第196話 エーリカ救出作戦⑤
5人の米兵を屠り進んだ貨物室の更に奥にはエーリカが床上に転がされていた。手枷足枷で自由を奪われ、口には猿轡が噛まされてある。
床上から俺を見上げるエーリカと目が合う。
"エーリカ、今助けるからな"
"リュータ、有難う。助けに来てくれるって信じてた"
念話で思いを交わし合い、俺はトッドを見る。
「やってくれたな、リュータ。だがこちらには人質がいる事を忘れるなよ」
"リュータ、ビクトルが嵌められいる首輪は爆発するの"
エーリカが念話でそう教えてくれる。確かにビクトルの首には某新世紀劇場版Q的な黒いチョーカーが嵌められいる。ならば、こうするまでだ。
「このチョーカーが爆発するだっけか?」
俺はアポーツでビクトルの首から引き寄せたチョーカーを人差し指でクルクル回してトッドに見せつけた。
「なっ⁈」
トッドは俺が指回すチョーカーとビクトルを交互に見比べ驚きの表情を浮かべた。
「このっ!」
我に帰ったトッドがチョーカーを爆発させようとするも、それより一瞬早くチョーカーを俺は極低周波でバラバラにした。
「クソッ」
自らが持つ唯一の切り札を失ったトッドは拳銃を腰のホルダーから引き抜くと、その筒先を俺に向けた。だが拳銃が弾を放つ事は無く、間を詰めた俺のアッパーカットを鳩尾に食らって崩れ落ちる。
随分と加減したつもりではいたが、トッドは床上で身体をくの字に曲げ意識を失いつつも全身をピクピクと痙攣させていた。
俺はエーリカの猿轡を外し、手枷足枷を破壊し、彼女の手を取って立たせる。
「大丈夫か?エーリカ」
「リュータ!」
エーリカは立ち上がり、そのまま俺の胸の中に飛び込む。そして背中に両手を回して強く抱き着いた。勿論、俺もエーリカを強く抱き締める。
必ずリュータが来てくれると信じてた」
「うん」
「だけど、やっぱり恐かったよリュータ」
背中に回されたエーリカの両手に力が入る。俺はエーリカを抱き締め、彼女を安心させるように髪を撫でた。
「もう大丈夫だから。エーリカもよく頑張ったな」
「うん」
俺達はそうして一頻り再会を喜び抱き合うと脱出に取り掛かる。しかし、その前に、だ。
俺は拘束されて床上に転がされているビクトルの猿轡に手枷足枷を外し、襟首を掴んで無理矢理に立たせる。
「ビクトル」
「は、はい!」
俺は敢えてビクトルに向けて威圧を掛ける。凄まじい威圧を受けたビクトルは顔面蒼白となり、ガタガタと震えながらも直立不動から身を動かせない。
「お前に問う。俺はエーリカに相応しくないのか?」
「え?」
意外な質問だったのか、ビクトルは黙り込んで何も答えない。俺は更に威圧を込めた。
「再び問う。俺はエーリカに相応しくないのか?」
呼吸が早くなったビクトルは俺を見上げ、口をハァハァと息を荒くした。
「返事をしろ!」
俺に一喝されたビクトルはビクッと全身を硬直させて声を上げた。
「ふ、相応しい、です!」
「誰が誰にだ?」
「リュ、リュータさんがエーリカ姉さまに相応しいです!」
「よし」
ビクトルに俺とエーリカの仲を認めさせた。ある意味で今回の事件、全てはビクトルが俺とエーリカの仲を認められなかった事に起因したと言えるだろう。もしも、エルフのサバール村が転移して来た時に悪印象を恐れずにそうしていたら、或いはこんな事件は怒らなかったかもしれない。だから脅し上げようが何しようがこの餓鬼にそこを認めさせなければ、この事件は終わりにはならない。
俺はエーリカの手を取ると、ビクトルを連れて擱座した輸送機から外に出る。途中の貨物室には米兵達の骸が累々と横たわっていた。そして外に出れば俺の魔法攻撃で燃やされ、爆発炎上した基地施設と輸送機に車両の残骸が未だ炎を上げて燃え上がり、黒煙を上げていた。
「エーリカ!」
輸送機から出た俺達の元にフレデリカが駆け寄り、エーリカに抱き着いた。
「リッキー!」
2人は抱き合いながら互いの無事を確かめ合う。
「リッキーも来てくれたのね、有難う。お陰で助かったわ」
「エーリカ、私の祖国が酷い事をしてごめんなさい。謝って許される事じゃないけど、本当にごめんなさい」
「ううん。リッキーのせいじゃないから。自分を責めないで」
2人の金髪美人が抱き合い姿はそれは美しく、とても絵になるものの、見惚れている場合じゃないな。
「ビクトル」
「は、はい」
俺に呼ばれてビクッとするビクトル。
「機内の死体は俺がエーリカとお前を助け出すために殺した兵士達だ。あの燃え上がっている建物もそうで、あの炎の中では何百人もの人間が死んで焼かれている」
「…」
「それが全てお前のせいだとは言わない。それは邪な考えを持ち、それを実行に移した連中が責めを負うべき事だ。だがトッドに騙されたのかもしれないが、それに自分から関わったお前も決して無罪ではない」
