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第202話 グレートエスケープ 帰ろうかもう帰ろうよ

なんだかんだでエーリカとフレデリカも江ノ島を気に入ってしまい、のんびりもう一泊しようとなって計二泊。それから俺達は再び江ノ島駅から江ノ電に乗って終着駅の鎌倉で下車した。


鎌倉では鶴岡八幡宮と大仏様を詣でて鎌倉を散策後、鎌倉駅からJR横須賀線に乗って横浜を目指した。


いつ終わるとも知れない横浜駅の工事。この頃には大きなものは終わっていて、今は小さな現場工事があちこちに散見出来る程度だ。しかし、俺が以前に横浜駅に来たのが高校2年の頃以来なので、記憶にある横浜駅とはかなり様相が変わったいるように思えた。


時刻は既に昼となっていた。なので俺達は横浜駅の西口地下街で昼食を摂ることに。


「何か凄いわね。地下なのに広くてあっちこっちに道が延びていて地下迷宮みたい」


そう言えば俺は以前に「向こうの世界にダンジョンってあるの?」とエーリカに尋ねた事があった。エーリカは「え?ダンジョンって何それ?」という反応で、知らないようだったから説明すると「そんなものは無い」との事。でも「地下大迷宮」は存在するのだという。


それではその「地下大迷宮」ては何なのか?って事になる訳だけど。エーリカが言う「地下大迷宮」とは、アースラ大陸の南にあるいつ誰が造ったのかわからない地下に築かれた迷宮で、強過ぎて倒すに倒せない魔物を生贄を使っておびき寄せては落とし閉じ込めるための施設だそうだ。しかも、迷宮は方向感覚を狂わせる構造が用いられ、ご丁寧にそうした魔術もかけられていているとか。その辺は古代ギリシアの神話に通じるな。



横浜駅西口地下街では匂いに釣られてきしめん屋に入った。八丁味噌を使った味噌煮込みうどんの強力で強烈な旨そうな匂いに惹かれてしまったのだ。


昼の食事時だけに店内は混んでいるものの、幸運な事にどうにかテーブル席を確保。俺達は隣席のOLさん達が食べていた味噌煮込みうどんを躊躇する事無く注文する。


ぐつぐつと煮える濃厚な味噌仕立てのうどんが土鍋で運ばれて来ると、俺以外の3人はそれぞれの信じる神に感謝の祈りを捧げる。


「「今日も我等に恵みを授けたる森の神ウッダと精霊樹に感謝を」」


「天におられる我等の父よ、…」


その後はすっかり習慣化した「いただきます!」と両手を合わせると、俺達は早速賞味にかかる。まずは木の蓮華で汁を掬ってふぅふぅと冷ましながら一口啜ると、濃厚で酸味のある味噌と赤出汁の味と風味が口の中に広がって鼻へと抜けて行く。


続いて麺を啜れば、煮込まれて味が染み込んだうどんは実に美味しく、そこへ半熟となった玉子の黄身を絡めれば至福の味わいだ。


4人のふぅふぅと冷ます息の音と麺を啜る音がいつの間にかしんとなった店内に響く。


俺は兎も角、一見外国人の美少女と美少年に見えるエーリカとビクトル、それにフレデリカ。そんな彼女等が一心不乱に味噌煮込みうどんを旨そうに啜る姿に店内の客と従業員は何か有難いものを見るかのような様子で、自分達の食事も仕事も忘れて見惚れていた。


やがて味噌煮込みうどんを汁まで飲み干して完食した俺達は「ふぅ〜」と熱い息を吐くと、再び両手を合わせて「ご馳走様」と唱えた。すると客も店員も一様に何か微笑ましいものを見たかのようなほっこりとした表情となり、皆それぞれの午後に向かって動き出した。


〜・〜・〜


昼食の後は横浜駅から桜木町駅へ、そして桜木町駅からロープウェイでみなとみらいへ向かう。


「リュータ教官、ヨコハマって街一つが丸々遊園地みたいですね、素敵!」


街一つが丸々遊園地って、言い得て妙だな。ロープウェイからはみなとみらいを眼下に見下ろし、山下公園や本牧、遠くには三浦岬も望める。目を転じればベイブリッジから鶴見つばさ橋も見渡せる。


「科学って凄いね、リュータ兄さん。これ全部ヒトが作り出されてるんでしょ?」


「そうだな。長い歴史の中で研究と実証を重ね、知識と技術を蓄積して、創造と破壊を繰り返して出来上がっているという感じかな」


俺からしたら魔法の方が凄いと思うけどな。


「ボク、この世界の科学を学んでみたいな」


おっと、意外な奴から意外な希望がでたな。


「へぇビクトルが勉強したいとか、どういう風の吹き回しかしらね」


「だって凄いじゃないか。神様じゃなくてヒトがこの見渡す限りの街を造ったとかさ。あの塔なんてまるで険しい岩山だよ」


あの塔は多分ランドマークタワーだな。


エーリカが揶揄うとビクトルがムキになって反論した。俺は案外とビクトルは本当に科学を学んで学者になったら大成するんじゃないかと思っている。ビクトルはまだ発想が柔軟な子供だし、きっと学べば砂が水を吸い込むように知識を吸収する事だろう。それにエルフは寿命が長い。何百年と一つのテーマを研究し続けられるのだから、学者としてこれに勝るアドバンテージは無いだろう。


