔王による侵略を阻止出来るだろう。」


まあ、それはそうだろう。けど、


「何で俺だけなんだろう?タケだっていい訳だし。そうした戦力は多いに越した事はないと思うのだが。」


「そう、その点にこそ、その謎を解くヒントが隠されていると俺は思う。」


斉藤の天才灰色脳細胞は、既に何らかの解を導き出しているのだろうか。


「で、その答えは?」


斉藤は冠りをかぶって「まだ推測の域を出ていない」と答えない。しかし俺は長年の付き合いで斉藤岳という男を知悉している。この男はどちらかと言えば寡黙な男だ。だがしかし、それでいてこの男は自分が考えた事に関して言えば、実に喋りたがりというか、聞いて貰いたがりだったりする。勿論、誰でもいいという訳ではなく、自分が言った内容を理解出来、且つそれを言いふらしたりしない者限定。そんな奴はこの世に何人もおらず、俺は小学生の頃からハイハイと聞いて来ているのだ。だから、そういう時はもう一押し、斉藤が喋りやすくなる環境を整えてやればよい。


「他に誰も聞いてないし、雑談なんだからさ。」


俺がそう言うと、斉藤は眉間に皺を寄せ、眼鏡を右手の中指でクイッと上げ、しょうがないというジェスチャーを取り、徐に口を開いた。


「飽くまで仮定だからな。話半分と思ってくれ。」


ゴクリ、


「その謎の声がリュウの成長を促しているとして、謎の声の主はリュウにしか出来ない何かをさせたいのかもしれない。」


「俺にしか出来ない事?」


「この世界で現在、リュウほど強力な魔法を使える者はいない。考えてみれば、俺達が魔法をユーリカとエーリカから習って使えるようになってからまだ1年も経過していない。向こうの世界の魔法修得事情は知らないが、魔法が当たり前のようにある世界で、魔法と共に生活していたユーリカとエーリカ

だってリュウみたいな大威力の魔法は使えない。そう考えると、俺やリュウの妹もそうだが、特にお前の魔法能力は異常だ。謎の声の主はリュウのそうした能力に注目している。」


なんか話がとんでもない方向に向かっているし、なんか恐くなって来たのだが。


「そして、満峰神社の女神や炎龍から加護を得ている事を考えると、謎の声の主はこの国の八百万の神、その何れかの神だろう。」


「じゃあ、あの声が日本の神々の一柱だとして、俺に何かをさせようという事か?」


「まあ、飽くまで推測でしかないけどな。」


モンスターアタックが発生してからこっち、俺はすっかりこの件に嵌ってしまっている。事ここに至っては、もう抜け出す事は出来ないだろう。


以前にふと考えた事がある。もし、斉藤と秩父にきていなかったら?そもそもモンスターアタック自体が他人事だったろう。


あの時にエーリカに出会わなかったとしたら?俺は斉藤とどうにかして秩父から脱出していたはずだ。


そして、サキと出会い、何故か後輩の舞や妹の雪枝までが秩父にいた。魔法と異世界に関わってしまった舞と雪枝は地上には戻せなくなり、この世界で頼る者がいないサキも含め、俺が彼女達を守らなければならなかった。


斉藤と秩父に来た事は齋党による謀によるものとはっきりしているが、その他の事もひょっとしたら人智を超えた存在によって全てが俺を秩父に留め、この件から離脱出来ないように仕組まれた事なんじゃないかと。


考えすぎと言われたらそうかもしれず、かと言って不満がある訳でもない。ただ、我ながらとんでもない事に関わってしまったものだと思う。斉藤は親友であり、雪枝は掛け替えの無い大事な妹。エーリカとサキと舞と真琴。彼女達は大事な俺の恋人達だ。例えそこに誰かの思惑があったとしても、皆を守る事が出来、共に過ごす事が出来るのであれば、俺はそれだけでいい。



「それと気になるのが、その声が言ったという"枠に自分を嵌めているから魔法が使えない"という言葉だ。人は誰しも様々な物事に縛られ、枠に嵌められて生きている。性格、能力、外見、生まれ、育ち、人種、性別、年齢など上げ出したらキリがない。しかし、逆に言えばそうした縛りや枠こそが人を人たらしめている、とも言える。」


それはあれかな。バイト先の警備会社のインストラクターの山西先輩が箱根の研修所で熱く語っていた、汎用人型決戦兵器的なアニメの、なんとかフィールドっぽい奴か?


斉藤はやっぱり話したかったからか、更に続ける。


「魔法に関して言えば、謎の事の主が言っていた属性、固定概念、限界なんてものは正に精神や魂を縛る枷のような物だ。リュウが新しい魔法が使えるようになったのも、炎龍や謎の声の主がリュウに与えた言葉により、リュウの精神を縛る固定概念のひとつが解除されたからだろう。」


それは何となくわかる気がする。あの時は炎龍=炎という思い込みが、炎=炎龍=龍神=水神というように変換された途端、「〜は出来ない」という固定概念が消えていくのがわかった。そして新しい魔法が使えるようになったから。


また、斉藤には言っていなかったが、あの時、一瞬ではあったが、自分の意識が空や大地いっぱいに広がり同化していくような気がしたのだ。あたかもそのまま自分が自然と一体化して消えてしまいそうな。なので、それも話した上で斉藤の考えも聞いてみたくなった。


「なるほど。じゃあ仮に人の心からそうした縛りや枷が一切無くなったとしたら、その人は一体どうなると思う?」


「え?それは、もしそうなったとしたら、自我が弱かったら自然と同化して消えてしまうのかもしれないし、もし自我を保てたとしたら、それはそれこそ神の領域じゃないか?」


一体この国の神様は俺を何にして、何をさせようとしているのだろう?まあ、神のみぞ知るのだろから、考えてもしょうがないか。それにちょうどいいタイミングでエーリカ達が戻って来た。


「リュータ、いいお湯だったよ。」


エーリカも舞も真琴もアーニャも湯上りで頬が上気して、四人ともとても綺麗だ。


よし、いまは考えるのはやめだ。俺も風呂に入ってサッパリしよう。風呂に入れるのも人間の特権だから。








お読みいただきまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。

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