第187話 舞台は再び始まりの地へ
漸く生まれ育った元の世界に戻って来る事が出来た。転移した場所は、なんとエーリカの出身であるサバール支族のサバール村がある広瀬湖畔。
幸いにもどちらの世界も時間の流れは一緒で俺達が異世界で過ごしたのは約3ヶ月、こちらの世界でも俺達が転移してから3ヶ月が過ぎていた。初夏だった季節も既に晩秋に近くなり、標高の高い害獣封地は気温が低く、朝晩は寒さを感じるほどだ。
異世界に転移して行方不明になっていた俺達が三千人以上の森の民と共に唐突に現れたため、サバール村のエルフ達も騒然としてしまっていた。
それは広瀬湖畔周辺を住処とする火竜のバーン一家も同じで、彼等は俺達と一緒にこっちの世界に来た水竜のリマールを同郷の同族として迎え入れた。バーンとゾフィ、その間に生まれたドラゴとリィズリィは一見歳の近そうな同じ竜族が現れたので「新しいお兄ちゃんが出来た」と大喜び。ちょっと前まで俺の事が大好きって言っていたのに。と、少し悔しく思ったのは、ここだけの話だ。
その時、サバール村にはたまたまなのか、エーリカの妹であるユーリカが来ていた。3か月振りに愛しのユーリカと再会を果たした斉藤は、いつものクールキャラをかなぐり捨ててユーリカと熱い抱擁を交わした。
そんな二人を見てエーリカは瞳に涙を浮かべ、俺はエーリカの肩を抱いて引き寄せ、抱き合う2人を見守った。
と、何やら剣呑な視線を感じたので気付かれないように視線の元を窺うと、エーリカとユーリカの弟であるビクトルが俺達4人を射殺さんばかりに睨んでいた。う〜ん、これはこれでまた一波乱あり気な感じですな。だが、今はそれに構っている余裕は無いので放置しよう。
〜・〜・〜
その後、俺達は元の世界への帰還を喜んだのも束の間、関係各所への連絡や報告に加えて異世界から一緒に転移して来た森の民達のケアなどもあって大忙しとなった。
やはり、この事態にすぐに動いたのはサバール村から連絡を受けたアースラ諸族連合で、次いで秩父に駐屯する国防陸軍の部隊。そのため広瀬湖畔にはあっという間に森の民達を収容して保護と検疫を行うテント村が出現し、早速炊き出しが行われるなど衣食住が彼等に提供された。
この世界に転移した直後、森の民達はやはりエルム大森林から似てはいるけど全く知らない異世界に来てしまった事態に不安を抱いていたようだった。しかし、サバール村にエルフがいた事と、アースラ諸族連合警備隊の先遣隊が現れて同族達がいた事に安心したのだろう。その後の国防陸軍による救護活動も混乱なく受け入れられた。
また、転移して来た森の民達の中には魔王国軍の侵攻と戦闘で生き別れていた警備隊の隊員の兄弟がいたとかで、思いがけぬ再会に皆が涙した出来事も森の民達の不安を和らげるのに役立ったのかもしれない。
〜・〜・〜
ここで問題となったのが、元魔王国軍に属していた黒狼族、そして北の大精霊による転移に巻き込まれたケンタウロスのキタサンブラ支族の扱いだった。
とは言え、前者の黒狼族についてはすぐに解決。何と言っても彼らは族長からして俺に忠誠を誓っているのであり、俺が身元保証人となったからだ。
問題は後者のケンタウロスはキタサンブラ支族。彼等の長ラーガイオーは魔王国軍の本隊が到着するまでの時間稼ぎのため俺と北の精霊樹の前で一騎討ちで戦い、本隊到着と共にあばよっ!って感じでその場を去った。で、彼等はその後の戦闘に巻き込まれず、そのままどっかに行っていればいいものを、どうもそう遠くない高台で高みの見物と洒落込んでいたらしい。そのため、大精霊による転移に巻き込まれてこっちの世界に一族まるっと来てしまった模様だ。
「おい、黒き鬣ラーガイオー。まさかあんた達までこっちへ来るとはな」
俺は警備隊と国防陸軍の部隊に包囲されているラーガイオーに声をかけた。
すると、ラーガイオーは俺に一瞥くれると、僅かにニヤリと笑い、とんでもない事を主張したのだ。
「我々ケンタウロスはキタサンブラ支族は魔王国の国民ではなく、魔王国よりも遥か西にあるケルファ高原に住う一族であり、魔王国軍には傭兵として雇われていたに過ぎない。我々を雇っていた魔王国軍エルム大森林派遣軍北の精霊樹守備隊は戦闘により全滅し、既に存在しない」
一体何を言い出すのか、俺は思わず傍の真琴と顔を見合わせる。
「よって雇用関係も消滅し、現在の我々は魔王国軍との関係は無く、自らの意に反して見知らぬ場所に移動させられた、謂わば難民である。我は一族の長として汝らに対し我々にエルム大森林の民と等しい待遇を要求する」
"真琴、どう思う?"