「じゃあ害特封地に戻ったら統治機構の上の人に相談してみるか?」


「本当?」


異世界から転移して来た人達はアースラ諸族連合という自治組織を発足させ、日本側の協力もあって生活は安定してきている。しかし、まだまだ子供達を学ばせる余裕は無く、教育機関は寺子屋のような感じで有志が細々と子供達に読み書きと四則演算を教えている程度だ。


だから今後は教育問題が課題として上がるだろう。その先鞭を着けるという意味でもビクトルの就学は意味があるものとなるかもしれない。


「俺は応援するぜ、ビクトル」


「有難う、リュータ兄さん」


やがてロープウェイはみなとみらいのワールドポーターズに到着、俺達はクリスマスで賑わう赤レンガ倉庫を見て回り、コスモワールドで遊んでクイーンズスクエアへ向かった。


〜・〜・〜


高く聳えるゴールドイルミネーションのクリスマスツリー。


俺達は暫くその煌びやかな偉容を見上げ、携帯で写真を撮りあって楽しんだ。そして、ふとよく知った声が聞こえてきたのでホールの壁体に設置された大型ビジョンに目を転じてみると、そこには水兵のセーラー服を模した衣装を纏った猫獣人の美少女ユニットが映し出されていた。


そのユニットのセンターにいるのは赤毛のちょっと気の強そうな猫耳美少女。俺の恋人の一人であるアーニャ。


「え?アーニャ⁉︎」


「本当、どうして?」


俺もそうだが、エーリカとフレデリカも自分達の仲間が歌って踊る動画がクイーンズスクエアの大型ビジョンに映し出されている事実に驚いていた。


アーニャは彼女の父親から同じ猫獣人の侍女達を付けられている。その彼女達に引っ張られる形で彼女達とアイドルユニットを組んでいて、以前からアイドルのカバーから始まり、その後はオリジナルの歌とダンスの動画をSNSにアップしていた。


彼女達のユニット名は「CAT(シーエーティー)ニャルコーシス」


私的な趣味として始まったアイドル活動は何と今やアースラ諸族連合と統治機構の公認とバックアップを受けて、害特封地の顔となりつつある。


ホールのスピーカーからはアーニャ達の軽妙な歌声が聞こえている。


朝焼けの海 太陽が海原照らす

寄せては帰す波の音に心が騒ぐ

こっちでいいのか?このままでいいのか?

迷う僕らの羅針盤

視線を上げて見渡せばほら

あの海は今日も僕らを呼んでいる

水平線の彼方を目指せって

行こう!万里の波濤に火輪を投じ

進もう!セイルにいっぱい風孕ませて

僕らの航海(セイリング)まだ始まったばかり



うん。誰が作詞作曲したのか知らないがいい曲だ。非常にサンシャインなスクールアイドルっぽくはあるが、俺は好きだな。


歌い終えるとアーニャが一人、メンバーから前に出て映像はアーニャの上半身アップとなる。ちょっと怒ったような表情をするアーニャは両手を口に当てると、


「こらー!そろそろ戻って来なさ〜い!」


と声を上げ、それから一転してイタズラっぽい笑顔になって片目を瞑って見せた。


やられたな、これは一体誰のアイデアだろうか?


「ぷっ」


「ふふっ」


エーリカとフレデリカが可笑そうに笑い、釣られて俺も思わず吹き出した。


「そろそろ帰ろうか?」


と俺が口火を切ると、


「そうね、続きはまた来ればいいしね。それにフランメル祭りも気になるし」


「帰りましょう、私達の家に」


とエーリカとフレデリカも続いた。では満峰神社の真琴に連絡をと携帯を取り出すと、待ってましたとばかりに振動が着信を告げる。その画面には「舞」との表示が。


「もしもし、先輩?観ましたか、アーニャちゃん達の動画を」


「観たよ、そろそろ戻って来なさいって奴な」


しかし、監視されているとはいえ、どうやってあの場所でタイミング良く動画を映し出せたのだろうか?


「そりゃあ、こちらには予知能力者カップルがいますからね」


俺の考えを読み取ったように舞が謎解きをする。それを聞いた俺の脳裏にニヤリと笑う親友とその恋人である銀髪エルフ美少女の顔が浮かんだ。あの2人ならそれくらい出来そうか。


「早く帰って来て下さいね、先輩。満峰神社の神様もお待ちなんですから。車寄せに迎えの車が行ってます」


満峰神社の神様が待っている?どういう事だろうか?どうもまた事態が動き出すようだな。


「あ、お土産は鳩サブレとありあけのハーバーでいいですから」


「もう買ってあるよ。ついでにクルミッ子もな」


「ハーバーは」


「マロンだろ?」


「流石先輩、私の好みを知り尽くしてますね。それじゃあお早いお帰りを。待ってますからね」


そう言って舞は通話を切った。


さて、今後俺達には問題が山積だ。エーリカとビクトルを拉致誘拐したアメリカ側への責任追求に始まり、国内の協力者の処罰は譲れないところだ。それに不可抗力とはいえ米空軍基地を破壊し、人員を殺傷した俺がどう遇されるか。


またフレデリカとオスカーの扱いだ。当然、アメリカ側は二人を帰国させようとするだろうが、二人は帰国を拒否している。あんな陰謀に巻き込まれたんだからな、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。それに俺もフレデリカは帰せと言われたって帰さない。


いずれにせよ、俺達に何かしようというのなら誰であろうとも相手になるし、俺は守るべきものは絶対に守る。勝負は満峰に戻ってからだ。






いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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