第193話 エーリカ救出作戦②
俺の念話に応じて馳せ参じてくれた火竜のバーンは満峰山の上空を旋回すると、その巨体に似合わず駐車場へふわりと着地した。
「来てくれてありがとう、バーン」
"いいって事よ。エーリカを奪い返しに行くんだろう?力を貸すぜ"
「俺を乗せて東へ飛んで欲しい」
"そんな事はお安い御用だ。任せてくれ"
バーンは俺を背に乗せるため身を伏せてくれる。
"クソっ、我も行きたいがこの身は主神様の許可なく御山を離れられん"
御眷属様であるサブちゃん事、三郎丸が前脚で地を掻いて悔しがっている。
「サブちゃん、すまないがここのみんなを守ってくれ」
"おっ、おう!リュータよ、ここは我に任せて妖精の女子を見事奪い返すが良い"
俺の頼みにサブちゃんはまんざらでも無い様子を見せた。先日異世界から戻ってサブちゃんとはずっと一緒にいると約束したから、こうしたちょっとしたフォローが必要だ。
「タケ、必ず救い出して戻るからな」
「あぁ、こっちの心配はいらない。俺達に手を出したらどうなるか全世界に知らしめてやれ」
そこまで大事にする気は無いが、俺は後事を斉藤に託すとバーンの背中乗るべく身を翻し
「待って下さい!」
と、フレデリカに呼び止められた。
「リュータ教官、私も連れて行って下さい!」
「…」
どうすべきか。ここでくだくだしている時間的余裕は無い。
「私は千里眼でエーリカの居場所が見えます。必ず役に立ちます」
その真剣な眼差しからフレデリカが並々ならぬ覚悟でいるのがわかる。だがしかし、
「気持ちはありがたいが、ダメだ」
「どうしてですか?」
どうしてって、そりゃあ、
「拉致したエーリカをアメリカ軍に返せと言ったところで素直に返して寄越すはずがない。必ず戦闘になる。そうなればフレデリカは自分の祖国と戦うことになるぞ?」
フレデリカはアメリカ政府による魔法修得の委託研修のためこの満峰山に来ている。そんな彼女が俺のエーリカ奪還に協力したならばアメリカからしたら祖国への裏切り他ならない。そうなればフレデリカは裏切り者のお尋ね者で、文字通りエネミーオブアメリカになってしまう。
フレデリカのご両親はモンスターアタックで亡くなられたと聞いているが、カルフォルニアで警察官をしているお兄さんは健在だ。アメリカ政府がフレデリカを裏切り者として国際指名手配等したならば、彼女は唯一の肉親と会えなくなってしまう。
「構いません!エーリカは私の大切な友達であり仲間です。その彼女を拉致したのが自分の祖国だなんて許せません。祖国であるなら尚更に。エーリカを助ける事が祖国への裏切りだと言うのなら私は堂々と裏切り者の名を受けますし、お尋ね者にだってなります!」
「わかった。リッキー、それじゃぁ俺に手を貸してほしい。一緒にエーリカを助け出そう」
「はい!」
俺は先にバーンの背に乗るとフレデリカの手を取って力を込めて引っ張り上げる。するとその勢いでフレデリカは俺の腕の中に飛び込んで来る形となり、俺は彼女が落ちないよう抱き止めた。顔を上げたフレデリカと視線が合う。
「済まない、リッキー。君の事は生涯俺が必ず守るから」
「はい!今日からここが私の祖国でリュータ教官が私の居場所って事でいいですか?」
あまり考える余裕は無いが、よく考えたらフレデリカを抱き締めてプロポーズみたいな事言っちまったな。だけど後悔なんか無い。俺は彼女の想いに報いらなければならない。
「あぁ、勿論だ」
"お二人さん、そろそろいいかい?しっかり身を伏せて掴まっていろよ"
俺とフレデリカが背に乗ったと確認したのか、バーンはその両翼を大きく広げた。
「頼む、バーン」
"あいよ"
俺はフレデリカの肩を抱いてバーンの背中に身を伏せる。バーンは両翼を羽ばたかせると、その体内から大量の魔力を放出させると飛行魔法(多分重力制御なんだろ)を発動させた。
俺とフレデリカを乗せ、先ずはゆっくりと浮き上がるバーン。少し離れて俺達を見送るサキ達が手を振って送り出してくれている。
「リュータ、エーリカさんを取り戻して!」
「先輩!頑張って!」
「お兄ちゃん、リッキーもちゃんと守るのよ!」
俺が見送る彼女達に挙手の敬礼をすると同時にバーンは一気に垂直上昇し、上空へと飛び立った。
〜・〜・〜
飛行魔法で上空に至ったバーンは、そこで一路東へ向かって加速する。
12月の関東の空は快晴、視界は良い。しかし風圧が凄く、体感温度はどれくらいだろうか?真冬の上空の寒気と合成風が容赦無く体温を奪ってゆく。
俺はフレデリカが飛ばされないように彼女の上から覆い被さる。そしてフレデリカが低体温にならないよう魔力を熱に変換して彼女を覆った。
そして、バーンがどのくらいの速度を出したものか、間も無くして東京は多摩地区上空に差し掛かった。
「リッキー、横田基地がわかるか?」
「はい。バーンさん、このままもう少し東に飛んで下さい」
"了解だ"
それからフレデリカの言う通り東に少し飛ぶと、地上に一直線に延びる滑走路を確認。
「バーン、あのだだっ広い所に降ろしてくれ」
"了解だ。降りる前に地表をブレスで軽く炙っておこうか?"
「いや、エーリカまで焼けちまうよ」
"ハハハ、そりゃあ不味いな"
う〜ん、このシチュエーションでそのドラゴンジョークは笑えないな。
バーンは基地周辺の民家に危害が及ばないよう滑走路に垂直に着陸する。
「このままだと余計な連中が出張って来るから、俺達を降ろしたらバーンは山へ戻ってくれ」
火竜のバーンが害特封地から飛び出しただけでも本来なら大問題だ。まして多摩地区とは言えここは東京だからな。このままだと国防空軍の戦闘機も飛んで来るだろう。
まぁ政府が今後この事を問題にするようなら俺も黙っちゃいない。エーリカの拉致には間違いなく日本側にも手引きしたり協力している奴等がいるはずなのだ。そこを突いて俺達の行為を非常事態の緊急避難的行為と認めさせてやる。
"了解だ。ヒトの社会は何かと複雑そうだからな"
バーンは俺達を滑走路上に下ろすと再び上空へ飛び上がった。
"じゃあリュータ、俺は戻るけどその娘を守ってエーリカをしっかり奪い返すんだぞ"
「あぁ、勿論だ。ここまで本当に有難う、バーン」
バーンは基地全体を威嚇するように凄まじい咆哮を響かせると、基地上空を旋回して西に向かって飛び去って行った。
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それでは次話もお楽しみに!




