第182話 以心伝心
エーリカ:みんな、どうも久しぶり。エーリカです。更新、遅くなって本当に申し訳ありません。作者の奴に発破かけておきますね。それでは久々に『魔法修行者の救国戦記』スタートです!
世紀末覇者、いや、魔王国軍ケンタウロス騎兵隊の部隊長は威圧感もたっぷりに上から目線でそう言って俺を見下した。馬体の上に人の上半身があるのだから物理的にも上から目線ではある訳だが。
「魔王国軍との交戦が目的ではない。北の精霊樹に呼び出されている都合上、俺達はあの樹の元まで行かなければならない。道を開けるのならばこちらも君達を攻撃しない」
世紀末はし、ケンタウロスの部隊長は小馬鹿にしたたようにこう返した。
「そっちの都合など知らぬ!どんな事情があろうが敵対している者をはいそうですかと通す馬鹿がどこにいようか!」
お説ごもっとも。宜しい、ならば戦争
「だが、それではつまらん。どうだ、リーダーである貴殿と俺で一騎打ちをせんか?貴殿が俺に勝てたなら俺達はここを退こう。俺が貴殿に勝ったならば貴殿らは直ちに森へ引き返す、それでどうだ?」
俺とケンタウロスの部隊長との一騎打ち。だが、あの部隊長は俺が勝っても精霊樹までの道を開けるとは言っていない。飽くまで「自分達が退く」だ。あまり分の良い賭けではない。
「どうした?臆したのか?異世界からの勇者とやらも大した事ないな。ワッハッハッ」
ケンタウロスの部隊長はすぐに返事をしない俺を煽り、奴の背後に控える部下のケンタウロス達もイッヒッヒ、プーックスクスといかにも馬鹿にしたような笑いを漏らして俺を煽った。
「リュータ、あんな煽りに乗せられる事は無いわよ。魔法攻撃で一気に殲滅する?」
エーリカが耳元で囁いた。全くエーリカの言う通りなのだが、ケンタウロス達の言動には腑に落ちない箇所があった。
あのケンタウロスの部隊長も馬鹿ではないだろうから、互いの実力差を見誤っている事おそらくは無い。
北の精霊樹を占拠し、その守備に就いているのは魔王国軍だ。そして、その主力は鬼族の歩兵部隊で、俺達の接近は既にワイバーンの竜騎兵によって発見され、報告されている。それによって真っ先に駆け付けたケンタウロスの騎兵隊が俺達の行手を遮っている。
しかし、駆け付けて来たはいいが、ケンタウロスの部隊長は俺達をまともにやり合ったら自分達が瞬殺される相手と即座に見抜いたのだろう。そして、ここで玉砕するよりも機動力で劣る歩兵部隊が到着するまで時間を稼ぐ事にした、と。
この一騎討ちの裏はこんなところではないだろうか?この世紀末覇者風なケンタウロスの部隊長。脳筋な見た目と異なり案外な知将なんじゃないかな。まぁ、だからといって俺がそれに乗ってやる義理は無いのだが、ここは俺にも考えがあるので、敢えて乗ってみる事にした。
「いいだろう。その一騎討ち、受けて立とう!」
「「「ええっ⁉︎」」」
俺の背後から驚きの声が上がり、「決闘好きだな、おい」という突っ込みの声も聞こえた(多分斉藤)。魔法攻撃でさっさと敵を殲滅して戦闘を早く終わらせると言ったのは俺だからな。その真逆な行動を取ろうというのだから、そんな声が上がるのも無理は無い。
"言いたい事はわかる。だが俺に考えがあるから、ここは任せてくれ"
俺は声には出さず、念話で仲間達にそう伝えた。
仲間達の不承不承といったオーラを背後から感じつつも異論は出なかった。俺は一騎討ちに応じるべく一歩、ずいっと前に出る。
「漸くその気になったか、いい度胸だ。ではその前に互いに名乗りを上げるとしよう。アースラ大陸ケルファ高原に覇を唱えしケンタウロスはキタサンブラ氏族の族長が息子、黒き鬣のラーガイオーとは俺の事。これにて尋常に勝負を着けん!」
キタサンブラって… キタサンブラッ、エヘンエヘン。
よし、次は俺か。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。ここより遥か異世界は、東の海に日出る、大日本は武蔵の国、川越の地に生を受けたるこの俺は、幾柱の神々より加護賜わいし、姓は土方、名は竜太。いざ、尋常に勝負!」
「…何その名乗りは?」
「あれ、絶対前から考えてたよね?」
アーニャと雪枝の声で何か色々聞こえて来たけど気にしない。ええ、前から考えてましたけど、何か?
