第197話 グレートエスケープ①
「うわぁ、綺麗!」
「凄い!」
俺達の目の前には屋内でありながらも高く聳えるクリスマスツリー。見上げるエーリカとビクトルのエルフ姉弟が感嘆の声を上げる。
今年のカラーはゴールドだそうで、濃い緑の針葉樹に黄金のイルミネーションが映えている。
エーリカはファーのついた白いロングコートを着てデニムパンツ、頭には緑色のニット帽をすっぽりと被って笹の葉の様な長い耳を隠している。フレデリカもベージュロングコートにグレーのマフラーを巻いてデニムパンツを穿いている。
(うん、うん。2人とも良く似合って綺麗だぞ)
ビクトルはやはり紺色のニット帽を被り、赤いダウンジャケットとグレーのカーゴパンツ。俺はといえば紺のデニムパンツに黒いボンバージャケットという出立ちだ。
ここはみなと横浜、みなとみらいはクィーンズタウン、その1階のモールだ。中央に設えられたこの時期恒例のクリスマスツリーとイルミネーションを行き交う買い物客も観光客も楽しんでいる。
「本当、キレイですね」
興奮気味のエーリカとビクトルに対し、俺の傍でうっとりとした表情をするフレデリカもヨコハマのクリスマスを楽しんでいるようだ。
「そうだな、でもアメリカならもっと凄いツリーがこの時期あるんじゃないか?」
「それはそうですけど、向こうのは大きいだけで大雑把というか、」
それはあるかもしれないが、何せ行った事ないからわからないな。
「それに、私は西海岸でも内陸地域の田舎出身ですから」
それこそ俺には行った事無いからわからない。たが、そこは良くアメリカの映画やドラマで見るような家族や友達と過ごすクリスマスがあったのだろうな。
「だから」
フレデリカは俺の左腕に腕を絡ませて密着すると、俺の顔を見上げた。
「こうして、こんな大きくて綺麗なクリスマスツリーを恋人と見る事が出来てとっても幸せです」
そんな可愛い事を言うものだから、思わずフレデリカの髪に頬づりしてしまう俺。
「あー、ずるい!何、2人でイチャイチャしてるのよ!」
エーリカがクリスマスツリーの前からプンスカ起こりながら駆け寄って来ると、俺の右腕に抱きついた。
今度は緑色のニット帽を被ったエーリカと目が合う。うん、ちょっと焼き餅を焼いたエーリカもとても可愛い。きっと周りから見たら俺は2人の美女から抱きつかれているニヤけた男で、死ねとか爆発しろとか思われているのだろう。実際そうした視線をビシビシ感じるし。
「はぁ、リュータ兄さんも大変だね」
紺色のニット帽を被ったビクトルがやれやれといった感じで肩を竦めてそんな事を口にした。
因みにビクトルは横田基地で救出して以降、色々と話し合う機会を設けて、今では俺の事を「リュータ兄さん」と呼ぶまでの仲になっている。ビクトルはあの事件以降は憑き物が落ちたようにエーリカへの執着が無くなったようだ。
エーリカが拉致されたあの事件から5日が経過している。俺達は今、横田基地から逃げ出して横浜に来ている。
横浜で何をしてるのかって?何もしていない。ただ、恋人達(+α)と横浜のクリスマスを楽しんでいるのだ。
〜・〜・〜
俺とフレデリカで在日米空軍基地へエーリカとビクトルを奪い返しに行ったあの日。俺が放った超高温の火球により基地の滑走路は穴だらけとなり、管制塔や格納庫は焼失。駐機していた航空機や車両、そして燃料タンクが大爆発して完全に基地機能を消失した。
それだけの大惨事だ。基地の消防隊は全滅しても周辺の消防署や消防団から数十隊の消防隊が在日アメリカ軍との協定に基づいて出場、また、警察も警戒線を張って警戒と周辺住民の避難誘導に当たった。
国道16号線と圏央道は通行止めとなり、JR八高線は運行停止となった。国防省も情報収集を名目に部隊を派遣していた。
俺も基地外に被害が及ばないように気を使ったため、火災は基地のフェンスの内で収まったようだった。
そんな警察、消防、国軍の部隊が出場出動する現場から俺は混乱に乗じて3人を連れて抜け出す事に成功した。まずは基地近くのJR八高線東福生駅からタクシーに乗り、国道16号線を避けて立川へ。立川駅からJR中央線で八王子駅へ向かう。
"ねぇリュータ、これからどうするの?山へ帰る?"
タクシーの中でエーリカが尋ねる。
「最終的にはそうするけど。その前にどうだろう、折角封地外に出たんだ。あっちこっち寄り道して遊んでいかないか?」
「「賛成!」」
女子2人は大賛成の大はしゃぎ。それに対してビクトルは自分はどうなるのだろうという感じで下を向いている。
「ビクトル、お前も一緒に来るんだよ」
「え、僕もいいの?」
「あぁ。エルフの村だけじゃなく、この機会に広い世界を見て、多くの文物に触れてみろ。お前にはそれが必要だ」
「は、はい」
嬉しそうに返事をするビクトル。よし、いっちょお兄さんが教育してやるか。
「でも、リュータ教官。あの、その、お金は、大丈夫ですか?」
遠慮がちに金銭面の心配をしてくれるフレデリカ。俺は彼女達を安心させるようにポケットから財布を出すと、そこから電子決済カードを引っ張り出す。
「じゃーん。こいつがあるから心配ご無用。しかもここ数年分の給料がほぼ手付かずだからいっぱい遊べるぜ!」
本当は陸軍からの魔法教官としての給料の他にも齋党からの手当てもあったりするのだけど、それは俺と斉藤と満峰神社の宮司さんだけの秘密だ。
「「「イェーイ!」」」
「はは、盛り上がってますね、お客さん方」
タクシーの運転手さんもちょっと引き気味だ。
〜・〜・〜
そうして俺達は立川駅でタクシーを降りると、逃走、じゃなくて旅行に必要な服や小物を買い揃え、立川駅から八王子行きの中央線に乗り、八王子駅から横浜線に乗り換えた。そして、新横浜駅から東海道新幹線に乗って熱海を目指したのだ。
まぁ一週間くらいならいいだろう。俺はモンスターアタックからこっち、戦い続け、働き続けて来たのだ。しかも異世界まで行って。だからこんな休暇があっても罰は当たらないだろう、多分。
まずは熱海。そこで海と温泉と新鮮な魚介の料理を心ゆくまで4人で堪能するのだ。
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それでは次話もお楽しみに!




