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第67話 プリンツ カイネル

防御壁の上に降り立った俺は、ふうやれやれといった感じで背中にしがみ付いているラミッドとアミッドが離れると、お姫様抱っこしていた負傷兵君を地面に降ろした。下はコンクリートだが、まあそれはしょうがない。


すると、負傷兵君は「うっ」と一言呻くと、薄っすらと両瞼を開いた。その瞳は意識状態と同様にぼんやりと焦点が合っていなかったが、徐々にはっきりとしてきて俺の存在に気付いたようだった。


「あれ?ここは… 俺、あの化け物に吹っ飛ばされて…」


「お前、死にかけていたから俺達で助けておいたぞ。」


「そうなんだ、有難う、ってハーレムキング⁈」


こいつ、このまま魔物の群に放り込んでいいかな?


「命の恩人に対して結構な呼びようじゃねか。」


俺はこの失礼極まる男に、ほんの少しだけ威圧を込めて睨んでやった。


「す、すみません。あの、名前知らなくって、その、」


怯えながら何やら途切れ途切れに言い訳を言い始める負傷兵君。まあ、重症な怪我人にこれ以上プレッシャーかけるのも悪いから、この辺で勘弁してやろう。


「まあ、いい。俺は土方だ。お前は?」


「大沢です、階級は伍長。あの、土方さん。助けてくれて有難う御座いました。それで、部隊はどうなりましたか?」


大沢伍長、調子も戻って来てようだ。口調もしっかりしてきついる。生命の危険脱したというところか。


「安心しろ、無事脱出した。魔物は航空宇宙軍が空爆で片付けるそうだ。」


「…そうですか。」


大沢伍長は遣る瀬無さそうに呟いた。彼の今の気持ちはわからないでも無い。


この駐屯地の部隊は歩兵であれ、砲兵であれ、魔物を封じ込める要塞としての駐屯地の役割を果たすべく、死力を尽くして戦った。それまで出現していなかったワイバーンの群による空襲というイレギュラーがあり、それによって駐屯地自体が大被害を受ける結果となっても、要塞を死守すべく踏み止まって戦い続けたのだ。


多くの犠牲を払い、大沢伍長自身も瀕死の重傷を負った。空爆で魔物を屠るとなっても、彼等にしてみれば今更だろう。きっとこう思うはずだ。遅い、何でもっと早く来ないんだよ、と。


俺なら口に出して言ってしまいそうだが、大沢伍長はそれを口にはしなかった。それが予備士官と現役下士官の差なのかもしれないが。


だが、こればかりは仕方のない事ではある。これは苦戦を強いられた部隊の将兵が、それこそ遥か古代から思い、呟き、時には叫んできた事だからだ。あの時に援軍が来ていたら、もっと早く援軍が来ていたら、戦友(あいつ)は死ななかったのに、俺はこんな目に合わなかったのに、と。


戦争という巨大な時代の流れの前には国家であろうと民族であろうと無力だ。個人であれば尚更で、どうにか心の中で折り合いをつけてもらうしかない。


と、そんな遣り取りをしていたその時、俺達から少し離れた辺りに、出現して来る強力な魔力を察知した。ラミッドとアミッドも感じたようで、俺は二人に目配せし、直ちに即応出来るように身構えた。


すると、更に魔力を感じた辺りの景色がぐにゃりと歪み始め、地面に何やら図形や見慣れない文字が浮かび上がった。それは何と言うべきか、俺は実際には見たことは無いが、ラノベや漫画やアニメでお馴染みの魔法陣というものではないだろうか?

ならば、この先はお約束の展開。魔法陣から何かが出現して来るはずだ。


「二人とも、何が来るぞ。油断するな。」


「「わかった。」」


ラミッドとアミッドは力強く返事をし、そしてそいつらは魔法陣の上に現れた。



現れた人数は5人。いずれも鬼族で、皆頭部から2本の角を生やしている。中央には白皙の貴公子然とした美丈夫がいて、この男が主、若しくはリーダーだろう。そのすぐ側には色白で長い黒髪のグラマーな美人。他はどデカいメイスを持ち、和風な鎧に身を包んだ岩のような赤鬼。青白い肌に長い黒髪を後ろで束ねた美人(多分)な剣士。そして、赤銅色の肌に同じく赤毛を一本の三つ編みにして後ろに垂らした鞭のような長身の拳士風の男だ。


(魔族、それも鬼族か)


彼等からは強い魔力を感じる。そして、魔力の有る無しに関わらず、相当な強者である事が窺えた。状況から考えて、この5人が魔王国軍の幹部クラスである事は間違いないだろう。


さて、通行人の振りは通用しないだろうし、ラミッドとアミッド、怪我人の大沢伍長を抱えた今の俺の状況では、あの5人と事を構えるのは少々キツイものがある。さて、どうしたものか。


だが、鬼達は俺の憂慮など知らぬとばかりに動き出した。主に口が、だが。


「その方が先程天候を操った者か?この世界にもなかなかの強者がいるものよ。名は何という?」


貴公子然とした鬼が、俺にそう尋ねた。まだ俺と奴らはお互いについて何も知らないに等しい。奴らが敵である事は間違いのだから、態々ご丁寧に此方の情報を教えて差し上げる必要は無い。だが、多少の個人情報と引き換えにしてでも奴らの情報は必要だ。なので言葉の遣り取りで時間を稼ぎ、そこからの情報入手を試みてみることにする。


