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第201話 グレートエスケープ⑤ 湘南my love

一晩泊まった真鶴のペンション「ガッピアーノ」を翌朝チェックアウトした。景色はいいし、料理は美味い。オーナー家族も気さくで親切。もう一泊したいくらいだったが、俺達は一応逃亡者の身なので贅沢は言ってはいられない。


オーナー家族の「またいつでも泊まりに来いよ」の言葉に離れ難くなりつつも俺達4人は「ガッピアーノ」を後に、俺達はJR真鶴駅から東海道本線に乗って藤沢駅に向かった。


「リュータさん、この鳩の形したクッキー、美味しいね!」


「本当、口当たりもいいし、」


「バターの香りが堪りません」


ふふふ、3人とも鳩のサブレの美味しさにハマったようだな。斯く言う俺も3枚目。


「ちょっとリュータ、一人でいっぱい食べないでよ!」とエーリカに叱られる始末だ。


それから藤沢駅で江ノ島電鉄に乗り換えて鎌倉へ。


江ノ電藤沢駅でフレデリカは、その車両を見て目の色を変えて喜んだ。


「わぁ、可愛い電車ですね。夢の国の電車みたい!」


数々の小説、漫画、アニメ、映画の舞台となっている湘南だ。ある意味車両のデザインといい、本当に夢の国の電車と言ってもいいだろう。


江ノ電に乗車、やがて電車が動き出すとフレデリカの興奮は更に過熱する。


「えぇっ?!こんな家と家の間を通るんですか?凄い!え、お店がある?あっ、お客さんが手を振ってる。へロー、ハァ〜イ!トラムとも違うし、江ノ電って最高!」


そして俺達の乗った電車は江ノ島駅を通過して鎌倉高校前駅で停車、ホームで待っていた高校生達が乗車して来る。すると俺達は当然の事、彼等からの注目が集まる事に。


「あの金髪の女の子達、ヤバくね?」


「いや、まじ天使!」


(激しく同意)


「ねぇ黒髪の男の人、凄くカッコいい!」


(俺の事だな)


「あの金髪の男の子、超カワイイ!」


「お持ち帰りしたい、はぁはぁ」


ビクトルが自分に向けられたある意味邪な視線に怯えて俺の背後に隠れると、それを見た一部の女子生徒達から歓声が湧いた。


「「「キャー!」」」


「黒髪の君が責めで、金髪の子が受けね」


「はぁ、尊いわ」


「その逆もありね」


……


最近の高校生って、まぁ何と言うか価値観が多様化していて様々な事に貪欲なんだな。


動き出した電車の中で俺達は好奇に満ちた乗客達の視線に耐えきれず、鎌倉行きを断念して稲村ヶ崎駅で下車した。


〜・〜・〜


その後、俺達は稲村ヶ崎から七里ヶ浜をぶらぶら歩きながら江ノ島へ向かった。そして小田急江ノ島駅付近にある国道134号線沿いにあるイタリアンレストランで昼食を摂り、水族館へ足を運んだ。


水族館の入場口でチケットを購入して早速館内に入ると、そこは薄暗い擬似海底の世界。


巨大な円筒形の水槽にはスイミーよろしく鰯の群れが渦を巻き、鯛に平目、鮫まで水中を優雅に泳いでいる。水槽の底には蟹や海老もいて、その全てで相模の海を再現しているようだった。


「へぇ、海の中ってこんな感じなのね」


エーリカが水槽を見上げ感嘆の声を漏らす。


と、少し離れた辺りから視線を感じるようになった。それまでの好奇心からの視線ではなく、無関心を装いながらも俺達を監視する鋭い視線だ。


そいつらは俺達を追跡し監視している日本の公安か国防省の諜報機関だろう。或いは米国のCIAという線も無くは無いか。その他の国々に日本に諜報機関の工作員を送り込む余裕など無いであろうから。


俺の雰囲気が変わったのがわかったからだろう、エーリカと、次いでフレデリカが「どうしたの?」という表情で寄って来た。


"どうも直接監視するようになったようだな"


