第199話 グレートエスケープ③
竜太「やぁみんな、久しぶり。土方竜太だ。ぶらり旅行編、如何かな?」
舞「何か、先輩達ばっかりずるいな」
アーニャ「そんな事いわないの。リュータはみんなで行くって約束してくれた」
サキ「じゃあ今回のタイトルコールは私にやらせてください。『遠くへ行きたーい』!」
ユリィ「これは『救国の魔法修行者』で〜す」
翌朝、ホテルの客室にて夜明け前に目を覚ます。畳上に敷かれてあった布団でエーリカとフレデリカは並んでスヤスヤと夢の中。ビクトルは掛け布団をすっかり剥いで寝相悪く就寝中。着ていた浴衣も帯を残してすっかり着崩れていた。
俺はゴールドブレンド的なインスタントコーヒーをポットのお湯で入れると、広縁のソファに腰掛けて窓からの景色を眺めながら啜る。
夜明け前のオーシャンビューはまだまだ暗くはあったが、水平線の彼方が薄らと白み始めていた。
(朝メシ前にもう一風呂浴びるかな)
東の海から昇る朝日を眺めながらの朝風呂とかなかなか乙なものだ。
そんな事を考えているとビクトルが寝惚け眼で布団の上に身を起こしてこちらを見ている事に気付いた。
「おはよう、ビクトル」
「あ、リュータ兄さん、おはよう、ございます」
ビクトルからは以前までのクソ生意気な態度がすっかり無くなっていた。それは良い方向にあるが、だからと言ってあまり意気消沈しているのも考えものだな。
「よし、ビクトル。これから俺達男子班は風呂に入るぞ」
「え?風呂って、朝だよ?」
森のエルフにしてみれば朝から風呂に入るなんて非常識の極みだ。そもそも彼等が身体の清潔を保つに行っていたのは行水やたらいにお湯を貯めて身体を拭く程度だった。だからこの世界に転移した新しいサバール村に俺が大露天風呂を作るまで入浴の習慣は無くかったのだ。
「いいんだよ。違う場所で非日常を経験して楽しむのが旅の醍醐味なんだから」
「はぁ、」
ビクトルは「この人に何言っても無駄だ」といった表情で曖昧に返事をすると、タオルを持って俺に続いた。
〜・〜・〜
殿方の大浴場に他の泊まり客はおらず貸切り状態。俺とビクトルは早々に全裸になると掛け湯をし、まずは内湯で体を温める。
「ビクトル、何してる?早く来いよ」
「わかってるよ。って言うか、前くらい隠してよ」
先に浴室に入って仁王立ちする俺からビクトルは顔を逸らす。
「男同士なんだから、固いことを言うなよ」
因みに金髪美少年エルフであるビクトルの全裸体は少年らしさを残しつつも引き締まっていてる。その白い肌は仄かに赤みを帯びて、美少年好きなお姉様方には垂涎ものだろう。俺にはそっちの趣味は無いがな。
そして「洗ってやるよ」「え?いいよ」「いいんだな?」「いやだよ!」などのお約束な遣り取りをしつつ露天風呂へ赴く。
露天風呂に浸かると時間的に日の出の時刻となった。オレンジ色に染まった水平線から赤みを増した太陽が顔を出す。未だ蒼黒い宙天とのコントラストが実に美しく、耳を澄ませば微かに潮騒も聞こえる。
「うわぁ、きれいだなぁ」
浴槽から立ち上がり、日の出に目を見張るビクトル。よし、この瞬間を待っていた。
「なぁ、ビクトル。世界って広いだろう?」
「え?う、うん」
「お前もさ、エルフの村だけじゃなくて色々と広い世界を見てみろ。もっと色々な事にも目を向けてみろ」
「…そうだね」
ビクトルは振り向く事もせず、遠い水平線を見つめながらそう呟いた。きっとこいつは今、海からの朝日を見つめながらも、もっと遠い別の何かを見ているのだろう。多分。
〜・〜・〜
俺とビクトルが朝風呂を終えて部屋に戻るとエーリカとフレデリカが目を覚ましていて、俺達と入れ違いに朝風呂に入りに行く。その後、4人でバイキング形式の朝食を頂いた。俺てしては海辺の温泉旅館の和朝食(アジの干物とアサリの味噌汁にわさび漬け的な)が良かったが、他の3人には好きな惣菜を選べるバイキング形式の方がが良いだろう。
朝食の後は身支度を整えて10時にはチェックアウト。
「ねぇリュータ、今日はどこに行くの?」
エーリカがワクワク顔で俺の顔を覗き込む。
「うん。今日は海を身近に感じに行こう」
俺は3人を連れて熱海港を横に眺めつつ駅へと向かった。
〜・〜・〜
ざっぱ〜ん
磯の岩場に打ちつける白波。目の前には沖へと続く岩場の道、その先には注連縄のかかった寄り添う大小の大岩が波間から起立している。その有り様はさながら夫婦のようであり、海の神を迎える門と参道のようだ。