"戦時法として妥当だと思うわ"
真琴が念話で伝えたように、ラーガイオーの要求は実に真っ当なであるようだった。
要するに、キタサンブラ支族はラーガイオーが言った通り魔王国の国民ではなく、魔王国軍の正規軍でもない。魔王国軍のエルム大森林派遣軍北の精霊樹守備隊に金で雇われた傭兵隊であり、習慣法として傭兵は雇用主との雇用関係が契約終了した場合や雇用主が敗戦などにより死亡した場合、その雇用時の戦闘行為に関して罪に問われる事は無い(但し犯罪行為は除く)。
ならば、雇用主である魔王国軍のエルム大森林派遣軍北の精霊樹守備隊が戦闘によって全滅した以上、同守備隊とキタサンブラ支族との雇用関係は消滅したと言える。
であるならば、現在のキタサンブラ支族はラーガイオーの主張通り、魔王国軍とは関係無く、北の大精霊により意に沿わぬ場所への移動を強いられ遭難した難民である、という解釈だ。
「もしかして、ラーガイオーって頭いい、のか?」
見た目は某世紀末覇者みたいなゴツ顔筋肉ケンタウロスなのにな。
「竜太、わかってるとは思うけど、相手を見た目で判断しちゃだめよ?」
「それはわかっているが、これほどのギャップはあるだろうか?」
「いや、無い。って随分失礼でしょ!」
キタサンブラ支族を包囲する国防陸軍部隊もアースラ諸族連合警備隊の先遣隊もラーガイオーの主張を一考の余地有りとして、国防陸軍部隊の指揮官は秩父の本部へ連絡。その後、後日法務士官を派遣するとして、キタサンブラ支族の難民申請は仮承認された。但し、武装解除を条件として。
この武装解除という条件について、ラーガイオーは拒否するかと俺は思ったのだが、彼はあっさりとその条件を飲んだ。
「意外だな。俺はお前が武装解除には応じないかと思ったが」
「勿論武器を手放せというのは屈辱的で受け難いものがある。しかし、俺はここでは部族長だからな。部民を守るためなら何だってするさ」
俺の問い掛けにラーガイオーは自嘲的に呟いた。
「この道を真っ直ぐ行った盆地には魔王の第1王子が率いる魔王国軍異世界派遣軍が駐屯している。そっちに行くという選択肢もあるぞ?」
俺は粛々と武器を手放すケンタウロス達を見ながら更にラーガイオーに尋ねた。
「俺達は魔族でもなければ、そっちの狼のように魔王国に身を寄せていた訳でもないからな。金を貰ってもいないに誰が好き好んであんな連中の元になんか行くか。それに魔王よりもお前と連んでいた方がこの先面白そうだからな」
真琴はさりげなく俺に身を寄せると「これは竜太に後はどうにかしてくれって事よ?多分だけど」とが囁いた。
「そうか。まぁ、こうなったのも何かの縁だ。宜しく頼むよ」
俺が差し出した右手をラーガイオーは無言で上から握り返す。
まぁ、上からなのは奴がケンタウロスだからしょうがないし、態々前脚を屈して貰うまでも無い。だが、黒狼族のギュンターは先程「そっちの狼」と言われた事もあり、それが面白くないらしい。可愛い顔に似合わない剣呑な表情でラーガイオーを見ていた。
ギュンターの視線に気付いたラーガイオーは、ふんっと鼻を鳴らして小馬鹿にしたような笑いを浮かべた。そのためギュンターとラーガイオーは睨み合って対峙、俺が仲裁に入らなければならなくなった。
「随分と気に入られたわね」
仲間(?)が増えるのはいい事だ。だが、折角元の世界に戻って来れたのに、新たな頭痛の種も増えたような?
揶揄うような真琴の言葉に俺は思わず天を仰いで頭を掻いた。
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それでは次話もお楽しみに!




