第198話 グレートエスケープ②
ここはJR熱海駅。俺達4人は停車した新幹線「こだま596号」から降車して改札口から外に出ると、駅前のロータリーで俺は携帯から真琴に電話をかけた。エーリカとフレデリカとビクトルは駅前の間欠泉(を再現したオブジェ)から噴き出す蒸気にキャーキャーとはしゃいでいる。
「あ、もしもし竜太?派手にやったわね。今どこにいるの?」
真琴は電話をかけると速攻で出てくれた。有難い限りだ。
「ごめんな、心配かけちゃって。エーリカとビクトルは無事に救出したよ。フレデリカも無事だ。今は騒ぎに紛れて脱出して熱海にいるよ」
「あ、熱海ぃ?何で熱海にいるのよ?」
素っ頓狂な真琴の声がスピーカーから響く。何で熱海かって言えば、国家間の陰謀に巻き込まれて恐い思いをして心に傷を負ったであろうエーリカとビクトルを海と温泉と魚介で癒したかったからだと真琴に伝える。
「ふ〜ん」
何か疑われている訳だが…
「まぁ、2人の心のケアは必要よね。でも本当は自分が行きたかったからじゃないの?ずっと伊豆の温泉に行きたいって言っていたものね」
ギクっ。ず、図星か。流石はマイハニー、お見通しか。
「バレたか?でも2人の心のケアっていうのは本当たぞ?」
「うん。それはわかってる。あ〜、でもいいなぁ。私も竜太と温泉旅行に行きたいよ」
うぅ、それを言われると辛い訳だが。
「ごめん。今度無理にでも機会を作って行こう」
「ふふ、期待しないで待ってるわ。それでわかってると思うけど、この通話は傍受されているわよ?」
「あぁ。それは仕方が無い。だけど連中も俺達の位置と行動がある程度知れていれば安心だろう?まぁ、一週間くらいでそっちには戻るよ。お土産買って帰るからさ」
「わかったわ。毎日誰かしらに連絡をしてちょうだい。わかったわね?」
「あぁ、約束だ。それじゃあ、皆にも伝えておいてくれ」
「うん。こっちの心配はしないで楽しんで来て」
通話を切るとエーリカ達が戻って来た。
「真琴、何だって?」
「楽しんで来いってさ」
〜・〜・〜
もう既に陽は傾いて、辺りはすっかり暗くなっている。観光地とはいえ、いや、観光地だからこそ商店街のシャッターが降りるのは早く、駅前を行き来する人影もまばらだ。
この時間から飛び込みで宿を探さなくてはならない。携帯で検索するのも良いが、ここは折角駅前だから観光案内所の検索端末を利用しよう。流石に観光案内所は閉まっているが、入口に端末が設置してある。
「大人3人に子供1人、和室で朝食付き、1泊の予算は1人に付き1万円くらいっとね」
端末に入力するのにいちいちで口に出さなくてもいいもんだが、その方が間違えが少なくて良いのだ(個人の感想です)。
すると熱海港の先にある「昇華園」という温泉観光ホテルが検索されたので予約を入れる。
「ねぇリュータ、何か食べて行くでしょ?お腹空いちゃった」
エーリカが恥ずかしそうにお腹をさする。そう言えば朝飯だけで、昼飯はあの事件で食い損ねたんだったな。新横浜でお茶くらいは飲んだが。
「そうだな。店は俺に任せて貰っていいかな?」
「うん、勿論」
俺としては早速刺身の盛り合わせに金目鯛の煮付け、さざえのつぼ焼きと行きたかったが、それらは海が初めてのエルフ2人にやや内陸育ちのアメリカ女子にはちとハードルが高いだろう。そうすると、やっぱり洋食系かな?
