第190話 陰謀の序曲
⭐︎ リュータ視点
3ヶ月に一度、害特封地内のアースラ諸族連合では議会に相当する評議会が行われている。場所は秩父盆地の荒川と国道沿いにある元中学校の校舎だ。
この中学校がアースラ諸族連合の評議会の議事堂や行政事務局に統治機構から割り当てられて活用されている。
余談だが、この元中学校。モンスターアタックが起きた当時は周辺住民達の避難所に指定され、数多くの住民達が避難して来ていた。
そこへ魔物の群れが襲いかかり、救出に向かった今西大尉(当時)率いる国防陸軍の特殊部隊がヘリボーンで急襲した時には殆どの避難民が魔物に食い殺されていたという。
その時に救出出来たのは体育館倉庫に大人達によって押し込められて守られていた10人程の子供達だけだったと今西大尉から聞いた事がある。
その後、その中学校は地域住民が消滅して児童の復帰も望めない事から廃校となった。そのため、言葉は悪いが"事故物件"という事もあって統治機構による再建の対象とはならず、長らく放置されていた。
そこへアースラ諸族連合が誕生し、その行政などの公務を執り行う"役所"が必要となり、廃屋同然となったその中学校の校舎が候補の一つとして統治機構から挙げられたのだ。
アルベルトさん達評議会の面々は、その中学校が荒川と国道に面する良い立地である事から「きれいに修理してくれるのなら何が起きた場所であっても気にしない」と条件付きでその中学校を借り受ける事に決めた。
統治機構側も利用する者も無く、かといって取り壊す余裕も無く荒れ放題で持て余していた建物を使ってくれるならと、あっという間に校舎は修繕され、現在はアースラ諸族連合の行政事務局と評議会議事堂として活用されている。
余談が長くなったが、先程俺と斉藤、真琴とアーニャの4人は元中学校の校庭の一角に建てられたモンスターアタックの慰霊碑に手を合わせてきた。
12月の秩父盆地は地球寒冷化の影響で肌を刺すような寒さだ。手袋を脱いで手を合わせている間もかじかむようだった。
真琴は「寒い寒い」と言って俺の右腕に抱き付く。寒さが苦手な猫獣人のアーニャは髪の色と同じ真っ赤なニット帽をすっぽり被り、白い襟巻きですっかり首元もガード。そして俺の右腕に抱き付く真琴を見て「…私も」と左腕に抱き付いた。
「全く、地球は寒冷化しているってのに、ここはやけに熱いな。先に行くぞ!」
呆れたように斉藤はそう言って歩き出す。
「おい、先行くなよ」
ここで俺は「全く、やれやれだぜ」なんてセリフは絶対言わない。鈍感系じゃないからな。この世界に戻って来る事が出来、こうして恋人達とくっついていられるのは何物にも代えられない幸せだと実感しているんだ。俺から彼女達を奪おうとする奴は誰であろうと必ずぶっ潰してやる。
〜・〜・〜
3ヶ月に一度開かれるアースラ諸族連合の評議会では、2ヶ月前にあったエルム大森林からの集団転移が一先ず落ち着いたので特に喫緊の議題は無かった。では何故俺達が呼ばれたかと言えば、評議会の面々から改めて俺達がエルム大森林で体験した事を聞きたいと要望がなされたからだった。
いや、ちゃんと報告書は統治機構にも評議会にも提出しているはずなんだが、書類を読むのと本人から直に聞くのでは全く違うと言われてしまえば反論し難い。それに、
「お前達の元気な姿が見たいんだよ」
なんてアルベルトさんに言われてしまえば断るなんて事は俺には出来なかった。アーニャの父親はいずれ俺の義父になる訳だからな。
このようにして俺と斉藤は評議会から招かれ、秩父盆地の評議会議事堂へと赴く事となった。そうするとアーニャが家族に会いたいからと同行を願い、更に真琴が国防陸軍の駐屯地に用事があるからと同行する事となったのだ。
サキと舞も一緒に行きたいとねだったが、現在、アースラ諸族の皆々はエルム大森林での冬至の祭りをこの地で復活させるため猫の手も借りたい程の大忙し。サキも舞も、フレデリカも雪枝もユリィもその手伝いをエーリカから強制的に割り当てられて抜け出せなかったようだった。
エルム大森林の民にとって夏至と冬至、特に冬至のお祭りは重要だそうで、特にエーリカはこの冬至祭りが大好きなのだそうだ。そのためエーリカは祭りの実行委員みたいな事でここ最近は忙しく、評議会行きに誘ってみたものの断られてしまっていた。
⭐︎ エーリカ視点
評議会に一緒に行かないかとリュータが誘ってくれた。リュータが誘ってくれてとても嬉しい。嬉しいんだけど、私は断腸の思いでそれを断った。ごめんね、リュータ。でも、でもね、こればっかりはは譲れないの。フランメル祭だけは譲れないのよ。
フランメル祭りとは、エルム大森林で行われる冬至のお祭り。森の民達にその年一年の恵みを与えてくださり、見守って下さった北の大精霊様と太陽神フラール様に感謝を捧げ、一晩中森の至る所で大きな炎を燃やして長く寒い夜を明るく照らして朝を待つ、そんなお祭りね。
お祭りの初めは日中に厳かな祈りの儀式だけが行われて本番は夕方から。予め井桁型に組んでおいた丸太に火が着けられ、日没と同時にエルム大森林各地で炎が燃え上がるの。
私は幼い頃、サバール村の一番高い木に登ってその光景を見て以来、この祭りの虜になった。暮れなずむ外輪山が夜空の藍色と日没の残光が作り出したコントラストで彩られ、真っ暗な森の各所からオレンジ色の巨大な火柱が燃え上がって周囲を照らし出す。その美しくも不思議な光景が私の心を掴んで離さない。
そして、その夜は炎を囲んで子供達は女衆が作ったご馳走やお菓子を食べ、大人達はお酒を飲んで踊り、歌い、遊んで朝を迎えるために夜明かしをするのだ。
まぁ、実際には殆どの者が疲れて或いは酔い潰れて眠ってしまい、朝を迎えられるのは儀式を取り仕切る長老達と炎に薪をくべつづける担当の者達だけとなるけど。
それ以降、私はフランメル祭りが大好き。毎年楽しみで、子供の頃はただお祭りを待つだけだったけど、成長するにつれお祭りの準備も積極的に手伝うようになった。
村の子供達の中には当然お祭りの準備を面倒がって嫌がる子もいたけど、私は別。だって、準備から参加すれば、その分だけお祭りの前からお祭りのワクワク感が長引いてお祭り気分が楽しめるじゃない?しかも自分が準備したお祭りはまた一味違うんだよね。
魔王国軍のエルム大森林侵攻や異世界への転移なんかでここ数年はお祭りは開催されなかったけど、今年からはこの異世界でお祭りを味わえる。そう思うと俄然やる気も出ようというもの。
それにさ、一生懸命に準備を頑張ったこの世界初のフランメル祭りをリュータと一緒に回って楽しみたいんだよね。だから折角誘ってくれたのにごめんね、リュータ。その分、しっかり準備しておくから期待して待っていてね。
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それでは次話もお楽しみに!




