第37話 狼だよ、全員集合!③
ユーリカの懸念には俺も同感だ。こちらから何も提供出来ず、国から一方的な援助を受けるという事は、俺達が何ら食糧生産の術を持たない以上、俺達は国に援助という名の生殺与奪の権を握られ、ユーリカが言うように国によって軛をかけられてしまう恐れがある。
「国と対等な立場、までは無理としても、ギブアンドテイクの関係までは持ちこむ必要があるな。」
斎藤宮司はそう言って、うむと腕を組んだ。
「じゃあ、狼村の皆さんに魔物狩りを手伝って貰うというのはどうですか?」
舞がそのように提案すると、忽ちガーラリーさんは賛意を示す。
「村から腕利きを集めます。是非やらせて下さい。皆さんの好意に甘えてばかりいる訳にはまいりません。」
「舞の案はとても良いと思う。狼の皆さんだけじゃなく、恐らくこれから多くの転移者が現れると思うの。だから、転移者の皆さんに自警団というか、民兵組織を作って貰って、食糧などの援助と引き換えに魔物狩りや害特封地内部の調査、護衛、運搬事業などを請負えば、国とのいい取引材料に出来るわけだし。」
と、真琴が舞の提案を更に肉付けしていった。
「今、国防軍が害特封地から外部へ通じる "回廊" 部分に軍事施設を築いている。そうした "要塞" で物理的に魔物が害特封地の外へ出ないようにするためだ。だが、俺達が調べる限り、異世界からこの世界へ魔物は今も送り込まれている。このままだと、何れ増え続けた魔物が大群となり、雪崩を打って外に溢れ出すだろう。」
斉藤はそこまで言うと、持参した水筒からお茶を一口飲み、そして更に話を続ける。
「だから、害特封地の内部から魔物の個体数を減らしていく事は、魔物の外部への暴走を未然に防ぐ意味でも重要だ。国というか、政府にしてみれば、安価な食糧援助で、国民や軍に犠牲が出る事無く、俺達が魔物狩りを請負うならば、それは国にとって悪い話ではない。また、万が一援助の事実を野党に追求されたとしても、それは飽くまで人道援助と言い切る事が出来るだろう。」
斉藤が言うと実に説得力であるのだが、そこで俺は一つ疑問を呈してみる。
「タケ、では仮に国が俺達に" 別にそんな事は無用だから、援助しない" なんて言ったらどうする?」
「そこで重要になるのが "魔法" だよ、リュウ。」
斉藤の考える切札とはこうだ。魔法の存在は俺とオークキングの戦いの動画がSNSで拡散され、また、今西大尉達にも教えて修得者もいるので既に世間に知られている。そして魔法を修得した今村大尉は、既存の戦闘技術と魔法を組み合わせた "魔法特殊戦闘" を考案し、魔物狩りという実戦でその有効性を証明、その報告書から国防軍は勿論の事、様々な機関や企業から魔法の情報や技術、魔法技術の修得者が求められている(実際に謎の組織に狙われて拉致されかけたしね)。
そのため、俺達が魔法情報を国に開示する対価として食糧や生活物資などの援助を要求すれば、それに応じる可能性は高い。更にそうなった場合、以前にあったような拉致誘拐などの不法な魔法情報の入手手段から国によって俺達が守られ、且つ、魔法情報が世間に無秩序に流出する事態もある程度防ぐ事が出来る、というものだった。
俺が思うに、斉藤は武装及び組織化した転移者による魔物狩りと魔法情報の開示を国から援助を得る為のカードとして既に考えていたのだろう。もしかしたら、ユーリカが呈した懸念も二人で示し合わせていたのかもしれない、とかは俺の考え過ぎか?
「でも、魔法を教えるといっても、どこまで教えていいのか、その範囲を決めておかなくちゃダメよね。」
エーリカがそう言うと、再び斉藤が応じる。
「そう、だから情報開示は小出しに極一般的な魔法に留め、それぞれが持つ奥義的なものや、自分達で開発した魔法や技術は対象外とする。」
「魔法情報を開示するにしても、政府や軍から強要された場合はどうするんですか?」
舞が問うように、開示のコントロールをどうするのか、という問題がある。ここまでと限定して魔法情報を開示しても、それ以上の開示を要求され、それに応じないと援助の質や量を下げたり、中止をチラつかせたり、などという可能性もあり得るのだ。
「忘れたか?魔法を使えるようになる条件を。」
この世界の人間が魔法が使える、修得出来る条件は三つある。まず魔力がある事。次に魔力をコントロール出来る事。そして魔法の存在を信じる事が出来る事だ。
「そうか、魔法を修得するにしても、そもそも魔法があると信じる事が出来なければ魔法は修得出来ない。だから魔法を修得するにはこの満峰神社まで来なくてはならない、という事か。」
「正解だ、リュウ。」
この世界の人間は行使されている魔法を見ただけでは魔法を教えても使えるようにならない。この世界の人間は、何故か魔法を見ても珍しい現象を見たくらいの感覚に留めてしまうのだ。それは深層意識の中で魔法の存在を拒否しているのだろう、満峰山魔法研究所(仮)ではその様な仮説を立てたのだが、俺も同感だ。
そのため現段階では、魔法を修得するには実際に魔力を体感できる魔力交流が必要となるのだが、魔力交流をしてもなお、魔法が修得出来ない者がいるのだ。それほどこの世界の人間にかけられた魔法を否定する暗示は強い物といえる。
そして何よりも、魔力交流はより強い魔力を持つ者が実施した方が効果が現れ易い。実際、魔法を修得した今西大尉の部下が同僚に魔力交流を施してみたが、その同僚は魔力を体感しつつも魔法は使えず、俺が魔力交流をやり直したという事があったのだ。
「国も軍も企業なども魔法が欲しい。しかし、視覚的に魔法情報を得るだけでは魔法は修得出来ず、魔法を修得するためにはこの満峰山へ来て、且つ、俺達から魔力交流を受けなければならない。つまり、国から援助を得る為に魔法を取引材料にするにしても、その主導権を握るのは俺達だ、という事だ。」
「「「おおーっ!」」」
実に素晴らしい案だ。やっぱり斉藤は天才だと思う。まあ、相手が乗って来ない可能性も有るが。
こうして今後の方針が決まった。後は真琴が彼女が持つチャンネルから国防軍の上層部へ、斎藤宮司が齋党経由で政府へ、それぞれ異世界からの転移者の存在と、彼等への援助要請を打診する事となる。
えっ?何でチャンネルを一本化しないのかって?そりゃあ、要請先が一つだけだったら足元見られるかもしれないからね。
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