幕間25 王太子カイネルの憂鬱
俺の名前はカイネル、カイネル・ボワザン。偉大なるティタン魔王国、その現魔王ゼグノス・ボワザンの第1王子で王太子だ。
父王は魔王として魔王国の統治経営に心を砕き、歴代魔王陛下の意志を継いで魔神ティタン様の復活に心血を注いで来た。そんな父王の背中を見て育った俺は、幼少の頃から第1王子として父王の跡を継ぐべく鍛錬を重ね、勉学に勤しんで来た。
そして遂に父王は魔王国の全力を挙げて我々の悲願、魔神ティタン様復活のため世界征服の戦いに撃って出たのだ。
ティタン魔王国軍は開戦に際し魔術院が開発した魔物培養技術により大量に魔物を生み出し、そうした魔物の大群を近隣諸国へと送り込んだ。送り込まれた魔物の大群により大混乱を来した敵国へと侵攻した魔王国軍は瞬く間にアースラ大陸西側諸国を蹂躙したのだった。
アースラ大陸はこの世界で知られている大陸の中でも最大の大陸だ。主にその西側に古くから我々魔族、ヒト族、獣人族、妖精族等が居住している。大陸の中央部分には広大な砂漠があり、更にその東側には巨大な脊梁山脈が横たわっている。そのため大陸の東西の交通は遮断され、西側に生きる我々魔族を始めとする者達は大陸の東側についてよくわかっていないのが現実だ。
ともあれ、アースラ大陸西側の国々は魔王国軍の魔物の大群を使った電撃作戦で全て征服され、大陸西端のエルム大森林、更に西の海を越えたコンタラス大陸の国々を降せば全世界の征服を成し終えたと言っていいだろう。
俺も魔王たる父王の第1王子である。魔王国の悲願を果たすべく、魔王国軍の一将軍として南部戦線の一方面を受け持ちブエナス王国及びピクサス王国を麾下の戦力を率いて蹂躙した。魔王国軍はこの戦争では敵国に無条件降伏しか認めず、俺も降伏した敵軍は武装解除し、王族と主だった貴族は族滅とし、占領下に置いた旧ニ王国を軍政区とした。
〜・〜・〜
そうして俺はデルノルン軍政区となった旧ニ王国を統治する軍政官をも兼任した。接収して軍政区執政府とした旧ブエナス王国の王城にて執務室として使用している元はブエナス王の部屋で他方面で一将として従軍する弟で第2王子であるアルフォンソから届いた報告書と手紙に目を通していた。
弟からの手紙には占領下の軍政区に本国から魔神教団から魔術師団が派遣され、軍政区の住民達を次々と拉致しているといった内容であった。
魔神教団が何のため住民達を拉致したのか?それは調査中との事であったが、一体魔神教団は占領地で何をやっているのか?単に魔神教の布教をしている訳ではあるまい。奴等はそんな甘っちょろい連中ではない。魔神教への改宗を迫り、拒否する者を見せしめに惨たらしく殺すくらいは朝飯前の連中だ。
と、執務室のドアが叩かれる。
「殿下、リリアーヌで御座います」
「入るが良い」
俺には俺の手足となり働く4人の側近がいる。皆鬼族で、黒鉄の鬼武者・剛腕のガウォーキ、黒髪の女剣士・雷のリオーネ、赤銅の魔法拳士・疾風のブライガ、そして今俺の執務室を訪れている魔術師・氷結のリリアーヌ。彼等は時に俺の護衛となり、時に部隊を率いて戦場に赴く実に有能な部下達だ。まぁ、皆ちょっと変わり者ではあるけれども…
リリアーヌは「失礼します」と言って執務室に入室。魔術師であるリリアーヌはその長身でスタイル抜群な身体に黒い軍服風な上衣に黒くタイトなスカート、更にそれらの上から黒いワイバーン皮のマントを纏っている。両脚は無論黒いブーツだ。
気が強くちょっとキツい性格をしているが、色白で長く艶のある黒髪の美人であるリリアーヌにその暗黒魔術師然とした衣装は良く似合う。パーティでのドレス姿もなかなかよ、いやいや、今はそれどころではないな。
「殿下、ご報告がございます」
「申せ」
「はい」
