第40話 食糧求めて回廊へ
有志連合軍の兵士達を引き連れて満峰山に到着すると、宿坊も参道の店舗も駐車場も彼等の受け入れ準備で皆大童だった。狼獣人達も進んで準備を手伝ってくれている。
この満峰神社が避難所となっていた頃、宿坊や参道の店舗、駐車場の大型テントなど全てを活用し、その収容能力は最大で400人というところだった。俺達が満峰山に辿り着いた時には、ヘリでの救出が始まっていたから400人がいる場面を見た事はなかったが、転移者達が300人となっても収容自体は可能だろう。しかし、問題は食糧だ。宿坊の駒木さんによれば、現在の在庫量では節約しても一週間を待たずに底をつくという事だった。
早速、俺は昨日集まったメンバーを再招集して対策会議を求めた。
「もう方針は昨夜の会議で決めたのだから、その通りに実行するだけじゃないのか?」
斉藤は、今更なんだという態度だ。まあ、そうなんだが。
「昨夜の内に無線で原隊へ援助要請してあるわ。」
「そうか、仕事が早いな。有難う、真琴。で、反応はどう?」
「うん。内容まではわからないけど、国防省が援助要請を受けてくれるみたい。2〜3日中には迎えのヘリを寄越すから、"イーザローンで会いましょう"との事よ?」
「そうか!良かった。」
「私も昨夜に本部に報告してある。その援助交渉には他の省庁も噛んでくるかもしれんよ。」
「宮司さん、有難う御座います。援助してくれる所は多いに越した事は無いですからね。」
国防軍は害獣出現特別封鎖地区(略して害特封地)から外部へ通じる道路や河川などの回廊部分に軍事基地を築き、監視、警戒、魔物の外部への漏出防止を行なっている。高い防御機能と重武装を備えたそれらの軍事基地は、その目的と立地条件と機能から要塞と呼ばれ、荒川と赤間川の合流点にあるゴルフ場に築かれた秩父盆地の要塞は、誰からともなく"イーザローン要塞"と呼ばれているとか。
確かに秩父盆地から関東平野へと通じる"回廊"に出来た"要塞"だから、言い得て妙な訳だが。
そのイーザローン要塞において、真琴と斎藤宮司の骨折りで援助を受ける為の交渉を持てる事となった。陸軍がヘリでの俺達を迎えに来るという。そのヘリも信用出来るのか、という問題もある。なんと言っても前科があるからね。かといってこちらから時間までに陸路を徒歩や自動車で行くのは、この人数では至難の業だ。
だが、もう事態はそういった事を懸念している余裕など無い。毒を食らわば皿までであり、もし謀られたなら、その時はその時で目にものを見せてやろう。君らの行いがいけないのだよ、フフフ
そして交渉相手だが、交渉場所になるイーザローン要塞こと陸軍秩父特別駐屯地の駐屯地司令になるという事。しかし、真琴によると、実際には駐屯地司令とその幕僚、国防省の官僚。そしてオブザーバーとして、場合によったら与党の国防族の若手議員も同席するかもしれず、更に厚生労働省や環境省の官僚も来るかもしれないそうだ。
そんなエリートで海千山千の連中を相手にするとか、たかだか一大学生に過ぎない俺には荷が重過ぎて、いいようにやり込められてしまいそうなんだが。
「いいか、リュウ。お前が言うように、俺達は所詮学生であり、どこかに認められた正式な団体でもない。おそらく、交渉しても覚書を交わすなんて事まではしてくれないだろう。」
「実にシビアな現実だな。」
「だから次に俺が言う事項を押さえて向こうから援助を引き出せれば、それで十分だ。」
斉藤が言うところの押さえるべき事項は次の二つ。
・異世界からの転移者について、基本的人権を認め、彼等についての情報の開示は視覚、聴覚からのみとする。(要は見た目と出身地が違うだけで同じ人間なんだよ、だから人権に配慮して彼等の意思を無視した検査とか実験とかには応じませんよ、という事)
・魔法に関して、基本は先日に話し合った通り。大気中から魔素を吸収し、体内で魔力に変換する術(魔力変換)については開示を厳禁とする。
「しかし魔法に関して、これだと初歩の魔法のみになって、魔力変換が使えないと国防軍の戦力増強にならなくないか?」
と、俺がそう疑問を呈すると、忽ち斉藤の反論を皮切りに、俺は一斉攻撃を受ける羽目になった。
斉藤「国防軍の戦力増強なんて俺達の知った事ではないぞ。リュウ、お前が今第一に考えなければならないのは転移者達の取り敢えずの地位と飯の確保だ。余計な事は考えるな。」
真琴「初歩の魔法でも、今西大尉達はそれでしっかり魔物と戦って結果を出していましたよ?」
舞「それにこれは飽くまで"叩き台"ですよ先輩。こちらからの提供内容がそれ以上になるかそれ以下になるかは先輩の交渉力次第です。私が付いてますから頑張りましょう。」
エーリカ「リュータがいくら強くなったからって、一人で出来る事は限られているのよ?リュータは女神様から託された事を第一に考えればいいんじゃない?」
ユーリカ「そーそー、お姉ちゃんの言う通り!」
あまりの孤立無援状態に、救いを求めて周りを見ると、さっと顔を背ける斎藤宮司、そして妹よ、お前もか。
気を取り直して、問題は誰が俺と一緒にイーザローン要塞へ行くのか、という事になる。
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