俺が2人に念話で伝えると、2人にから緊張感が伝わって来た。え?どこどこ?みたいに辺りをキョロキョロしないのは流石。


俺達がどこに行こうとしているとか、そういった事は携帯で満峰神社にいる真琴や舞に伝えている。そうした通話やメッセージは国側が傍受しているだろうから知っているはずなのだが。ここに来て直接要員による追跡、監視という手段に出てきたという事は早く害特封地に戻れというメッセージだろう。


だがしかし、俺はそれに従うつもりは無い。


アメリカによるエーリカ拉致誘拐は阻止した。これに直接関与した連中にも横田基地ごと破壊して報復もしている。だがこの国の上層部にはアメリカ側の計画を知っていながら目を瞑った連中、計画に加担した連中がいるのだ。俺はそいつらを赦すつもりは毛頭無い。必ずその報いを受けさせてやるつもりだ。


俺が横田基地を破壊し、その後でエーリカ達を連れて公共交通機関を使って徐々に東京に近づいて行っているのは!そうした獅子身中の虫たる売国奴共に対する圧力の意味もあるのだ。


俺達を監視しているのは20代後半と思しきカップルを装った男女。男の方は黒いコートを着て髪を七三に分けた真面目そうなタイプで、女性は栗色の髪を肩まで伸ばしグレーのコートを着た地味だけど綺麗な人だ。


俺は水槽内にいる水族鑑賞しているエーリカ達から離れてツカツカと早足で2人の監視員の元へ向かう。彼等に近づくとギョッとした驚きとピリピリとした緊迫感が伝わって来た。それでも水族館デートの振りを続けるあたりはプロだなと感じる。


とはいえ、彼等に含むものは無いし、何をするつもりも無い。俺が動けないでいる男の監視員にすれ違い様「もう2日ほどで秩父へ帰るつもりだから心配するな」と囁くと彼は一瞬ビクッと身体を硬直させると僅かに頷いてみせた。


〜・〜・〜


そんな事があってから俺達は水族館でイルカショーを堪能すると、江ノ島大橋を渡って江ノ島に上陸した。


江ノ島では弁天様にお参りし、その後江ノ島の海側の旅館に泊まる事が出来た。


旅館で仲居さんに部屋へ案内されると、潮風を浴びてべとつく身体を一風呂浴びてさっぱりさせた。エーリカとビクトルは疲れたのかその後部屋で浴衣のまま居眠りしてしまった。俺とフレデリカは寝息を立てるエルフ姉弟を見てどちらからともなくクスッと笑うと、2人の身体が冷えないよう布団を掛けて散歩に出かけた。


旅館の前は江ノ島を巡る小道になっていて、この小道を歩いて行くとやがて江ノ島の頂上に至る。そこに広場になっていて、シーキャンドルと呼ばれる展望台がある。


この展望台は2代目で、先代の展望台は元々小田急向ヶ丘遊園にあった物がここに移築されたのだという。先代の展望台は聞くところによると、第2次世界大戦において蘭領インドの油井と製油施設を占拠する作戦に従事した帝国海軍空挺部隊が降下の訓練に使ったのだとか。


なんて余計な蘊蓄を頭の中で巡らせる。というのも俺はこれからフレデリカに彼女の人生を一変させる選択を迫らなければならないからだ。なので緊張している。


小道を上がって江ノ島の頂上、シーキャンドルやサムエル・コッキング苑のある広場に到着。陽は既に西に傾き、辺りは薄暗くなったていた。


フレデリカは「今日は私の番なんです。昨日エーリカと話し合いましたので」と上機嫌だ。その意味する所は、まぁ、何となくわかる。


「富士山が夕陽に染まって綺麗ですね、リュータ教官?」


俺達ほ手を繋いで歩いて来たこの広場で、その絶景に目を奪われた。暫く足を止めて見ていると、フレデリカが繋いでいた手をもぞもぞと動かして恋人繋ぎに繋ぎ直し、次いで俺の肩に寄り添ってきた。


