第64 群れの中へ
秩父地方特別駐屯地(通称 イーザローン要塞)は、その北側を赤平川、南側を荒川に挟まれた二川の合流点に建造されている。この駐屯地は、かつてゴルフ場だった小高い台地に司令部を始めとする主要な施設が設けられ、そこを中心として国道140号線を内包した長方形を成している。
周囲には武者返しが上部に付いている高さ10m以上ある防御壁が巡らされ、更にその外周は塹壕やトーチカが配され、最も外側にはH鋼で組まれた障害物や地雷が設置されている。
しかし、今回の襲撃ではワイバーンによって火砲群が全滅した後、魔物の群がまるで朝鮮戦争時の人民解放軍のように、犠牲を全く顧みない人海戦術ならぬ魔物海戦術で障害物と地雷原を突破している。
そして、遂には防御壁に迫り、群は左右に鶴翼を広げ、これを迎撃する駐屯地の混成部隊を包囲している。
俺達は魔物の群に包囲されている混成部隊の窮地を救う為、駐屯地北側の戦場に向かった。そして、そこで目にしたものは、今まさに蹂躙されつつある歩兵部隊だった。
「大将、オーガキングがオーガジェネラルを率いてやがる。有りえねえんだ、本来こんな事は。」
アラン兄さんの指摘に異世界からの転移者達が一斉に頷く。彼等から見てもこの群の魔物供はどれも規格外の異常な個体という事だ。
「あの魔物の包囲に穴を開け、中の将兵を脱出させたい。俺が突破口を開くからみんなは援護して欲しい。」
みんなの言いたい事は想像つくが、もうここで作戦会議をしている時間は無いので俺の構想を押し通す。しかし、流石に一人ではエーリカ達も心配するし、現場で何かと不便だ。
「ラミッド、アミッド、一緒に来るか?」
「「そう来なくっちゃ!」」
うん、実にいい返事だ。二人とも今まで見てるだけだったからやる気満々だな。
「タケ、こっちは頼む。」
「わたった。無茶はするなよ。」
俺は斉藤に後事を任せた。そしてエーリカ達を見ると、案の定軽く俺を睨んでおり、舞と真琴も何か言いたげな様子だ。
「駐屯地の将兵が無事に脱出したら、そこで一気に魔物を殲滅する、それだけだ。すぐ終わるよ。だから大丈夫。こんな言い方狡いと思うけど、俺を信じて欲しい。」
彼女達を安心させようと、俺はそう説明して明るい表情で笑いかける。
「本当、狡いよリュータは。」
「でも、やるしかないんですよね?先輩。」
「絶対、必ず帰って来てね、竜太。」
勿論、そのつもりだ。俺は彼女達に力強く頷くと、もう一刻の猶予も無いので、そのままラミッドとアミッドの腕を掴んで魔物の群れも飛び越えて、魔物の群の後方に向けて飛びたった。
「「空飛ぶなんて聞いて無いよぉ〜」」
二人の抗議は無視。防御壁の上から一気に魔物の群を飛び越え、その背後に着地した。
俺達の目の前には身長2m以上はある大型の人型魔物。そいつらは一際大きな個体に率いられる幾つかの群から成る集合体であった。オーガキングが率いるオーガの群れ、オークキングが率いるオークの群れ、ミノタウルスキングが率いるミノタウルスの群れ、ゴブリンキングが率いるゴブリンの群れといった具合で、その全てが棍棒、剣、槍、戦斧などの武器を持っている。
ラミッドとアミッドはやる気満々で来たものの、目の前の光景に言葉を失っていた。無論、二人とも既に実戦は経験していて、満峰山周辺の魔物狩りではいつも大活躍だ。しかし、そうした小規模な群れやはぐれ魔物を狩っていたのとは違い、これだけ大型の魔物の大群を近距離で目の当たりにするのは二人とも初めてなのだから無理もない。まあ、俺も初めて見たんだけど。
魔法も徒手格闘術も剣術も、二人の実力は教えた俺が一番良く知っている。この群れの魔物と一対一で戦ったなら危ないところだが、二体一なら決して遅れはとらないと断言出来る。
俺は両手で二人の肩を掴んで抱き寄せる。アラクネから助けた頃と比べて、二人とも背が伸びたし、随分と体格も良くなったな。兄貴は嬉しいぞ。
「俺がこれから大威力で広範囲に魔法を発動させる。その間、お前達は魔物が俺に近づかないように辺りを警戒していてくれ。でだ、魔物と戦う事になったら必ず二人で連携して当たれ。わかったか?」
しかし、二人はすっかり戦場の空気に呑み込まれてしまい、ただ無言で頷くのみだ。うん、これは良くないね。なので、俺は肩を抱いていた両手をそのまますっと降ろし、二人の脇の下に滑り込ませてくすぐった。
「「うひゃー、やめろよ兄貴〜」」
「頼むぜ、二人とも!」
まあ、かなり無理矢理だったが、これで二人の緊張も解けた事だろう。だが、二人がくすぐられて上げた声で気付いたのか、一体のゴブリンウォーリアが、ああん?何だお前らは?といった感じで肩を怒らせて近づいて来た。
「ほら、手頃なのがこっちに来るぞ。」
さあ行ってこい、と俺は二人の背中を押す。ゴブリンウォーリア一体なら二人掛かりで余裕だろ。
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