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第205話 宿命

「ちょっと、一同の者、静まりなさい」


本殿内のざわつきに業を煮やした女神様が一喝して場を締める。


「橘ちゃん!まだ出てこないでよ、予定に無い事はしないでくれる?」


「ごめん大口(おおぐ)っちゃん」


大口(おおぐ)っちゃんとは女神様の神名が「大口真神」だからだろうか?神々の間にも渾名があるとは驚きだ。でもちゃん付けは無いだろうに。


真琴は先程、自らの背の君が倭建命だと言ったな。そして今、女神様は真琴の事を「橘ちゃん」と呼び、真琴からは神気が漂っている。


「竜太さん、今は詮索の時ではありません」


おっと、釘を刺されてしまったな。


女神様の一喝で静けさを取り戻した本殿内。一同を見渡して女神様は話を続ける。


「予定外の出来事がありましたけど、結論から言いましょう。竜太さん、あなたには守りの星達と共に高天原に行って魔神と戦うための修行をしてもらいます」


「た、高天原?一体どうやって?それに人の身で神々の棲まう地で存在出来るのですか?」


高天原は記紀神話でお馴染みの神々の世界である。神様がこうして目の前に居るのだから、当然その棲まう地だってあるだろう。


しかし、そこへ人間が行けるのか?行けたとしてそこで存在出来るのか?神様が一体どのような存在なのか、それは俺にはわからないが、こうしてその姿を見て声を聞く事が出来る以上、大きな括りでこの世界の存在ではあろう。とはいえ、この世界であっても人が水の中で生きられないように、魚が陸で生きられないようにきっと人は神々の世界では生きられないと俺は思うのだ。それこそアニメ映画のようにその世界の食べ物を口にしなければ消えてしまうとか。


「詳しい事はここでは言えませんが、先程橘ちゃんが言ったように、竜太さんはただの人間ではないという事です。守りの星達もその手背の星がその身を守りましょう」


エーリカ達が自らの手背に視線を落とす。


守りの星達というのはエーリカ達の事らしい。確かに彼女達の手背、その親指の付け根には星の形をした痣?黒子?がある。


女神様の仰り様では俺には高天原行きへの拒否権は無いようだ。なんとも人使いの荒い神様ではある。ならば訊ける事はこの場で訊いておいた方が良い。


「急で、しかも予想外の内容なので何とも言えませんが、高天原とはどこにあって、どうやって行くのですか?そして高天原での修行とはどのような事をするので?」


「高天原が何処にとは教える事が禁じられいます。ですが、高天原には天の浮舟に乗り、そこに居る弟橘姫が案内します。修行内容は言ってみればわかります」


やはり真琴は弟橘姫、つまりは彼女もまた人ではなくこの国の神々の一柱という事か。


思わず視線を真琴に走らせると、真琴には俺の考えが読めたのか大きく(かぶり)(かぶ)った。


「竜太、違う!私は私、朝倉真琴。あなたの恋人よ!」


冷静な普段の真琴とは違うが、今、目の前にいる真琴は俺の恋人である真琴で間違い無い。それくらいはわかる。恋人だからな。


「真琴だな、わかるよ」


真琴は少しホッとした表情となった。


「私は私。誰に操られている訳じゃないわ。でもね、私の中には確かに弟橘姫がいるの」


真琴によれば物心つく頃から自分の中にいる女神の存在に気付いていたそうだ。それでもたまに夢に出て来て話をするくらいで、真琴の精神や思考に干渉する事は無かったという。


「でもね、やはり私の中に弟橘姫がいるのは偶然じゃないみたいで、彼女には彼女の思いと役割があるみたいなの。私も彼女の気持ちがわかるから、これから暫くは彼女に任せる事にするわ」


彼女に任せるとは、先程みたいに真琴が消えて弟橘姫の神格が真琴の身体を支配するという事か?


「竜太、そんな顔しないで」


俺は無意識のうちに険しい表情になっていたようだ。


「私はこれから少し眠りにつくだけ。だけど決して消える訳じゃないから。彼女を怒らないであげて?高天原から戻ったら、また会えるから…」


「真琴!」


真琴はそう言い終えると立ったまま眠るように瞳を閉じて俯いた。そして再び顔を上げると、それは姿は同じでも俺の恋人である真琴ではなくなっていた。


真琴の身体を支配した真琴の中の存在は神気を纏い、俺と目が合うと一礼する。


「先程は失礼しました。こうしてお会いするのは初めてですね、土方竜太さん。私は神名を弟橘姫と申します。この度は竜太さんと守りの星達を高天原へと案内する役目を天照大神様より仰せつかっております」


それは紛れもない真琴の顔、真琴の声。だけど口調も雰囲気も違っている。


「真琴は、どうしているのですか?」


俺は努めて冷静さを保ち弟橘姫に尋ねた。内心では怒りが湧いている。どのような経緯で真琴の中に弟橘姫が存在するようになったのか知らないが、真琴は俺の掛け替えのない大切な恋人だ。その恋人の肉体は今、弟橘姫の神格の支配下にあり、真琴の精神は何処でどうしているのかわからなくなっているのだ。


「あなたのご懸念はわかります。ですがご心配は無用ですよ?真琴の心は今も共にありますから。何故私が真琴と共にあるのか、その答えも高天原に行けば自ずとわかりましょう」


弟橘姫の言葉を満峰神社の女神様が継ぐ。


「竜太さんの前世なとあなた自身に関する疑問の数々、あなたの宿命。それら全ての答えが高天原にはあります」


「宿命、とそう仰いましたか?」


運命ではなく宿命。運命は自らの力によって変える事も出来るが、宿命は持って生まれた決して逃れられない魂の定めと言える。


「そうです。あなたは宿命を背負って生まれました」


何の、どんな、女神様はそこには答えず、ただじっと俺の決断を促すように見続ける。


するとエーリカが立ち上がり俺の手を取った。


「リュータ、そこがどんな場所か知らないけど、行かなきゃならないんなら行くしかないよ」


「そうです。私達はリュータの行く所なら何処へでも一緒に行きます!」


サキがエーリカに続き、


「私達は何処でも一緒ですよ、先輩」


「そう、私達はリュータと共にあるから」


舞とアーニャも声を上げた。目が合ったユリィも大きく頷き、ニカっと笑って親指を立てるオスカーの傍らで雪枝も微笑んだ。


どうやら俺よりもエーリカ達の方がよほど高天原という神々の棲まう異境へ赴く覚悟が出来ているようだな。


そこに謎の答えがあり、宿命が待つというのなら行かなければならないか。それに、と俺は弟橘姫に視線を走らせると、俺の視線に気付いた弟橘姫が僅かに笑みを浮かべる。


(早く真琴を取り戻さないとな)


「高天原へ行きます。彼女達と共に」


俺の決意を聞くと女神様は満足気に頷いた。


「よくぞ決心しましたね。では善は急げと申します。というか時間がもうあまりありません。竜太さんと守りの星達はそこの橘ちゃ、弟橘姫に続き、その案内で天の浮舟に乗って下さい」


もうこのまま高天原に行く事となるらしい。


俺は来るべき魔神との戦い、よりも斉藤にどうにかして伝えないとなぁ、あいつ怒るんだよなぁなどと見当違いな心配に思いを馳せてしまっていた。









いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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