第191話 エーリカ、絶体絶命!
☆エーリカ 視点
実際にフランメル祭りの実行を進めているのはアースラ諸族連合と統治機構からなる実行委員会。私も実行委員会の一人として祭りの準備に追われている。
どうして私みたいな小娘が実行委員会に入っているのかと言えば、エルフの村以外でフランメル祭りについて携わっていた人達は殆どが魔王国軍との戦いで死んでしまっているから。
そうした訳でフランメル祭り大好きな私に害特封地内の各地に点在している森の民達の居住地を回ってお祭りについての指導をして欲しいと実行委員会から声がかかったのだ。
といって山々の中に点在している居住地を歩いて回るのは骨の折れる事。勿論出来ない事じゃないけど、歩いていたら時間もかかってしまうしね。
だからいつもリュータに自動車で一緒に来て貰ってる。そうしたら安全だし、時間もかからないし、私とリュータが一緒にいられる時間が増えるしでいい事ばっかりだ。
とはいえ、リュータにも彼の予定があるから毎回は出来ず、そんか時は誰かしら自動車が運転出来る人が手伝ってくれている。でも今日に限ってはみんな忙しくって移動の手段が無かった。
こうした時は先方に連絡して今日の予定を変更して貰うのだけど、意外な人が手伝いの声をかけてくれた。
「エーリカさん、良かったら運転しましょうか?私、今日は休暇なので」
国防陸軍からの魔法研修生である山本沙織少尉だ。
「沙織さん、いいんですか?」
「ええ、私も異世界のお祭りに興味あるんです」
「そうなんですか?ありがとう、沙織さん」
思いもかけず山本少尉が手伝ってくれる事になって助かった。今日行く予定の居住地を回れば、それで一応全ての居住地への指導が終わる事になるから。そうすれば、後はそれぞれの居住地に資材を運んで丸太を井桁に組めばフランメル祭りを待つばかりになる。
〜・〜・〜
満峰神社の駐車場に山本少尉が自動車を回してくれた。山本少尉がドアを開けて荷物の搬入を手伝ってくれていると、駐車場にリッキーと同じアメリカという国からの魔法研修生であるトッドさんが、何故か私の弟のビクトルを伴ってやって来た。
この2人、どうして一緒にいるのだろう?
「山本少尉、車を出すのかい?良かったら俺達も便乗させて貰えないかな?」
「私は構いませんが、エーリカさんはどうですか?」
「私も構いませんけど、」
私が言い淀んで2人を怪訝な目で見ても、トッドさんはビクトルを連れてこちらに近付いて来る。ビクトルはトッドさんと親しげにしていて、どうも前から知り合っている様に見える。
「ビクトル、トッドさんとはお知り合いなの?」
「そうだよ、姉様。トッドさんはいろいろと俺に力を貸してくれるんだ」
「力を貸してくれるって、どういう事?」
トッドさん達アメリカからの魔法研修生は満峰山に滞在していて、ビクトルも何だかんだと理由を付けてはサバール村からこの満峰山へ来ている。2人が接触する機会はあると言えばあるけど、シスコンのビクトルが外国人のトッドさんと仲良くなる理由がわからない。そもそもビクトルは私とユーリカに近付くくらいの年齢の男の人を随分と警戒しているはずなのに。それに力を貸して貰っているって、どういう事?
「それはね、こういう事だよ」
そう言うとトッドさんは懐から拳銃を取り出してビクトルの頭に突き付けた。
「!!」
私がビクトルを助けるためトッドに魔法で電撃を撃ち込もうとすると、私は背中に銃を突き付けられた。
「動かないで、エーリカさん」
山本少尉だ。その声には抑揚が無く、私に銃を突き付けているというのに感情を全く感じない。
「どういう事なの、沙織?」
山本少尉は私の問いに答えず、ただ銃を突き付けている。いくら私でもビクトルを人質に取っているトッドと私に銃を突き付ける山本少尉を同時に相手取る事は出来ない。リュータなら余裕かも知れないけど。
「くっ」
どうにもならない。周りに視線を走らせても誰もいない。
「状況は理解出来たようだな」
トッドは薄ら笑いを浮かべてせせら笑う。一瞬カッとなったけど、ここで煽られて激昂すれば敵の思う壺。こんな時こそ冷静になって、まずは相手の真意を確かめなきゃ。
「一体あなたは何がしたいの?ここで私に銃を突き付けたって、それ以上の事は出来ないでしょうに」
「残念ながら、そんな事無いんだな」
何を企んでいるのか、余裕を見せるその態度が癪に触る。
「沙織さん、あなたも何でこんな奴に協力してるの?」
山本少尉はやはり私の問いには答えない。まるでトッドの命令を聞くだけのゴーレムのよう。
「彼女に何を言っても無駄だ。俺の"魅了"にかかっているからな」
