第195話 エーリカ救出作戦④
⭐︎トッド視点
エルフの女、エーリカの拉致は見事に成功した。俺の協力者でもあるエーリカの弟を人質に取り、ほとんど抵抗を受けることなく、飛来したヘリから降下した特殊部隊員がエーリカを拘束して連行した。その際、女の弟が姉にひどいことをするなと食ってかかってきたが、思いっきり顔をひっぱたいてやった。もうガキに味方してやる優しいお兄さんのふりをも終わりだからな。いい加減頭のいかれたガキのご機嫌取りにもうんちうんざりしていたんだ。このガキも大切な異世界種族の研究素材だ。だからこれ以上手荒な事はせず、こいつの大好きな姉同様に拘束して口を塞ぎ同じくヘリに放り込んだ。そして魅了で操った日本陸軍の女を眠らせ、俺もヘリに乗り込み、漸くこの極東の山奥ともおさらばだ。
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⭐︎エーリカ視点
ヘリコプターに乗せられたれ私は手足を拘束され身動きが取れない状態。とはいえ、私がその気になれば容易にこんな拘束なんか解除できる。私だってリュータと一緒に魔法の修行を続けていたのだ。舞と斉藤がこの世界の科学知識を取り入れて新たに開発した魔法だって修得しているし。だから私の両手を両足を拘束している金属の枷だって振動の魔法で粉々にすることだって出来るんだ。でも私の隣には首輪をはめられたビクトルがいる。
「下手な事は考えない方が良い。この首輪には爆薬が仕掛けられている。量としては僅かなものだが子供の首を吹っ飛ばすには充分だからな」
つまり私が拘束を解いたらビクトルは首輪が爆発されて死んでしまうのだ。愚かな弟だけど、弟は弟だ。見殺しにする事は私にはできない。
ヘリコプターはやがてどこかに着陸すると、私とビクトルは追い立てられるように外に出された。
そこは舗装された一直線な広い道が伸びるばかりのだだっ広い土地で、その端のほうには倉庫のような建物がいくつもある。広い道には大きな飛行機が何機も止まっている。いつも飛んでいる飛行機を下から見上げているだけだったけど、こうして間近で見るととても大きい。
私は足枷で歩き辛い中、兵士に銃を突きつけられてその飛行機へと向かわされる。乗せられてあれが飛び立ったら、きっとアメリカという国に着くまで出られないのだろう。でもきっとリュータが助けに来てくれる。私をアイツらの元から奪い返しに来てくれる。
大きく開いた入り口から私は飛行機の中へと追い立てられた。
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⭐︎トッド視点
捉えたエルフの姉弟を作戦通りに横田基地の滑走路に駐機していた輸送機に移すと、機長に離陸するよう促した。機長も当然作戦について知悉していたため「了解」と応じる。
輸送機は前部ハッチを閉じ、そのまま滑走路上へタキシングを開始する。このまま加速して離陸すれば俺の任務は終わったと言って良い。数時間後にはステイツ本土の空軍基地にでも着陸し、あの2人を何処ぞの研究機関に引き渡しせば晴れて自由の身だ。
ところが輸送機はタキシング途中に滑走路上て停止してしまった。
「おい、どういう事だ。なんですぐ離陸しない?」
俺はすぐさま内線で機長に問い合わせる。
「基地管制から離陸許可が出ないんだ」
「作戦中だぞ、管制官に確認したのか?」
「勿論だ。日本側から待ったが入ったそうだ」
「どういう事だ?」
「日本の領空を日本の許可無くヘリを飛ばしたそうじゃないか?今、在日米軍の航空機は全て飛行停止だ」
クソッ、肝心なところだっていうのに。
確かに今は昔のように在日米軍が日本国内ででかい顔が出来る時代ではなくなっている。とはいえ、この作戦発動に際して日本側の協力者がこちらの輸送機の飛行を可能にしているはずなのだが。
俺は機長に内線から秘匿回線でラングレーのCIA本部に繋いで貰い、ふんぞり返っているであろう上司のイェーガーを呼び出した。
「イェーガー、標的を乗せた輸送機が日本側の許可が降りず離陸出来ない。そちらから圧力をかけてくれ」
「報告は受けている。良くやったトッド。依頼の件は了解した。暫く待っていてくれ」
イェーガーは俺からの要請を受けて一方的に通話を切った。さて、どうなるか。
しかし、飛行再開までの時間が作戦にどう響くかが問題だ。相手はあのリュータなのだ。あまり時間がかかれば奴に標的奪還に必要な時間を与えてしまいかねない。
俺はリュータを憎んでいる訳でも嫌っている訳でもない。しかし、膨大な魔力に強大な魔法の力を持ち、何人もの美女や美少女を侍らせている奴が、中途半端な能力を持ったが故に罠に嵌められて意に沿わぬ工作員に身を落とした俺には無性に腹立たしいのだ。奴から大事な女を奪って吠え面かかせてやりたかった。これが全くの自業自得で八つ当たりの逆恨みである事も重々承知しているが、そう思わずにいられない。
そして暫く経過して輸送機のタキシングが再開した。
(ふっ、リュータよ、どうやら俺の勝ちのようだぜ?)