むせかえるような潮の香りは濃い魔素を含み、深く吸い込んで魔力操作を行えば無限に魔力を生み出せるだろう。
熱海からJR東海道本線を登って2駅目の真鶴駅。ここはその真鶴半島の突端にある聖地三ツ石だ。
エーリカから今日はどこへ行くのかと尋ねられ、俺はみんなに真鶴行きを提案した。日本の海を知らない3人に間近で見せてあげたいと思ったのだ。
「私は以前に何度か家族とベニスビーチに行きましたけど、海辺は犯罪に巻き込まれて危ないからって両親に言われてあまり近づけませんでした。ですから太平洋の荒波、是非見てみたいです」
「うん。私もホテルの窓越しじゃなくて間近で海を見てみたいな」
「僕も」
そうして真鶴駅からタクシーで三ツ石へ。冬の海風は冷たくはあるものの4人で磯遊びだ。
「うわっ、波、来た!」
磯に寄来ては砕ける波飛沫を跳ねて避けるビクトル。
「蟹、蟹がいますよ!」
蟹を見つけ、岩の隙間に逃げ込んだ蟹を捕まえようとするフレデリカ。可愛ええ…
「ねぇリュータ。この梅干しみたいな生き物、何?」
エーリカが磯溜まりの中で水中の岩肌にへばり付くイソギンチャクを指して俺に尋ねる。
「あ〜、これはイソギンチャクという生き物の一種で、その名もウメボシイソギンチャク。水中の微生物を触手を伸ばして食べるんだよ」
「へぇ〜」
いやいや、エーリカ。珍しいからといって棒で突くのはやめような。天然記念物だから。
〜・〜・〜
昼ご飯は真鶴漁港の港食堂で念願の刺身定食と金目鯛の煮付けにありついた。刺身は鮪の三種とアジとハマチ。俺はワサビを醤油に溶かさず、箸で摘んで刺身に乗せる派。
魚の脂と旨味が醤油と薬味と相まって口の中に広がる。うん、実に旨い。
それから金目鯛の煮付けに箸を付ける。濃い煮汁に浸る丸々一尾の金目鯛。甘辛く煮付けられた身はふわっと柔らかく、脂が乗った上品な味わい。
と、気付けば俺だけが煮付けに箸をつけている。そんな俺を3人はじっと窺うように見つめていた。
「あれ、旨いよ、みんな食べないの?取り分けて食べようぜ」
無言で顔を見合わせる3人。
「はい、リュータ教官が美味しそうに食べているから、きっと美味しいのだと思いますけど、」
けど?
「何と言うか、」
言い淀んだフレデリカにエーリカが続き、
「見た目がちょっと…」
ビクトルが結んだ。何か、いつの間にか息が合ってないか?お3人さん。
う〜ん、切り身はいけても姿煮はまだだめか。ならば、だ。俺は金目鯛の身を小皿に取り分けて煮汁をかけると3人に配る。
「ほら、これなら大丈夫だろ?騙されたと思って食べてみなよ。絶対美味いからさ」
「「「…」」」
3人は仕方なしといった感じで小皿の金目に箸若くはフォークをつけるとその身を口に運ぶ。
「「「!!」」」
途端に表情が変わる3人。
「「「美味しい!」」」
「だろ?」
味をしめた3人に金目鯛は忽ち骨だけとなり、更にビクトルはゼラチン質の目玉まで完食した。
「へぇ〜、お客さん方、いい食べっぷりだね」
空いた皿を下げに来た食堂の女将さんもキレイに骨だけが残る大皿を見て嬉しそうだ。
「美味いものに国境も世界線も関係無いって事ですよ」
「嬉しい事言うねぇ」
空いた食器を下げた女将さんはお茶のおかわりに抹茶とミルクの渦巻きクッキーを付けてくれた。感謝。
〜・〜・〜
俺達は食堂を出ると、漁港からでる遊覧船に乗った。遊覧船が漁港の岸壁から出航すると、忽ち当たりから鴎が群がって来る。間近に俺達の目線の高さで飛ぶ鴎達に乗船時に船員さんから買ったえびせんを出すと早速手から嘴に咥えて飛んで行く。
すると鴎達が私達にもちょうだいとばかりに次から次へと殺到、エーリカもフレデリカもキャーキャーと歓声を上げて掌に盛ったえびせんを与える。
何となくこのシーン、アニメ映画で観たような。その作品では空から落ちてきた女の子がパン屑を鳩にやっていたが。
鴎達へのえびせん餌付けはえびせんが無くなるまで続き、遊覧船はやがて三ツ石の沖を周ると再び真鶴漁港に戻り、1時間弱の船旅は終わった。
この後は朝方に予約した真鶴半島の高台にあるペンションに向かう。そのペンションの名は「ガッピアーノ」。国防陸軍からの魔法研修生である武田泰信少尉の実家だ。
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




