第36話 狼だよ、全員集合!②
狼獣人の村人達は、皆が皆疲れ切った表情をしていた。中には幼い子供の姿も見られる。理不尽にも魔王国軍の侵略により住み慣れたエルム大森林の村から異世界に転移させられた人々。この世界には行く宛も、住む所も、食べる物すら無く飢え、もし、俺達とガーライルとの遭遇がもっと遅かったならば、体力の無い者から死者が出ていたかもしれなかった。
俺の腕を掴むサキの手に力が込められる。自分と同じ狼獣人達の困窮した姿に泣きそうになっていた。
「サキ、みんな助けるから忙しくなるぞ。サキにも頑張ってもらうからな?」
「はい、任せて下さい。」
それから間も無く、ガーライルが一人の壮年男性を連れて来た。
「息子を助けて頂き、誠に有難うございます。私は、このガーライルの父で、この村の村長を務めますガーラリー マクマオーンと申します。」
ガーライルの父親だというガーラリーさん。身長は180cmくらいで、息子のガーライルよりやや背が高い。ガッシリとした体格、顔の彫りが深く渋いオジサマだ。サキといい、ガーライルといい、狼獣人って美形が多いのだろうか?
「私は土方竜太と言います。この娘はサキ。」
俺はこんな状況なので、手早く自己紹介を済ませ、サキもペコリとお辞儀をする。そして、早速ここにいる狼獣人達の保護について説明を始める。
「詳しい事は後程説明しますが、今、皆さんは皆さんがいた世界とは別の世界にいます。私はそうした人々を助けるよう、この土地の女神様より承っています。ここから少々歩いた場所に、その女神様の社と私達の本拠地があります。これより皆さんをそこに案内します。歩けない方や病人はいますか?」
「助けてくれるのは大変有難い。幸い、皆食べる物が無くて衰弱しているだけで病人はいません。」
病人がいない事はこちらとしても有難い。病状が重篤な病人がいたら、移動の手段等もまた考え無くてはならない。
俺は再び狼獣人の人数を記した式を飛ばすと、暫くして畠山さんの運転するマイクロバスが到着した。護衛としてラミッドとアミッドが同乗している。
「土方君、宮司さんにも話してある。いま、上では受け入れ準備で大わらわだ。」
「すみません。助かります。」
それから、まず、馬も無いのに動く鉄の馬車だ!と驚く狼獣人達をバスに乗せ、現場から10往復して搬送し、神社では全員で炊き出しをして、狼獣人の皆に食事を与えた。また、空家になっている参道の土産屋や食堂、避難民が使っていた大型テントなどをフル動員して住居の手配をした。
200人分の食事というと用意だけでも大変だ。ここが避難所となっていた頃の食糧や生活物資が大量にストックされているので、当面はそれで凌ぐ事が出来そうではあるが、国か軍に緊急の人道援助を要請しなくてはならないだろう。応じてくれるか否かわからないが。
その夜、今後の方針と対策を検討するため、俺達と神社側と狼獣人達の幹部とで話し合いを持つ事となった。参加者は俺達のパーティから斉藤、エーリカ、ユーリカ、真琴、舞。神社側からは斎藤宮司、畠山権禰宜。狼獣人達からは村長のガーラリーさん、息子のガーライル、ガーラリーさんの弟でガウルさん、ガーラリーさんの妹の夫ガルカスさん。
話し合いでは、まず、狼獣人達が置かれた現状について彼等に説明。魔王国軍の侵略からエルム大精霊が住民達を守るためこの世界に転移させた事。そして、この世界もまた、魔王国軍から魔物を大量に送り込まれて侵略を受けている事。
まあ、異世界に来てしまっている事を、すぐに理解して納得する事は難しいだろう。逆の立場だったら俺だってエーソウダッタンダとはならない。しかし、狼村の村長以下幹部の面々は、結構あっさりと現状を受け入れてしまっていた。それについてはガーラリーさんはこう説明する。
「いや、現に見た事も無い珍しい物ばかりですし、私達よりも早くこの世界に転移している人達もいますから。大精霊様が私達を守ってくださって有難い事です。」
ガウルさんが続く。
「それに、この土地と皆さんからは狼神の神威を感じます。狼神より加護を授かっている方々が我々を騙すはずはありません。」
狼村の幹部達がそうした認識ならば、村の人々についても大丈夫だろう。
さて、問題は今後どうするか、という事だ。
俺達も神社側も狼獣人達を保護する事については、狼の女神様のご意思なので、共通認識として決定事項だ。ただ、自分達も含めた200人以上の人数を食べさせるという事は容易な事ではない。この山中には耕し手がいなくなった畑はそこかしこにあるが、それらは今や自然に帰りつつあり、とても自給自足など望めない。
そうすると国からの援助に頼る事になるが、人道的、短期的な援助ならまだしも、そもそも日本国民ではない転移者達への長期に渡る援助となると、どうなんだろう。普通に考えたら難しいのではないだろうか。
そうして皆で考えた結果、国に対して中長期に渡る援助を求めるならば、何かしらの "手土産" が必要ではないか、という結論に至った。
「一方的に援助を受けるとなると従属的関係になってしまわない?」
ユーリカがそうした懸念を呈した。
読んでいただき、誠に有難うございます。




