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第35話 狼だよ、全員集合!①

魔物の出現と魔物による襲撃。今、これを世界的に "モンスターアタック " と呼ぶようになっていた。そして、最初のモンスターアタックが起きてから約8カ月が経過した頃、遂に俺はエーリカ達以外の異世界からの転移者と出会った。


この頃になると、俺達はそう何時も何時も魔物狩りに出ている訳ではなくなっていた。モンスターアタックが起きた最初の頃に頑張ってしまい、満峰山付近の魔物はほぼ狩り尽くしてしまったという事、そして、満峰山魔法研究所(仮)と舞の共同研究で、魔物を探知する魔法が開発されたからであった。


この魔法は、以前に俺がアラクネからサキ達を助けた時に、エーリカから教わって使った探知魔法が元になっているらしい。斉藤と舞の説明によると、山や建物など大質量物に放射した魔力の反射とドップラー効果を利用したという。なんとなく理解出来たものの、難しいものだった、


その効果は絶大だった。これが開発されたてからは魔物を捜し求めなくても、探知した魔物をすかさず叩く事が出来、満峰神社の防衛はかなり効率が良くなった。俺達の負担もかなり軽減された。


因みに、俺が懸念していた境内の警戒であるが、なんと、御眷属様方が元々されていた事であったらしく、三郎丸から「余計な事考えず、主神様から言われた事に集中しろ」と言われ、全面的に御眷属様方にお任せする事になった。



その日は4月に入って間もない、山腹の所々で山桜が咲き始めた頃だった。俺は山の中腹にある滝へ滝行と不得意な水魔法の修行に出かけた。当初は俺一人で弁当でも持って行くつもりだったのだが、サキがお世話しますと言って支度を始めたため、サキと二人で出掛ける事になった。


途中の参道や滝の周囲に魔物の気配を感じる事は全く無く、辺りは鶯の鳴く声と滝の瀑音が響いている。そんな中、俺は徐ろに服を脱いで全裸になり、滝壺に身を沈めて全身を浸すと、頭上から降り注ぐ水に打たれて修行を始めた。


サキは「お昼ご飯の準備してますね。」と言って水に入らず、コンロに火を起こすと、東屋備え付けテーブルで調理に取り掛かった。


滝に打たれ、合掌して大威徳明王の真言を唱えると、忽ちトランス状態となる。この一年足らずの間に斎藤宮司や畠山権宮司から修験道について教えを受けている。そうした中で真言と魔法の相性が非常に良い、という事わかり、修行に取り入れている。


因みに、中でも俺がよく使う身体強化、火魔法、雷魔法と相性が良いのが不動明王の真言だったりする。なんか、格好いいんだよね、不動明王。


滝に打たれてトランス状態に入ってから、一体どれくらいの時間が経ったのか。俺の意識は唐突に戻った。滝行に入る前に、俺は一時間経過したら、若しくは自分やサキの危険を察知したら意識が戻るように暗示を掛けていた。だから、俺の意識が戻ったという事は、一時間が経過したのか、俺かサキに何か危険が及ぼうとしているのか、だ。


俺は意識を完全に覚醒させ、サキがいる東屋へ向かった。すると、そこには一人の若い男が、全力で飯を食っていて、サキはその横に立ち、その男の食いっぷりを見ていた。


近づいてみると、その男の頭にはサキと同じくぴょこんと立った狼の耳が付いているのが見てとれる。という事は、その飯を食っている男は狼獣人?でも、あいつが食ってるのって俺の昼飯なんじゃ…


「サキ、何があった?大丈夫か?」


俺が声をかけると、サキはバスタオルを持ち、小走りで駆け寄って来る。


「リュータさん、私は大丈夫てす。何も問題有りません。」

「だったらいいけど、この人は?狼獣人だよな?」


サキは頬を染めて横を向きながら、俺にバスタオルを差し出した。そういえば全裸だったっけ。またサキに見られちまったな。俺は有難くバスタオルを受け取り、腰に巻いた。


「はい、私、リュータさんが滝に入ってからお昼ご飯の準備をしていたのですけど、さっき、急にこの人が現れたんです。それで、何日も食べてないから食べ物が欲しいって言うものですから、リュータさんのお昼ご飯をあげちゃったんです。済みません、勝手な事しちゃって。」


