第34話 あれから6カ月…②
初め、雪枝とはギクシャクとした関係だった。俺は別に雪枝が嫌いな訳でも、憎んでいる訳でもない。ただ、雪枝が父親に影響されて俺を避けていたので、俺も敢えて妹と接触しなかっただけだ。
雪枝の方はというと、両親が俺にしていた虐待に、結果として自らが加担していた事実を許せないらしく、随分と悩んでいた。
そうした事から、俺は1日に一回は雪枝と話をするようにしたのだ。それだけではなく、魔法を習いたいという妹に魔力交流を施し、エーリカと二人で魔法を教え、一緒に修行もした(これには後に北川さんも加わる事となった)。
それが功を奏し、その後、俺と雪枝は打ち解ける事が出来、いつの間にか「兄さん」から「お兄ちゃん」に呼び方も昇格もしていた。
ただ、雪枝との会話の中で気になった事があった。それは「父には人を操る能力があり、それは家系的なもの」と「父が俺を無視するのは単なる逆恨み」というものだ。
父の「人を操る能力云々」については、世の中には異能とでも呼ぶべきか、そういった常ならざる能力が使える者が存在する事は理解出来る。っていうか師匠がそうだし、今や俺自身がそうだ。
また、父親の逆恨みという事について、俺は全く憶えていない。そもそも、自分に父親としての自覚が無かった事が問題なのであって、自分に懐かない幼児に腹を立てるとか、どんだけ器が小さい男なんだと思う。母も弟も父の異能に操られていた事になるわけだが、母はそれでも父の異能に抗い、俺の衣食住は確保してくれていたという事だろうか。弟はもう無理だろうが、雪枝だけでも父の影響から逃れる事が出来て、運が良かったと思う。
そして、その家系的な素質によるものか、雪枝は魔法の習得や上達が早く、今では俺のパーティの一員として活動している。
北川さんも魔法の習得を希望したので、俺が魔力交流して、当初はエーリカと二人で魔法を教えていた。しかし、彼女は魔法修行も熱心で上達が早く、今では科学的知識と独自の魔法理論から新しい魔法まで開発している。
俺は北川さんのそうした実績から、彼女に斉藤の魔法研究所での魔法研究や開発をしてみたらどうかと薦めたのだが、本人から頑なに拒否されて泣かれた挙句、何故か俺は周りのみんなからの非難の嵐に見舞われてしまった。曰く「デリカシーが無い」(斉藤)、「女心がわかってない」(エーリカ)、「 信じられない」(ユーリカ )、「お兄ちゃん、酷くない?」(雪枝)、「いくらなんでも、ひどいです」(サキ)、「兄貴、そりゃないぜ」(ラミッド)、「うんうん」(ミア)、「俺よくわかんねえや」(アミッド)、「兄貴には兄貴の考えがあるんですよ、多分」(アックス)、「ホント竜太君は鈍感だねぇ」(朝倉少尉)
その後、俺はエーリカ達から呼び出された。流石に校舎の裏ではなく、宿坊のラウンジだったが。
そこにはユーリカとミアを除く女の子達が待ち構えていて、俺は正座こそさせられなかったものの、エーリカに説教された。
「リュータが私の事を大事にしてくれる気持ちはとっても嬉しいよ?でも、だから他の女の子を傷つけて良い訳じゃないの。わかる?」
これには俺も反論したいところだ。俺は別に北川さんを傷つけたかったわけではなく、適材適所の観点からそう提案しただけなのだから。
「いや、エーリカ、それはちが」
「黙りなさい。」
「…はい。」
残念ながら反論の機会はすぐに奪われ、エーリカの説教が続く。
「いい?舞はリュータの側で、リュータの役に立ちたいから魔法の修行も頑張ってるのよ?それなのにタケシの所に行けだなんてよく言えるわね。」
「「「「うんうん。」」」」
エーリカはそのような言うが、俺も人の気持ちがわからない程の無神経でも鈍感でもない。北川さんの気持ちにも気付いているさ。しかし、俺にはエーリカという恋人がいるのだ。
「それから、舞だけじゃない。サキや真琴の気持ちだってわかっているんでしょ?だったら、それに応えてあげなさい。」
いや、それはおかしいだろう。繰り返すが、俺にはエーリカという恋人がいるのだ。
「エーリカ、ちょっと待ってくれ。俺とエーリカは一体何なのだ?エーリカは俺の恋人じゃないのか?」
「え?私はリュータの恋人だし、リュータは私の恋人よ?それが何か?」
「いや、だって、エーリカの言いようだと、まるで他の女の子とも付き合えって言っているように聞こえるのだけど。」
「だから、そう言ってるのだけど?」
「何で?」
エーリカはハァとため息をつくと、その理由について語りだした。
「リュータは私の大事な恋人よ。でもね、リュータほどの男の人なら周りの女性達は放っておかないし、これからもきっと群がって来るの。私だって本音を言えばリュータには私だけのリュータでいて欲しいけど、それは無理なのよ。だったら、見ず知らずの女の子達に言い寄って来られるよりも、仲良くなったここのみんながリュータの恋人に加わった方が余程いいもの。」
う〜ん、みんなが俺に好意を持ってくれるのは嬉しい。三人ともそれぞれ可愛いくて綺麗だ。性格も良くて、俺のために色々と頑張ってくれているのも感謝している。しかし、これは現実問題として倫理的にどうなんだ?
