第51話 ご褒美狂走曲①
昨年の9月に斉藤と2人で訪れた秩父でモンスターアタックに遭遇、あれから8ヶ月が過ぎた。
ゴブリンに襲われて戦い、エーリカとユーリカを始め多くの人達と出会い、様々な出来事があったが、今日、こうして国から転移者達への援助が決まり、一つの区切りがついたと言える。俺や斉藤がエーリカ達の助けを借りながらも孤軍奮闘しなければならなかった時は終わり、事態は次のステージに移ったと俺は思う。
俺は肩の荷が一つ下りた安堵感と解放感もあり、話し合いも終わって解散となった後、ちょっと一人でホッと一息つきたくなったのもあり、久々に缶コーヒーが飲みたくなった。
俺はエーリカに手洗いに行くと伝えて会議室を抜けた。会議室のある階の上階にホワイエがある事を階段の施設案内図で確認。俺はこんな事もあろうかと思って持って来たキャッシュカードを出し、自販機で微糖の缶コーヒー(昔からあるニカッと笑う男の顔の奴)を購入、そして誰もいないホワイエで奥秩父の峰々を眺めつつ、俺はプルトップを開けて一口飲んだ。たちまち口の中に広がる仄かな甘みと苦味。
(ふぅ、ほっとするね。)
すると、誰かが近づいて来る気配を感じた。この魔力は真琴だろう。
「竜太君、ごめんなさい。大事な事なのに黙っていて。」
真琴は階段に繋がるホワイエ端の暗がりから姿を現わすと、開口一番にそう謝罪の言葉を口にした。
真琴はしゅんとしょげた表情で俯いていた。今日は久々に見る濃緑の制服姿。凛々しくも、肩を落として俯く姿もまた魅力的だ。
俺は持っていた缶コーヒーを幅のあるホワイエの窓枠に置くと、真琴の両手を握って思うところを話した。
「真琴が謝る事なんてないよ。俺だって別に怒ってなんてないし。」
「でも、私は竜太君やみんなが転移者達のために頑張っていた横で、国が既に援助を決めていた事を知っていたのに、それを黙っていたのよ?」
真琴は俺を見上げ、自らを責める言葉を口にした。
「口止めされていたんだろう?真琴には真琴の立場があるんだ。俺だってそのくらい理解しているよ。それにこうして国から援助を受けられる事になったのも真琴がいてくれて、頑張ってくれたお陰だ。有難う真琴。感謝しているよ。」
「本当?」
真琴の表情がパァっと輝いた。
「もちろん。」
真琴はそのままスッと距離を詰め、俺達はやや密着。
「じゃあ、何かご褒美欲しいかな?」
ご褒美か。一応何が欲しいのか聞いてみる。
「何がいい?俺に出来る事なら何でもするよ?」
「う〜ん、それじゃあ、」
そう言うと、真琴は左右に視線を走らせ、素早く誰も居ない事を確認すると、俺を見上げたまま少し背伸びをして瞳を閉じる。
うん、これはまあ、そういう事だよな。
俺は右腕を真琴の腰に回して更に抱き寄せ、左手を頬に添えて真琴の唇にそっとキスをした。
お互い抱き合いながら唇を交わし合う事暫し。そして唇を離した後も、抱き合って互いの存在を心身に刻み込む。
「素敵なご褒美有難う、その、竜太。」
真琴は少し恥ずかしそうに俺の名を呼んだ。俺は真琴の中で「竜太君」から「竜太」にメガ進化したようだ。
「どういたしまして。」
抱き合っていた俺達は少し上半身を離してそんな会話を交わと、真琴は再び俺に身体を預けてきた。真琴のさらさらの黒髪を撫でる。
「好きだよ、真琴。」
「私も好きよ、竜太。」
と、とてもいい感じでいたのだが、
「「!!」」
俺達は同時にこの駐屯地に迫り来る大量の魔物と思われる魔力を察知したのだ。
「竜太!」
「あぁ、みんなと合流しよう。」
「ええ。」
俺と真琴が階段へ向かうと、外から連続した爆撃音が響き、続いて振動が建物を微かに揺らした。
魔物の群れがこの駐屯地を襲っている。戦闘が始まっていた。
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