「お褒めに預かり光栄だが、この世界では人に名を問う場合は自分から名乗るのが礼儀ってものだ。」


俺のこの返しに貴公子本人ではなく、側近の鬼女は怒りモード。


「ヒト族の分際で無礼な!殿下、この男を殺します。」


貴公子は殿下と呼ばれる身分の者である、と。しかし、この女、いきなり殺すとか物騒この上ないな。


しかし、貴公子は流石に殿下と呼ばれるだけあり、鬼女の意見は「まあよい」とさり気無く却下。そして厳つい赤鬼に目配せすると、赤鬼は「はっ」と短く応じ、ずいっと前に出て良く響く芝居がかった口調でがなり始めた。


「聞け、ヒト族の男。このお方こそ偉大なるティターン魔王国の第1王子であらせられるカイネル殿下であ〜る。恐れ入ったか!」


赤鬼はどうだ!と言わんばかりのドヤ顔で俺を見ている。さあ、恐れ入れ、という事だろうか。いや、でも、カイネル殿下の事俺知らないし、殿下も含めたこの5人が魔力量も多く、かなりの強者である事を認めるに吝かではないが、恐れ入るかどうかと言えば、恐れ入らないかなというところだ。


「…」

「…」


恐れ入る事を要求する赤鬼と恐れ入らない俺は無言で見つめ合う事暫し。どちらも譲らないが、何となく赤鬼が僅かに困ったような表情となってゆき、その表情が暗に俺に何でもいいから反応してくれと訴えているようだった。俺は何となく赤鬼が気の毒になってきたので、まあ、向こうが名乗ったのだからと、俺も名乗らる事にした。


しかし、どう名乗ったら良いものか、天下御免の〜とかカッコいい口上が有る訳でもない。


「俺は土方竜太。姓が土方、名が竜太。日本国陸軍中尉にして、この地の神々より加護を与えられし者だ。」


これでどうだろうか。どんな風に伝わったものか、相手の出方を窺う。


「ヒジカタ リュータと申すか。ならば再び問う。天候を操り、魔物を滅したのはその方か?」


どうもカイネル殿下はそこのところが気になるようだ。確かに、この世界を侵略しようという彼等にしてみれば、俺みたいのが何人も居れば脅威だろうし、彼等の軍事活動にとっても障害となるだろう。だからといって馬鹿正直にはいそうですと答えてこちらの情報をくれてやる程俺もお人好しではない。


「さあ、どうかな。それより魔物にこの要塞を襲わせたのはあんた達か?」


「そうだ。魔物を大量に培養し、戦力となす。この世界では初めて実施したが、なかなか良い結果を残した。その方がいなければこの要塞も落とせただろう。」


カイネル殿下はやや高めの声で、少し得意げに今回の魔物群による襲撃について作戦立案、現場指揮したのが自分だとあっさりと告げた。これくらいは喋っても差し障りの無い情報なのだろう。


すると、カイネル殿下に鬼女が何やら囁いた。こっそりと言ったのだろうが、生憎と俺は身体強化しているので聴覚も当然強化されており、残念ながら鬼女が「あの男は殿下の障害となります。今の内に殺しましょう」と言ったのも聞こえているのだね。


カイネル殿下がそうしてどう出るか。俺は最悪の場合を想定し、奴等を皆殺しには出来なくとも、せめて戦えない程のダメージを与えるべく、いつでも落雷を奴等に落とせるように上空と地面の静電気を高めておく。


奴等も俺が何かしている事を察知したようで、再び双方で睨み合う事一瞬、事態は急展開となった。かすかにゴォ〜とジェット機のエンジン音が聞こえてきたのだ。間も無く上空に航空宇宙軍の戦闘機が飛来し、空爆を行う。


戦闘機のエンジン音はカイネル殿下一行にも聞こえたようで、赤銅色の拳士が「そろそろ引き時かと」と意見具申するのが聞こえた。あの5人の中で鬼女が強硬派のタカ派で、案外赤銅色の剣士がハト派なのが面白い。


カイネル殿下は無言で頷くと、鬼女は一瞬キッと俺を睨みつけ、次に何やら詠唱すると先程と同じく奴等の足元に魔法陣が現れた。


「ヒジカタとか言ったな。我等は此度はここで引き揚げるが我等の力、侮るなよ。さらばだ。」


カイネル殿下は聞き様によっては負け惜しみかとも取れる捨て台詞を残すと、魔法陣の上から現れた時と同じく消えていった。防御壁の向こうにはまだまだ魔物が犇めきあっている。



飛来した航空宇宙軍の戦闘機は計4機。先行する2機が翼下から何か爆弾を投下した。爆弾は正確に魔物の群に落下し、爆弾はナパーム弾なのか広範囲が紅蓮の炎で包まれ、魔物の群はあっという間に炭化していった。


更に飛来した後続の2機の戦闘機が先行の2機と同じく取りこぼしも許さないとばかりに爆弾を投下。防御壁の外側、魔物の群がかつていた辺りを再度の炎で包んだ。


防御壁の上にいてもナパーム弾の熱風が襲いかかる。俺は超電磁バリアを展開してそれを避け、 合わせてラミッド達を熱風から守った。


そして、かつて映画で観たような黙示録的な光景を眺めながら、今回の事態が漸く終わったのだと実感した。












お読みいただきまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ、評価、感想など宜しくお願いします。

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