「リッキー」


「はい」


暫しの沈黙。けれど意を決して俺は口を開く。


「この旅行、明日横浜に行ったら終わりにしようと思う」


「はい」


再び暫しの沈黙が続く。


「アメリカ側がエーリカとビクトルの拉致誘拐を企て、トッドがCIAの工作員と判明している。こうなった以上リッキーとオスカーの魔法研修継続は無理だろう。そうなるとリッキーとオスカーには本国から帰還命令が出されるだろうし、事によれば日本からの強制送還もあり得る」


「…はい。それはわかってます」


ついさっきまで2人で手を繋いで歩き、フレデリカは楽しそうに微笑んでいた。こんな話を持ち出して俯く彼女を見ると罪悪感に苛まれる。


「だけど俺は君をアメリカへ帰したくない」


「え?」


「リッキー、君はどうしたい?俺は君が俺の元に残ってくれるなら俺の全力を挙げてアメリカからだろうが、日本からだろうが君を守ってみせる」


フレデリカは繋いでいた手を解くと俺を見上げてじっと目を見ると、視線を逸らして暗くなった空を見上げた。


「私、本当言うと魔法とか祖国の事とかどうでもいいんです」


どうでもいいは言いすぎですかね?と言ってフッと笑う。


「私の両親はあの日、モンスターに食い殺されました。友達の多くもやはりモンスターに殺され、故郷の町もサラマンダーに焼き払われて。部活動で遠出していた私とハイウェイパトロールに勤務していた兄だけが生き残って」


「その後難民キャンプに収容されましたけど、呆然として何も出来ませんでしたよ、あの動画を見るまでは」


それは満峰神社の駐車場でオークキングを俺が炎龍の加護のキックで倒した、今では一部で「炎の全裸キック」と呼ばれている動画だ、トホホ。


「その時からあなたに会いたい気持ちで一杯だったんです。運良く自分の異能のお陰で日本に来る事が出来、そしてあなたに会う事も叶いました。それってどれくらいの確率なんですかね?」


うん、そう考えると凄い確率だな。単に運がいいとかそんなレベルじゃないくらい。


「それはもう運命じゃないかって私は思うんです。だから私は最初にあなたに会ってから、もう何があってもあなたと共にあるって決めていました」


何人も美人で可愛い恋人がいたのは想定外でしたけどね?フレデリカはそう言って「めっ」という感じで俺を睨んだ。


「私は国には帰りません。リュータ教官、あなたと共にいます。居させて下さい、あなたを愛しているんです」


瞳に涙を滲ませ、泣き笑いの笑顔で俺を見つめる。決意を込めた眼差しで。


俺はフレデリカの両手を取ると胸の高さまで上げる。そして彼女の両手を握る力を強めた。


「うん、ずっと一緒だ。絶対に俺が君を守るから」


「はい。イクヒサシクオネガイシマス?」


フレデリカが誰に教わったものか、そんな言葉を態とらしい外国人アクセントで言ったものだから


「ぷっ」


「ふふふ」


2人して笑ってしまった。


「キャー!!嘘みたい、素敵!」


「ヒュー、おめでとう!」


「お幸せに!」


「エンダーイアー ウィル オールウェズラァビュー」


「「⁉︎」」


って言うか誰だよ?最後の下手くそな歌はよ。


気付けば俺とフレデリカはこの広場に夜景を見に来ていた観光客(カップル)達に囲まれていた。俺達の遣り取りはすっかり見られて聞かれていたようだった。時間にすればほんの数分の間だったが、俺とした事が周囲への警戒を怠ってしまっていた。


拍手したり囃し立てたりする周囲の人々に焼糞で「やったぞ!」とか「ありがとう!」とか言って手を振り、俺は照れているフレデリカの手を引いて進路反転180°、全速前進ヨーソロで戦域から離脱した。


俺達の背後から「え〜キスはぁ?」などという声も聞こえて来たが、無視だ無視!


「後で2人きりの時にいっぱいしましょうね、教官?」


「A s you wish ,my princess.」


今度は日本語アクセントで俺が応えた。

いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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