第200話 グレートエスケープ④ ファミリータイズ
武田少尉の実家が営むペンション「ガッピアーノ」。真鶴半島の海を望む高台にあるその宿はトラットリアが併設されていて、宿泊客だけではなく食事を目的に来る客でも大いに賑わっている。
俺達がチェックインした15時には流石にトラットリアの食事客は引けていたが、数人の客が窓辺からの景色を眺めながらお茶とケーキを楽しんでいた。
「ガッピアーノ」の立地は真鶴半島の尾根上にあり、東に向かって左を向けば真鶴漁港を眼下に収め、右を向けば相模湾から伊豆半島を望む事が出来る最高の場所だ。眺望が良くて料理が美味いとなればそりゃあ人気も出るだろう。
そう考えるとよく部屋が確保出来たなと思う。たまたま空部屋があったのかどうなのか。その答えは「ガッピアーノ」のオーナーシェフである武田少尉の親父さんから伺う事が出来た。
「いゃあ、昨日息子の奴から連絡があってな、明日多分自分の上官が金髪の女の子達を連れて泊まりに来るから部屋を空けておいてくれってね。こっちも急な事だし、奴の頼みだから半信半疑ながら部屋を押さえておいたんだ。そしたら本当にお客さんから予約の連絡が来たからびっくりって訳さ」
武田少尉をそのまま中年にしたようなオールバックの似合うイケオジなオーナーが頬を掻きながらそのように説明してくれた。
「そうなんですか。息子さんも今や凄腕の魔法使いですからね、何か予感みたいなのがあったのかもしれません。それじゃあお言葉にに甘えてお世話になります」
「「「お世話になります」」」
俺に続いてエーリカ 、ビクトル、フレデリカが日本語で挨拶すると、オーナーは俺に「やるな、こんなパツキン美少女3人も連れて」と言って肘打ちをした。まぁ、一人は男子なんだがな。
「ふふふ、それにしてもヤスが魔法使いか。後5年は必要かと思ってたけど」
そう言って笑うのは武田少尉の姉である詩織さんだ。いや、魔法使い違いだと思うよ、それ。
「ガッピアーノ」は数人の従業員がいるものの基本家族経営だそうで、将来はこの詩織さんが経営を継ぐのだとか。弟の克信君はいずれ独立してやはり海辺のレストランを経営したいのだという。
「えっと、ルーティナントタケダにはもう美人の恋人がいますよ?」
と、ここでフレデリカが爆弾を投下!
「「「「えぇっ!!」」」」
今は夕食が終わってオーナーの好意で皆でコーヒーを頂いているところなんだが、ここに来て武田少尉の両親と姉弟の4人は驚愕の声を上げた。
これってまだ本人から何も聞かされてないのだろうな。
「エーリカさん、本当なの?」
武田少尉の母親である由美子さんがエーリカに尋ねる。
「ええ。ケリィっていう戦兎族の美人女戦士よ」
そこで俺は戦兎族について説明。更に携帯に保存してある武田少尉とケリィの2ショット写真を見せた。
「う、嘘だ。あの兄貴にこんな美人のウサ耳ちゃんの恋人がいるなんて…」
弟の克信君はこの事実に大層ショックを受けていた。ウサ耳ちゃんって、君もケモ耳好きな口だな?