「それに、私達のいた世界では男の人が複数の女性と婚姻関係を結ぶ事はタブーじゃないし、よくある事なのよ?」
エーリカはまるで俺の心を読んだかのように付け加えた。
かつてはこの世界でも、いや日本でも一夫多妻は "お家存在 " のために有った制度だ。飽くまで武家や公家のような上流階級限定だが。イスラム教でも戦争などで生じた寡婦の救済という意味で教義上許されていると聞く。おそらく、向こうの世界は医療技術も発達していない上に、戦争があり、災害があり、魔物などの脅威があり、男が戦って死ぬ事も多いのだろう。
「だから、リュータにはここにいる三人の女の子達の気持ちを受け入れて欲しいの。」
じー、じー、じー、
北川さんが、サキが、朝倉少尉が、俺を見つめている。不安と期待を込めて。
そんな風に見られたら嫌とは言えないよな。それに、こんなに可愛い、綺麗な女の子達に想われるなんて男冥利に尽きようというものだ。
「先輩、私、中学一年生の頃からずっと好きです。」
「リュータさん。私もリュータさんの事が大好きです。一緒に居させて下さい。」
「竜太君、少し年上だけど、私も竜太君の事が好き。」
三人三様の告白。う〜ん、こうなったら俺も腹を括るか。
俺は三人をまとめて抱きしめた。
「わかった。みんなの気持ちは有難く受け取るよ。舞、サキ、真琴。俺も君達の事が好きだ。これからもずっと一緒だ。よろしく頼む。」
「先輩!」
「リュータさん!」
「竜太君!」
三人の女の子達は、それぞれの呼び方で俺を呼びながら、感極まった様に抱きついて来た。俺も彼女達を抱き締める両腕に力を込めながら、エーリカをチラッと見て念話で話しかけた。
" エーリカ、これでいいんだろ?"
" うん。ゴメンね、無理言って。でも、私が一番だからね?"
" わかってるよ"
この6か月で最も変わった事。それは、こうして俺に4人もの恋人(=婚約者)が出来た事だろうか。
しかし、俺は気付いている。この件には三人それぞれに黒幕がいる事に。そこにはそれぞれの思惑や利害関係が見え隠れしている。師匠も酔った時によく言っていたっけ。お互い好き合っていても、男と女は化かし合いなのだと。
それは俺という存在を確保し、自己の有利に繋げるためだろう。だからサキにはエーリカの、舞には雪枝の、真琴には国防軍上層部の影がチラホラと見えるのだ。
(エーリカはエルム大森林からの転移者達の安全を確実にするため、雪枝は舞を介して俺と離れないようにするため、真琴は"土方竜太"という存在と"魔法"を国防軍乃至日本国が確保するため、ってところかな)
そうは言っても、彼女達の気持ちは本物だから、エーリカと雪枝も含めた5人(雪枝は妹だけど)から、俺が逆に愛想尽かされないように、気合いを入れて、しっかりと繋ぎ止めて置かないといけないな。
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