サキはちょっとしょげて、両耳がぺたんとなっていた。俺はサキを抱き寄せ、頭を撫でる。


「俺達はエルム大森林からの転移者を探しているのだから、こうして一人見つかったんだ。腹も空かしているのなら食事を出して当然だ。」

「はい。」

「でもな、現れるのが悪い奴かもしれないたろ?だから、こういう場合は必ず俺を呼んでくれ。サキに何かあったら大変だからな。」

「はい、リュータさん。でも、リュータさんがこうして助けに来てくれて、私嬉しいです。」


サキはそう言うと、バスタオル一丁姿の俺に抱き着き、俺の胸に顔を埋めた。実に可愛い。


俺とサキは、そうして暫く抱き合っていたが、そろそろ狼獣人の男が飯を食べ終わりそうだ。


「サキ、残念だがそろそろ離れないと。」

「離れたくない。ずっとこうしていたいです。」


何て可愛い生き物なんだ。しょうがないので、俺はそのままで狼獣人の男に声をかける。


「落ち着いたかい?ちょっと話がしたいのだけど、いいかな?」


狼獣人の男は、半裸で自分と同じ狼獣人の少女と抱き合っている俺を、まるで不審者でも見るような目で見ていたが、食事を提供されているからか、辛うじて返事を寄越した。


「ああ、わかったよ。飯、ありがとう。」


さて、その後、俺も服を着て、靴を履き、東屋で狼獣人の男から話を聞き取る事とする。


狼獣人の男は20歳くらいか、濃い茶色の髪は首元まで伸びて、暫く手入れをしていない様子だ。顔はくりくりとして愛嬌のあるタレ目気味の大きな両目が特徴的で、そのスマートな体型と合わせて、きっと歌って踊ったならば、そのままアイドルとして通用するだろう。



ガツガツ

「飯喰いながらで悪いな。俺は土方竜太、見ての通りヒト族だ、宜しくな。」

「サキです。よろしくお願いします。」


ムシャムシャ

「なにせ、修行すると腹減っちゃってな。」

「そっ、そうなんだ。」


モグモグ、ゴックン

「で、君の名は?」

「俺に名前はガーライル マクマオーンだ、いや、です。」


と、少々締まらない状況だったが、これがこの後に俺の部下となり、共に戦い続ける事となる狼獣人、ガーライル マクマオーンとの出会いだった。


この後、俺はサキが作ってくれた具沢山スープとアルファ米のワカメ御飯のお代わりをして昼飯を終えた。そして、三人で焚火を囲み、お茶を飲みながらガーライルからここに至るまでの話を聞いた。


ガーライルはエルム大森林の北方の山地にある狼獣人の村に住んでいたという。村長の息子だそうで、その村の人口は約200人という事だそうだ。


3日前、村長は村民を集め、エルム大森林への魔王国軍の侵攻について、村としての今後の対応について話し合いを行っていたところ、例の霧が立ち込めて、晴れたと思ったら全く違う場所にいたのだと言う。


「村のみんなは無事だったけど、山の中は川は有っても食べ物が無くて。流石に3日経ってひもじくなって、食べ物を探しに出たんだ。でも、知らない土地で、木も草も匂いが違うし、星も月も違うから迷ってしまって。そうしたら美味そうな匂いがしたものだから…」


そこで俺がサキを見ると、サキは頷いてガーライルの話を継いだ。


「ガーライルさんが繁みの中から現れて、何か食べ物をくれというので、食事を差し上げたんです。」


そして、俺からガーライルへ、彼が置かれている現在の状況と、俺が狼の女神様から託された役割を説明すると、やはりというか、当然驚き、困惑していたが、そこは村長の息子だ。


「じゃ、じゃあ、村のみんなを助けてくれないか?みんなも何も食べてないんだ。」

「ああ、任せてくれ。取り敢えず、村人達の所に行こうか?」


俺はバックからノートを取り出すと、ボールペンでこの件について、そして狼獣人達の受け入れ要請をしたためてその一枚を破り取り、ふっと息を吹きかける。すると、その紙は忽ち白い鳥の姿となり、満峰神社を目指して羽ばたいて行った。


これは権禰宜の畠山さんから教えてもらった式神の呪法だ。斎藤宮司も畠山さんも実に博学で、齋党が長年にわたり収集、保護してきた修験道や陰陽道の知識、技術には驚くばかりだ。もっとも、じっさいにこうした術を使える人は少ないそうだけど。


ガーライルによると、狼獣人達は荒川右岸の秩父市役所の支所から2㎞ほど上流にあるキャンプ場にいるという。三人で歩いてそのキャンプ場に到着すると、一年近くも人の手が入らず放置されていたため、地面は草ボウボウ。管理棟やバンガロー群も荒れ放題。幸いにもガラスは割れていなかったが、廃墟一歩手前のような状態だった。


「おーい、みんなー、助けを連れてきたぞー!」


ガーライルが一見人気の無いキャンプ場で叫ぶと、あちこちのバンガローの中から、老若男女の狼獣人達が様子を窺いつつもワラワラと出て来たのだった。



いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。

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