「兄貴にケリィさんの友達、紹介してもらおうかな」
「戦兎族の女は強い男が好きだから頑張ってね」
克信君の密かな願望を宿した呟きもエーリカのエルフ耳は逃さず、すかさず追い討ちをかけた模様。天然か養殖か判断に困るところだが。
「あっ、でも克信さんの料理は美味しかったから、戦兎族の女の子の胃袋を掴んじゃえばいいんじゃないかな?」
ビクトル、ナイスフォローだ。
「そうよ。うちの旦那だって昔は料理はともかく、腕っ節は今一つだったのよ。ねぇ?」
「まあ、家族と店を守んなきゃいけねえし、漁港で気の荒い漁師と遣り取りするからな。強くなきゃやってられんのよ」
そう言ってガハハと豪快に笑うオーナー、そんな夫を頼もし気に愛おし気に見て微笑む奥さんの由美子さん。
兄貴いいなぁと羨ましがる弟、そんな弟を揶揄いつつも慰める姉。
とても素敵な家族だと思った。武田少尉はこの場にはいないが、離れていても絆で繋がる家族の姿がここにある。
〜・〜・〜
ペンションでの部屋割りは男子チームと女子チームな2部屋てなった。夕食後、入浴を終えると俺達は男子部屋に集まってカードゲーム(ババ抜き)やボードゲーム(人生的な)に興じ、23時頃にはお開きにしてそれぞれの部屋に戻った。
やたらと寝付きの良いビクトルはベッドに潜り込むや否やすぐに寝息を立て始めた。まだ眠気が無く暇を持て余した俺は部屋を抜けてペンションの展望デッキへ。エーリカとフレデリカの女子部屋に遊び行こうかなぁ?なんてちょっとは考えたが、まぁそんな事はせず。
夜中近い展望デッキには他の泊まり客は誰一人居なくて貸切り状態。冬の乾いて澄んだ夜空には雲一つ無く、少し欠けた蒼く大きな月が海面を照らして、辺りは不思議な明るさに包まれている。空には蒼い月、見下ろせば月光を反射する海。何気に凄いロケーションだ。
「やっぱりここにいた。リュータ、みぃつけた」
不意に声がしたと思ったら、外階段からひょっこりと顔を出したエーリカが見えた。
「俺がここにいるってどうしてわかった?」
「そりゃあね、わかるわよ。だってリュータの恋人なんだから」
そうか、何でもお見通しなんだな。俺は階段からデッキに上がって来るエーリカに手を貸すと、そのまま引き寄せて抱き締めた。俺の背中に両手を回して強く抱き着くエーリカ。
「こんな薄着で寒くないか?」
エーリカは立川で買ったパジャマ代わりのフリース上下を着ている。
「魔法があるから大丈夫。それにこうしていれば暖かいよ」
俺の腕の中でエーリカはそんな可愛い事を言う。
そうして暫く抱き合っていた俺達だが、不意にエーリカが顔を上げる。
「ねぇリュータ、武田少尉のご家族って仲良くって素敵ね?」
「そうだな」
武田少尉の家族は子供の頃に俺が渇望しつつも決して手の届かなかった暖かな理想の家族そのものに思えた。エーリカがここで武田少尉の家族について口にしたという事は、先程俺のそんな思いが顔に出ていたのかもしれない。
「私達も武田少尉のご両親みたいな夫婦になって、あんな風に仲の良い家庭を築きましょう?」
子供の俺には手が届かなかったものも今の俺なら手に入れる事も出来る。エーリカと、真琴と、舞と、サキと、アーニャと、ユリィと、フレデリカと。え?多すぎだって?
生まれも育ちも種族も出身世界も異なる女の子達と、今の日本の常識とはかなりかけ離れた形になるだろうが、暖かい家族を、家庭を築きたいな。
でもちょっと待って欲しい。さっきエーリカが「夫婦になって仲の良い家庭を築きましょ?」ってプロポーズじゃないか。いや、プロポーズは俺からしたい!
「エーリカ、俺と結婚して家族になってくれないか?」
「え?勿論なるわよ?っていうかずっと前からそのつもりだったんだけど、リュータは違うの?」
いやいやいや、何言ってるの。
「違う訳あるか、エーリカと結婚するに決まってる」
「そう、ならいいけど。他のみんなとは?」
「他のみんなも同じだ。俺は欲張りだからな」
「ふふ。うん、いいよ。欲張りなリュータも私愛してるから」
月光に照らされて満足気に微笑むエーリカ。綺麗だなぁ。
「俺だってエーリカをもうめちゃくちゃ愛してるんだからな!」
「知ってるよ、もちろん」
そうして俺とエーリカは月明かりの蒼い光の中でキスをした。
唇を重ね、食むように舌先を合わせ絡ませ、執拗に。やがて唇を離すと、俺達は再び抱き合う。
「エーリカと始めてキスした時もこんな月明かりの寒い夜だったな」
「うん。でもあの時と比べると随分濃厚なキスになったわね」
それはそうだ。本当はもっと先に進みたいのだから。
そんな俺達を月はあの時と同じように宙天から優しく見守っていた。
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それでは次話もお楽しみに!