「…はい」
ビクトルは一瞬何か言おうと口を開きかけたが俯いて返事のみを返した。
「お前は絶対にこの事を、この光景を忘れずに生きていけ。それがお前の罪滅ぼしだ」
まだ10代前半の少年を責め立てても仕方が無い。誰もが正しい事だけをする訳ではない。間違える事、失敗する事は誰にだってあるだろう。子供が道を誤ったなら正しく導くのが大人の役割というものだ。
「わかったか、弟よ?」
ビクトルは「はい」と力無く返事をすると、そのままエーリカの前に進み出て謝罪を口にした。
「ごめんなさい、姉さま。僕はとんでもない事をしてしまいました。本当にごめんなさい」
「ビクトル、2度目は無いのよ?もう間違える事は許されないから」
ビクトルへの突き放したような口調に、エーリカの弟に対するまだ冷めやらぬ怒りを感じた。
ビクトルがここまで自分の姉達に対する感情を拗らせたのは元々のシスコンに加え、奴が思春期であった事も大きい。しかし魔王国軍の侵略とか、この世界への転移とか、その過程でエーリカ達と引き離されてしまった事実など後天的な要因が決定的だったと思う。
結果としてトッドに騙されてアメリカ側の陰謀に加担し、危うく取り返しの付かなくなる一歩手前まで事態は進行してしまっていた。
エーリカもそんな事態を招いたビクトルをちょっとやそっとでは許してそうも無いようだ。こうした家族間の感情のもつれは下手に周りが干渉すると更に悪化するもので、時薬に任せるしかない。人の一生では効き目が出なくても、幸いエーリカもビクトルもエルフだからいつかは効き目が出る事だろう。
と、殺気を感じた俺は咄嗟に自分達の周りに電磁バリアを展開。その直後、輸送機の方から銃声が鳴り、フレデリカがいる辺りで弾丸が弾かれた。
「リッキー、大丈夫?」
エーリカがフレデリカに駆け寄り、その安否を確かめる。
「エーリカ、大丈夫。弾はバリアが弾いたから何ともありません」
そうだとは思ったが、実際に無事なフレデリカの声を聞くと安心するな。
フレデリカを銃で撃ったのはトッドだ。奴は擱座した輸送機、その大きく口を開けた機首の開口部から尚も俺達に向けて銃を撃ち続ける。やがて弾倉の弾が尽きると、トッドは構えていた銃を投げ捨てた。
「気が済んだか?トッド」
「クソが!あと少し、あと一歩で計画は成功していた。この女さえいなければ俺が勝っていたんだ!」
「この女」とはフレデリカの事。
「お前とフレデリカは同じアメリカ人じゃなかったのか?」
トッドに近づきながら俺は尋ねる。
「その女はお前に協力して祖国を裏切ったのだ」
「裏切ったというのなら、それはお前の国が最初なんじゃないのか?」
近づきながらトッドと目を合わせる。
「ステイツもロシアもモンスターでかつての力を失っている。ヨーロッパも中国も滅びた。今、この世界でまともに国家を維持し、産業を発展させているのは日本だけだ。日本に軍事侵攻出来る国は無く、そんな日本が更に魔法という未知のパワー、未知のテクノロジーを手に入れている。我がステイツは日本の一人勝ちを許さず、日本に対抗するため魔法が必要なのだ。この計画は祖国の未来に必要な事だったんだ!」
大声で自己欺瞞、自己弁護を喚くトッドに更に近寄り、奴の心の中を覗き込む。
「それはお前の本心か?そう言って自分を誤魔化し、自分の行為を正当化し、フレデリカに責任転嫁しているんじゃないのか?」
「…ど、どういう事だ?」
「俺にはわかるぞ。お前は自分の国を思ってエーリカの拉致をしたんじゃない。お前は弱みを握られている。自由の身と引き換えに俺の女を拉致した。全て自分のため、お前は自分の事しか考えていない男だ。自分さえ良ければ誰がどうなろうが全く構わないエゴイストだ」
トッドは俺に睨まれて後ずさる。
「な、何でお前がそれを知っている⁉︎」
「そりゃあ、お前の心の中を覗いたからな。俺にはお前の全てがわかる(うそ)。覚醒剤に手を出して嵌められたな?あ〜、子供の頃から酷い事をしているな。ハイスクールでアジア系の女子学生を集団暴行とか、屑野郎が」
俺の言葉にトッドは恐怖に怯えた表情を浮かべた。
「やめろ、見るな。俺の心を覗くんじゃない!」
だが俺は更に一歩近付き、トッドの目の前に立つ。
「お前は山本少尉を魅了の能力で操ったな。魅了ってのはな、こうやるんだよ」
俺はトッドと目を合わせたまま両目に魔力を込めて奴に命じる。
「お前自身は誰も殺していないから命だけは助けてやる。「トッド、お前は3年くらい眠っていろ」。」
この言葉を聞いたトッドはそのまま白眼を上転させて意識を失うと、崩れるように貨物室の床上に倒れ込んだ。
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