四天王のうちガウォーキ、リオーネ、ブライガの3人が荒事向きであるのに対し、リリアーヌは情報収集などの諜報戦を受け持っている。仕事が早いリリアーヌは早速デルノルン軍政区内の情報収集を始めていたのだろう。
「殿下の統べられているデルノルン軍政区に魔王国本国より魔神教団の魔術師団が派遣されております」
弟のアルフォンソからの手紙で読んだばかりだ。奴等、早速この軍政区にも魔術師団を寄越したという訳か。
「事前の通知はあったのか?」
「いえ、ありません。いきなりやって来てこちらの許可も得ず既存の城郭を利用して神殿を築き始めているとの事です」
弟の軍政区然り、此方も然り、おそらく他でも同様にやっているのだろう。奴等、一体何をやろうというのか。
魔神教団は魔神ティタン様を守り神と崇め、他の神々に封じられた魔神の復活を目的とした教団だ。同じく魔神の復活を悲願とする歴代魔王が教団の教皇も兼ねた魔王と表裏一体の教団でもある。
ティタン魔王国は多数を占める鬼族を主体とする様々な種族からなる多種族国家である。魔王を国家元首とし、基本的にはどのような種族であれ臣民は平等であるが、それは魔神教信仰する限りにおいてである。つまり、魔神を信仰するが故に他種族からなる臣民をまとめて魔族と呼ぶのだ。
魔王国臣民(魔族)にとり国教とも言える魔神教団、実は臣民達からは頗る不人気だ。
魔族を成す他の種族には魔神以外にも古来より崇める神々あった。しかし、魔神教団はそれらの古き神々の信仰を禁止し、棄教しない者達を弾圧して虐殺していた。
更に魔王が頂点にある国教として批判者も競争相手もいない宗教組織だ。その内部は腐敗して神殿の奥で何が行われているのか余人は窺いようもない。
教団に関する出所不明な奇怪な噂は後を絶たず、教団に関係して行方不明になった者も多いと聞いている。実際、俺が魔王国軍憲兵隊副総監として軍内に巣食う魔神教団から派生したカルト集団を摘発した際には人体実験場を発見して誘拐されて実験体として監禁されていた臣民達を救出した事もあったのだ。
「リリアーヌ、奴等から目を離さず引き続き監視の手を緩めるな。何かあったら逐一報告してくれ」
「承知致しました、殿下」
「ご苦労、下がって良い」
俺は一言リリアーヌに労わりの声をかけて下がらせると元の執務に戻った。魔神教団に不審な動きがあったからといって直ぐに動いてしまっては奴等も警戒するだろう。暫くは様子見となるのは仕方が無い事だ。
ただ、父王たる魔王陛下よりこの軍政区を任せられたのはこの俺だ。いかに魔王陛下と表裏なす教団とはいえ、俺は次期魔王となる王太子でもある。この俺に何の挨拶も無く無許可で城郭を接収して神殿にするなど、俺を舐めているとしか思えない。ここは一つ釘を差しておくべきだな。
俺は侍従を呼ぶと、歩兵1個大隊を連れて魔神教団の神殿へ警告文を渡せと命じた。
「兵を伴う理由は何としましょうか?」
確かに魔神教団へ刃を向ける事は魔王陛下の権威を傘に来た奴等に軍政に関して口出しする口実を与えかね無い。謀反だ何だと騒ぎ出してな。
「演習中だと言え。その途中で寄ったのだとな」
「承知致しました」
これで良い。後は奴等の出方次第だな。
〜・〜・〜
魔神教団へ(威圧的に)警告文を出した結果として魔神教団は軍政区の最上位者たる司祭が執政府に謝罪に訪れるに至った。俺は謝罪する司祭を敢えて尊大な態度で許し「以後気を付けよ」と言ってから下がらせて茶番劇を終えた。
だが事をこれで終わりとした訳ではない。リリアーヌからは魔神教団に関する報告は次々と上がっており、遂に奴等は弟アルフォンソからの手紙にあったようにこの軍政区でも住民達を拉致して神殿へと連行し始めたのだ。
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それでは次話もお楽しみに!