と、視線を感じた俺が視線を向けるとエーリカが俺を見ていた。この女は猿轡が噛まされているため喋れないが、俺と目が合うと僅かに口元を歪めた。どうやら俺を嘲笑っているようだった。
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⭐︎ エーリカ視点
私とビクトルは飛行機内の座席に座らされている。手足の枷はそのまま、猿轡も噛まされているので喋る事は出来ないけど念話で会話する事は出来る。
"ビクトル、これがあなたがした事の結果よ"
ビクトルは私の念話に応えずに下を向いたままだ。
"どうしたの?何か応えなさい?"
するとビクトルは顔を上げると、縋るような目で私を見つめる。
"僕だって騙されたんだ"
"それが通用するとでも?私とユーリカもあなたを赦さない。1人になって自分の愚かさの責めを負いなさい"
"そんな。僕が悪いんじゃない。そもそも姉様があんな男の恋人になるからいけないんだ!あんな男、姉様に相応しくない!"
まだこんな事を言ってる。ビクトルは自らの行いを何一つ反省していないようだった。自分を騙した奴が悪い。自分から離れた私が悪い。そしてリュータが悪い。
私はそんな弟を見て、こんな事をしでかした弟を赦そうとはやはり思えなかった。もう、その誤った考えを正そうとも思わない。こんな奴、どうにでもなってしまえ。
と、そんな時、ゆっくりと動いていた飛行機が不意に止まった。そしてそのまま動かなくなり、私達を見張っていたトッドは壁に取り付けてある電話を取ると苛立った調子で誰かと喋り始めた。少し距離があるのと、早口なのとで何を言っているのかはわからない。だけど、上手く事が運ばれていない様子が窺えた。
それからどれくらいの時間が過ぎたのか、おそらく数分といったくらいだろう。再び飛行機が動き出す。徐々に動きが速くなる飛行機だけど、そこで私は僅かに既知の魔力波を感じ取った。
(これは、バーン?)
バーンとゾフィの夫婦はいい人(竜?)だけど、基本的に火竜は派手好きのオラオラ系。自身の力の源である膨大な魔力を隠す事は無く、魔力波を放って自己の存在をアピールするのだ。だから離れた場所、例えばこの空の上にいるだけで地上からでもその魔力波を感じ取る事が出来る。隣ではビクトルもバーンの魔力を感じ取ったのかソワソワして上を見ている。
火竜のバーンが一人で害特封地を出てここまで飛んで来る事はあり得ない。という事はそういう事。リュータがバーンに乗って私を助けに来てくれたんだ!
やっぱりリュータは来てくれた。私を助けに、私を奪い返しに来てくれた。リュータがそうしてくれる事はわかっていたけど、それでも嬉しい。嬉しくて嬉しくて堪らない。私のリュータ。私の恋人。誰よりも強く、誰よりも私に優しく、きっと世界を敵に回しても私を守ってくれる男。
思わず口元に笑みを浮かべてしまう。猿轡を噛まされているから、きっと凄い顔になっているだろうけど。
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それでは次話もお楽しみに!