そう得意げに種明かしをするトッド。山本少尉はその"魅了"で操られているみたいだ。という事はビクトルも?その思ってビクトルを見ると、銃を突き付けられているのに何故かニヤニヤと笑っている。どうもビクトルはトッドに"魅了"をかけられていないみたい。
「ビクトル、どういう事なの?」
「ユーリカ姉様がいないのは残念だけど、この際エーリカ姉様だけでも構わない。姉様は僕とここを離れてトッドさんの国に行って一緒に暮らすのさ。トッドさんは僕の気持ちを理解してくれて、こうして力を貸してくれてるんだ」
以前、この世界に転移して来たばかりの時にこの国の一部勢力から私達姉妹とサキちゃん達獣人達の身柄引き渡しを要求された事かあった。それはリュータ達や火竜のバーン達が阻止してくれたけど、今度はトッド達の国がそれをしようとしているんだ。ビクトルにはそれがわからないのだろう。
「ビクトル、そいつの言う事を信じてはダメ。あなたはそいつに騙されてる。そいつは私達を拉致して自分の国に連れて行こうとしてる。連れて行かれたら実験の材料にされたりするんだよ?」
「そんな訳無い!トッドさんは僕と姉様が一緒に暮らせるって約束したんだ。それに騙されてるのは姉様達だろ!あんなヒト族の男に。エルフはエルフと一緒にいるべきなんだ。姉様は僕と一緒にいなければいけないんだ!」
おかしい。ビクトルは狂ってる。私達は家族で姉弟だというのに。ビクトルを今まではちょっとお姉ちゃん好きが昂じているなぁ、くらいにしか思ってなかったけど、今は凄く気持ちが悪い。何かビクトルの皮を被った別の気持ちが悪い生きものを見ているかのようだ。
「気持ち悪い!もうあなたの事を弟だなんて思わない。そんなに行きたければ一人でそいつと行きなさい。私達を巻き込まないで」
「姉様。そんな事を僕に言うのはあの男のせいだね。大丈夫だよ、トッドさんの国に行って一緒に暮らせばあんな男の事なんかすぐに忘れて元の優しい姉様に戻るようにしてあげるから」
ビクトル…、きっと私が何を言っても無駄だね。ビクトルの目は私を見ているようで私の事なんて見ていない。何か別の物を見ているよ。
"!"
不意に僅かだけど2つの知った気配を感じた。どうやら心強い味方が近くに潜んでるみたい。
「そろそろ迎えが来るんだ。姉弟喧嘩はそれくらいにしてくれ」
"エーリカ姉さん、一体どうしたんですか?"
"エーリカ姉ちゃん、そいつは敵か?"
トッドが得意げに喋っている間にラミッドとアミッドに念話で助けを求める。
"その男と私の弟がグルで私とユーリカを外国に連れ去ろうとしてるの。お願い、リュータに知らせて"
""わかった""
2人の内のどちらかがこの場を去って行く気配を感じた。これでこの事がリュータに伝わるはず。そうしたらリュータは必ず私を助けに来てくれる。そう思うと自然と心に余裕が生まれる。
と、僅かに空気を震わす振動と、空気を切り裂くような音が聞こえてきた。きっとこれがトッドの言うお迎えだろう。
「私を攫っても必ずリュータが助けに来てくれる。トッド、あなたとあなたの国はあのリュータを敵に回した。その意味はわかっているの?」
私がそう言うと、トッドは僅かに顔を顰めた。
「そのリュータが来る前にこの国からおさらばするさ」
「リュータは私がどこにいたって必ず助けに来る。例えこのままあなたの国に連れて行かれてもね」
「…そっから先は俺の領分じゃないんでね。俺の役割はお前達をこの山から連れ出すまでさ」
やがて振動と音は大きくなる。東の上空からは3機のヘリコプターが飛んで来て、それらは私達の上空に飛んだまま止まると徐々に高度を下げて来た。そして中から大きな銃を構えた鎧のような戦闘服を纏った兵達が何人も降りて来て私達を囲んだ。
「さて、お迎えだ。君達を我がステイツに招待するよ」
私は降りて来た外国兵達に銃を突き付けられて手錠をかけられた。更に喋れないように猿轡を咬まされると、駐車場に着陸したヘリコプターに追い立てられるように乗せられた。
「山本少尉、君の協力には感謝する。君は暫くここで眠るといい。目覚めたら全部忘れているよ。それでは良い朝を」
トッドが山本少尉にそう声をかけると、山本少尉は銃を構えたまま崩れるように地面に倒れ込み、そして動かなくなった。
(リュータ、こんな事になってごめんなさい。早く助けに来て)
ビクトルが自分も手錠をかけられた事をトッドに抗議して平手打ちされるのを見ても何も感じない。
私は浮かび上がるヘリコプターの中でリュータを思った。彼は必ず来てくれるから私に恐怖は無い。ただ無性にリュータに会いたくてしょうがなかった。
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




