第58話 リュータズ・エンジェルズ
守るべき人達の安全は取り敢えず確保した。俺は吸い込んだ魔素を魔力操作で魔力に変換していく。臍の下辺りから熱い魔力が全身に漲って行くのがわかる。
俺は大量の魔力による全能感に浸り、愛刀雷丸に魔力を通し、魔物を迎え撃つべく雷丸を八相に構えた。魔力により雷丸は紅く輝く。
魔物は続々と地上に降り、最も近い位置にいたモスマンが翼を大きく広げて毒鱗粉を飛散させようとしていた。まずい、と思ったその時、そのモスマンは光の矢で胸を撃ち抜かれ、そう勢いのまま後ろに倒れた。モスマンは次々と翼を広げようとしていたが、或いは氷の槍で串刺しにされ、三体で固まっていたガーゴイルは水刃で切り刻まれた。それらは今までには何度も見ている技で、誰のものであるのかわからない俺じゃない。しかし、魔物と対峙している状況なので安易に振り向く訳にはいかない(怒られるのが怖いのもある)。
こんな時は何て言えばいいのだろうか?「有難う」なのか、「ごめん」なのか。そんな俺の逡巡など気にも止めず、技の使い手からは容赦のない言葉がかけられる。
「リュータ、言い訳は後で聞くから、まずは目の前の魔物を片付けましょう?」
「…ブ、ラジャー。」
そして、俺達による一方的な攻撃が開始された。俺は雷丸に集めた魔力を八相の構えから手近にいたガーゴイルに向けて振り抜く。雷丸の魔力はそれにより斬撃となって放たれ、ガーゴイルを左斜めに肩から右腸骨にかけて両断した。俺の背後からは無数の光の矢、氷槍、水刃が飛び交い、モスマンもガーゴイルも関係なく切り裂き、撃ち抜き、貫いて殲滅していった。
上空に魔物の姿は無く、地上には動く魔物の姿は無く、夥しい魔物の死骸が累々と重なっている。この殲滅にかかった時間は何秒くらいだったか。
「ううん、おっほん」
わざとらしい咳払いが聞こえたので、恐る恐る振り返ると、そこにはエーリカ、舞、真琴、アーニャ(え?アーニャ?)の四人が少し怒った表情で俺を睨んでいた。
「リュータの考えなんてとっくにお見通しよ!リュータ、自分ばっかりずるいよ。一人で背負わないって約束したの忘れちゃったの?」
「先輩、先輩が私達の事を大切に思ってくれているのはとても嬉しいけど、私達だって先輩と一緒に戦えます!先輩の力になれます!」
「竜太、ずっと一緒だって言ってくれたけど、こういう時だって一緒でしょ?」
「…」
三人が三人とも両手を腰に当て、怒ってるポーズだ。彼女達からは表面上の怒りよりも、自分達を必要としてくれないのか、信頼してくれないのかという悲しみ、そして、俺が傷つく事への恐れが伝わってくる。アーニャはオロオロしていたが。
家族から相手にされず、家族が有りながらも実質一人で生きてきた俺にとり、失うものなんて無いし、守るものも特に無かった。刹那的に生きてきたと言えるかもしれない。だが、今の俺には大切な人達がいる。守らなくてはならない人達がいる。エーリカ、舞、真琴、サキに雪枝(は妹だが)、みんな自分の命よりも大切な恋人達と家族だ。彼女達が傷つくのが恐い。彼女達を失うのが怖い。だから一人で戦おうとした。
「ねえリュータ、私も、舞も、真琴も、ここにはいないけどサキだって、みんなリュータと気持ちは同じよ?私達だって、皆あなたが傷つくのが恐いし、あなたを失う事が恐いの。だからあなたが戦って、私達だけ安全な場所にいるなんて事はとても出来ない。あなたと一緒にいたいの。それだけはわかって欲しい。」
エーリカには俺の考えが分かるのだろうか。それは兎も角として、俺と彼女達のお互いを思う気持ちは一緒でも、結果的に俺の独り善がりで彼女達を悲しませてしまった。
「エーリカ、舞、真琴。心配かけて済まない。それから、一緒に戦ってくれて有難う。これから俺の背中をみんなに預けるから頼む。」
三人は笑顔で「任せて」「絶対守ります」「竜太は前だけ見ていて」と言って、大きく頷いてくれた。
もっと高みを目指し、もっと強くならなければならない。彼女達の笑顔は俺にそう決意させるに十分な輝きを放っていた。
(そうだ。そうれでいい)
不意に誰かの声が聞こえた。それは低く響く厳かな男の声だった。一体誰の声なのか。
「どうしたのリュータ?」
「いや、何でも無い。大丈夫だ。」
それは単なる空耳なのか、誰かからの念話だったのか気になるが、今は目の前の事に専念しなくてはならない。そして国防軍は果たしてどう動くのか。だが、その前に、
「ところで、アーニャはどうしてここにいるの?」
「この娘、どうしても行くってきかなくって。」
「悪い?だって、なんか、あんたが心配だったから…」
「まあ、付いて来ちまったものはしょうがない。俺から絶対に離れるなよ?」
「うん。」
「「「…」」」
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