という事で、俺は以前にバイトで熱海に来た際に先輩に連れて行って貰った地魚を使った地中海料理の店「ロッソアドリアーノ」へと3人を案内した。
〜・〜・〜
カランコロンカラン
「ロッソアドリアーノ」の年季の入った木製のドアを開けるとレトロなドアベルが鳴った。
「こんばんは。4名なんだけどいいですか?」
ドアを開けて店内に声をかけると、早速アルバイトらしい金髪のブラウスに黒いスカートの制服を着た若いウェイトレスが応じてくれる。
「いらっしゃいませ、ロッソアドリアーノへようこそ。4名様ですか?お好きな席へお掛け下さい」
窓際の席が空いていたので3人を連れて向かう。
「へぇ〜」
考えてみればエーリカとビクトルはこの世界の飲食店に入るのは初めてか。2人とも随分と物珍し気に店内を見回している。
店内は少し薄暗くした照明に白を基調とした壁に木目の床、テーブルには紅白のチェック柄のテーブルクロスがかけられている。そしてイタリアや南仏を思い起こさせる壁絵や小物が置かれいる。前に来た時と変わらず、日本人が思い描く南欧海辺の食堂が具現化されていた。
若いウェイトレスは慣れた手付きでテーブルにメニューと人数分のお冷やを配る。料理の前に人数分のジンジャーエールを頼むと「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい。ごゆっくりどうぞ」と言って下がって行った。
「リュータ教官のオススメって何ですか?」
フレデリカに尋ねられて考える。以前に何度か訪れた際には料理にハズレは無かった。厨房を覗いた限りマスターも変わっていないようなので、きっと何を頼んでも美味しい筈だ。
フレデリカ、金髪をポニーテールにした白人美女がメニューを食い入る様に見る姿は、まるで某FGOのセイバーのようだな。
「ここは地魚を使った地中海料理が名物だからな。鯵はいつも美味しいし、この季節だと金目鯛に伊勢海老ってところかな」
で、結局みんなが何を注文したかと言うと、エーリカはシーフードパエリア、フレデリカはシーフードドリア。ビクトルはミックスフライで俺は魚介のパスタ。合わせて人数分のクラムチャウダーとガーリックトーステ、皆で取り分けて食べるように金目鯛のアクアパッツァを注文した。
〜・〜・〜
先に注文したドリンクをウェイトレスが配膳し終えると、俺達はそれぞれグラスを手に取った。
「それじゃあ、みんなで乾杯しましょ?」
エーリカが手にしたグラスを掲げる。
「え〜と、何に乾杯するの?」
横田基地で救出した頃はトッドに騙されていた事を知り、更に大好きなエーリカから許さないから!と言われてショックで押し黙ってしまっていたビクトルも、こうして少しずつ元の調子に戻っているようだった。やっぱり海と温泉と魚介が癒しているのだ、多分。
「そうだな、じゃあエーリカとビクトルの無事を祝して」
「「「「かんぱ〜い!」」」」
カチンと俺達はグラスを合わせるとジンジャーエールを飲み干す。よく冷えて少し生姜の辛味のある炭酸が乾いた喉に心地良い。
そして、その後は運ばれて来た料理を美味しく頂く。女子2人は互いに少しずつ料理を分け合い、それ美味し〜いとキャッキャウフフ。ビクトルは腹も減っていたのだろう、シーフードのミックスフライを夢中で食べていた。
一同、料理を堪能して店を出たのは20時を過ぎた頃。俺達は再び駅前に戻ると、タクシーに乗って予約したホテル「昇華園」に向かう。
ホテルにチェックインすると、中年の小綺麗な中居さんが部屋まで案内。通された部屋は予約した通りの広い和室で、既に座卓は端に寄せられて布団が敷かれていた。
「お布団で寝るの、初めてです」
フレデリカは布団の上に座って物珍し気に布団の感触と柔らかさを確かめ、ビクトルは早速寝っ転がった。
俺は急須に茶筒から茶葉を入れてポットから湯を注ぎ、座卓にエーリカが並べた湯呑みに茶を入れた。
「お〜い、お茶が入ったぞ」
「「は〜い」」
皆が揃う前に俺は広縁のソファに座ると、先に一口茶を啜った。口の中にぐり茶の濃厚でいて甘味のある茶の味が広がった。
「ふう」
そして窓から熱海港の夜景を見て一息吐くと、向かいに座ったエーリカがとっておきの笑顔でこう言った。
「有難うリュータ、お疲れ様」
1日の疲れが吹っ飛んだ気がした。
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