俺の背後にはエーリカ達がいつでも魔法で攻撃できるよう待機している。ラーガイオーの背後にも奴の部下達が弓や槍を手に控えている。
「参る!」
ラーガイオーは重厚なハルバードを構えると、大地を蹴って突進。そして、風を切り裂く音と共に凄まじい横薙ぎの紫電一閃が俺を襲った。俺はバックステップでこれを躱すと、馬体上の高い位置からの突きの連打に狙われた。
重厚なハルバードを易々と操る技術に剛腕、人馬一体たる巨大な体格に重量、高い位置からの攻撃、体格の割に素早く小回りの効く機動力、そしてその身体を動かす脅威のスタミナ。長物を持ったケンタウロスがこうも攻めがたいものかと驚かされる。
自分より大きな魔物と戦った事は幾度となくあったが、秩父のキャンプ場で初めてゴブリンキングと戦って以来遅れを取った事は無い。俺は今までそうした魔物を風魔法で愛刀雷丸で斬り刻み、雷で炎で焼き尽くし、エネルギー変換魔法で凍らせ、上空から降下する加速と質量と魔力を込めたキックで爆砕してきた。そのどれもがこのケンタウロスのラーガイオーには通じ難い。
これはどういった事かといえば、ラーガイオーが常に接近して俺に間合いを取らせず、連続した攻撃で構えを取らさない戦いをしているという事。おそらくは距離を取られると魔法を使われると判断したのだろう。
なので、この一騎打ちに俺が負ける事はあり得ないが、自分の戦い方が出来ないやり難いものとなっている。俺は雷丸を構えるも、打突はラーガイオーのハルバードで防がれて届かず。脇や背後に回り込もうにも即座に正対されて奴の構えを崩せない。
無論、こうした戦い方を長く続ける事は難しい。いずれは距離を開けられて強力な魔法攻撃を受ける事は必定と言える。だが、俺の足止めをして時間を稼ぐという目的のためなら実に有効だ。しかも傍目には俺を圧倒しているように見えるしな。
とは言え、俺もラーガイオーを殺す事を目的としている訳ではないからそれでも構わない。決して手を抜いている訳ではないが、加減は難しい。
〜・〜・〜
この一騎打ちが始まってどれくらいの時間が経過したものか。俺はラーガイオーからの重いハルバードの一撃を捌くと、流石にやや動きが鈍くなってきたラーガイオーから隙をついて後方に加速して距離を開けた。
「なかなかやるではないか、ヒジカタとやら」
「ラーガイオーとやらも実に強いな」
「ヒジカタとやら」と言われた意趣返しで俺も「とやら」を使ってやった。そうし俺の意図がわかったのかラーガイオーは微苦笑する。
「どうやら勝負はお預けのようだな」
「いや、あんたとはやり辛くって敵わん。出来ればそんな機会は無い方がいいな」
「そうつれない事を言うな。中々たのしかったぞ?だが本命が来たようだから我等は兵を引くとしよう」
「わかってるよ、出来れば遠く離れていてくれ」
「心得た」
そう言うとラーガイオーはケンタウロスの騎兵隊を率いて引き上げて行った。
ラーガイオーが俺との一騎打ちを図ったのは、奴が彼我の戦闘力を鑑みて自分達に被害が出ないよう鬼族の歩兵部隊が至るまでの時間を稼ぐため。要は危険を歩兵部隊に任せて自分達はさっさと抜けるためだ。
そして俺が一騎打ちを受けたのは、それによって魔王国軍守備隊の主力である鬼族の歩兵部隊を北の精霊樹の元から誘出するため。
お互いの目的と利害が一致し、俺はラーガイオーの誘いに乗って一騎打ちという一芝居を打ったという訳だった。
ケンタウロス達が去ったその後方から槍と盾を構えた完全武装の鬼族歩兵部隊姿を現した。そして俺達と対峙すべく陣形を組みつつあった。
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それでは次話もお楽しみに!




