第38話 山(で)猫は眠れない①
10月から連載を始めたこの小説もお陰様で3ヶ月。徐々に読んでくださる方々も増えました。私の拙い作品をお読み下さって有難う御座います。
明くる令和2年が皆様にとって良い年となりますように。
狼獣人達を保護した事で満峰神社の抱える人口は
、再び避難民がいた頃と同じ程に増えた。まだ満峰神社が避難所だった頃の食糧や生活物資がかなり残っている。そうした在庫を調べたところ、節約すれば今の人数でも二週間程は大丈夫だという事がわかった。
取り敢えず、少しではあるが時間の余裕が出来た。その間に食糧や生活物資の確保について、何とかしなければならない。
翌朝、朝食は狼村有志の参加もあって、昨夜よりも余裕を持って準備する事が出来ていた。そのため、手の空いた俺は三郎丸と境内から山の周辺の見回り(散歩じゃないよ)に出掛けた。因みに、俺は魔物狩りなどで神社から離れていない限り、朝夕は三郎丸と見回りをする事にしている。散歩、じゃない、見回りの後は念入りにブラッシングをする。なんかそういうのに憧れていたんだよね。そのせいか俺達は随分と仲良くなっているのだ。
暫く行った先で何やら空間が歪むような感覚を覚えた。
「サブちゃん、何か現れたようだな。」
『リュウ、行って見てみるぞ。』
俺と三郎丸は、その感覚があった方向へと急いだ。
そこは秩父湖から満峰神社の駐車場へと至るつづら折りの道路上。辺りには薄っすらと霧がかかり、そしてアスファルトの道路上、その至る所に立ちすくむ、或いは座り込んでいる者達の姿があった。
霧は空気の対流で更に晴れて行く。俺と三郎丸が彼等に近づいてみると、果たして彼等は様々な獣人達であり、何故か呆然とした表情をしている。そこで俺は近くで立ちすくんでいる赤毛の猫獣人の女の子(高校生くらいか?)に声をかけた。
「君、大丈夫かニャ?」
しまった。何でかわからないが、語尾に 'ニャ" とかつけちまった。
「ひ、ひゃい?」
その猫獣人の女の子は呆然としていたところで不意に声を掛けられたからか、素っ頓狂な声を上げて驚いた。どうやら "ニャ" には気づかなかった模様。
「驚かせて済まない。君達もエルム大森林の住民だよね?俺はこの土地の神様から君達を助けるよう頼まれている者だ。話を聞かせてくれないかな?」
「えっ、神様から?それじゃ魔王国軍は?」
彼女達は魔王国軍に追われていたようだ。ガーライル達はまだ魔王国軍との接触はなかったが、この獣人達は既に魔王国軍と戦闘状態にあったか、襲撃されて逃げる途中だったようだ。
「魔王国軍はここにはいないと思うよ。」
「そっ、そうなの?じゃあ、私達助かったの?うぅわぁーん」
猫獣人の女の子は俺の言葉に安心したのか、路面にへたり込んで泣き出してしまった。
そのような状況の中、突然仲間の泣き声が聞こえたからか、周りの獣人達も我に返って血相変えて集まって来た。
「ターニャ、どうしたの、魔王国軍?」
泣き出したターニャちゃんというらしい女の子より少し年上っぽい赤毛の気の強そうだけど美人な猫獣人の女の子が、ターニャちゃんに寄り添って肩を抱き、そして俺を睨み付ける。
「お前達、何者だ?ターニャに何をした?」
そう詰問される俺と三郎丸。俺達はまさかの不審者扱いに思わず顔を見合わせる。そして気が付けば、騒ぎを聞きつけて集まって来た多数の獣人達に囲まれ剣や槍を向けられる始末。
すると、泣いていた女の子ターニャは、この状況に気付き、慌てて獣人達を止めにかかる。
「ち、違うの。この人達は魔王国軍なんかじゃなくて、この土地の神様のお使いで、私達を助けてくれるって言ってくれているの。」
ターニャは必死にそのように説明する。
「本当か?」
たが、はいそうですか、とはならないのが世の常だ。気の強そうな美人猫獣人は、尚も疑わしげな目つきで俺を見ている。すぐ信じろというのも無理な話だとは思うが、だからといってそんな目を向けられていい気分はしないよな。
「本当だ。この山の上にこの土地の神様の社と俺達の拠点があり、君達のようなエルム大森林からの転移者達を多数保護している。君達も勿論助けるが、怪我や病気で歩けない者はいるか?いれば迎えを寄越す。」
「……」
赤毛の美人猫獣人の女の子は、俺が説明しても疑わしげな態度を変えず、俺を睨み続けている。
「まあ、嫌なら無理にとは言わんがな。」
我ながら余計な一言だったな。自分で言ってからそう思った。いくら相手の言動にカチンと腹を立てたからといって、まあ、俺もまだまだのようだ。
「やめろアーニャ。こちらの方々は俺達を助けてくれようとしているんだぞ。何でそのような態度をとるんだ?」
見ると一人の青年猫獣人(こちらも優男風のイケメンだ)が、俺とアーニャというらしい猫獣人の女の子の間に割って入った。
「折角助けてくれようとしてくれているのに、失礼な態度をとって済まない。私はバローニ、見ての通り猫獣人だ。魔王国軍に追われていて、気が着いたらどういう訳かこの場所にいた。私達を助けてくれるというのは本当かい?」
良かった。この人とは話しが出来そうだ。
「俺は土方竜太という。こちらは神使の三郎丸。勿論本当だ。話せば長くなるから手短に言うと、ここは君達のいた世界とは別の、いわば異世界になる。エルム大森林の大精霊が、魔王から住民達を守るためこの世界に転移させている。俺はこの土地の神様から頼まれて、君達のような転移者達を見つけ次第保護している。」
「そうか、じゃあ俺達は本当に助かったんだな。」
バローニと名乗った青年猫獣人はホッとしたように呟くと、力が抜けたのかヘナヘナと路面に膝をついた。
『さっきは私と言ってたのに今は俺って言ったよな?』
" 安心して気が抜けて思わず地が出たんだろう?まあ、そこはスルーしてやろうぜ"
『リュウが語尾につけたニャみたいにか?』
" … "
忘れかけていた "ニャ" をここでブッ込んでくるとは。三郎丸、恐ろしい狼。
お読み下さいまして、有難う御座います。




