第181話 神の見えざる手
別に俺は誰を突き放したつもりも無かったのだ。しかし、蓋を開けてみれば、結局みんな俺に着いて来るのだと言う。そうであるなら俺はそれで構わない。しかし、だったらあんなに悩んだのは何だったんだよ、と一人遠い目になり過ぎ去りし日に思いを馳せたのもまた事実。
「良かったですね、リュータ。みんな一緒に来る事になって。これもリュータの人徳ですね?」
「そうかな?」
「そうですよ」
さり気なく腕を絡めてきたサキに上目使いでそう言われては頷くしかない。でも、人徳なんていうものが俺にあるとは思えないけどな。
〜・〜・〜
こうして俺は再び北の大精霊のお告げのように森の民を率いて北の精霊樹の元へ向かう事となった。なんとなく釈然としない物が胸に残った感じで、思わずグレンダ女王に視線を向ける。すると俺の視線に気付いたグレンダ女王と目が合ってしまった訳だが、女王はそれに対して悪戯っぽい微笑みを浮かべたもんだ。だが、それは「ニコッ」ではなく、どちらかと言えば「ニヤリ」寄りの「ニコッ」で。
(まじかよ…)
「なぁ真琴」
「どうかした?竜太」
俺は胸に残る釈然としない感じと、今さっきグレンダ女王に感じた僅かな違和感について共有すべく、真琴に思うところを聞いて貰う事にした。
「俺達、どうも一杯食わされたかもだな」
「えぇ?どういう事?」
「何と言えばいいんだろうかな。結局俺達は北の大精霊とグレンダ女王に手の平の上で踊らされていた、というかさ」
「ん〜、竜太がそうやって溜め込まないで話してくれるようになったのは喜ばしいんだけど、流石にそれだけじゃわからないから順序立てて説明して欲しいかな?」
まぁ、そうだよな。俺は自分の考えをまとめながら真琴に順序立てて話し始める。
グレンダ女王が俺達に告げた北の大精霊のお告げには一切の嘘も誇張も無く、俺達はお告げ通りに森の民を率いて北の精霊樹の元まで来た。だが、そこには解釈の幅がある。
「そうね」
しかし、俺達は俺達の解釈の「北の精霊樹の元」までしか来なかった。だから俺達は北の大精霊が本当だったら来て欲しかった「北の精霊樹の元」までは来ていなかったのかもしれない。
「そうかもしれないかもね。でも新たに合流した部族のエルフやドワーフ達は私達を今一つ信用してないようだし、「北の精霊樹の元」には強力な魔王国軍の守備隊が待ち構えているから実際問題として行くのは難しいけどね」
だが、"元の世界に戻る事が出来る"という餌がそこにある限り、俺達は北の精霊樹の元へ行かざるを得ない。
「だから俺達だけが行くんじゃダメらしい」
「それは「森の民を率いて」いないからって事?北の大精霊にとっては森の民が「北の精霊樹の元」に来なければいけないって事になるのかしら?」
「そう。北の大精霊が用があるのは俺達じゃなくて森の民。俺達は生き残った森の民を集めて引き寄せるために必要だっただけで、飽くまでついでというか、出汁にされたというか、そんな感じなんじゃないかと思ったんだ」」
「なによ、それ。そうだとしたら他人を馬鹿にした話ね!」
まぁ、飽くまでも仮定の話なんだが。だが、腹立たしくはある。そこに元の世界に戻るための鍵がなければ魔王国軍共々焼き払ってしまいたくなる程に。
「俺達が北の大精霊の望まぬ行動を取りつつあったから修正がかかったようだな。あの後、グレンダ女王がエルフやドワーフに何かしら説得や工作なんかをしたのだろうか?」
「そういう事をしなくても、ただ口に出した言葉だけで周りを動かせるところが女王様なのよ」
「そんなもんかね」
そして、俺も動かされた一人という訳なのだな。
知らず知らずの内に再び俺達の行動は大精霊の意に沿った行動を取る事となった。これが神の見えざる手という奴だろうか?
「それで竜太は踊らされたのが気に入らない?」
真琴も悪戯っぽくニヤニヤ微笑みながら俺の顔を覗き込む。そんな真琴の顔を見ていると、男なんて所詮は女の手の平の上で転がされたり、踊らされたり、そんなものなのなのだと思う。
「気に入るか、入らないかと問われれば、勿論気に入らないさ。ただ、そこに悪意は無いだろうからな。それにここまで来たらもうやるしかないだろ」
そうしている内に有志連合や各部族から出陣の準備が整ったと次々に報告が上がって来た。
〜・〜・〜
俺達、っていうか再統合した集団だから我々と言った方が良いだろうか。我々の人数は3千人程だ。
これは数で言えば魔王国軍守備隊の1/3程となる訳だが、老若男女含めての3千人だ。老人や女子供は守るべき対象であって、戦わせるなんてとんでも無い。勿論、戦兎族の女戦士は例外であり、他にも戦闘職にある女性達には戦列に参加して貰うが。
有志連合軍や各部族から抽出された戦闘員は千人程。それでもサラクーダ市を攻めた時よりも戦力は増えている。陣容はやはり歩兵が中心となり、弓や魔法で援護する。しかし、10倍以上の戦力を有する魔王国軍守備隊に対しては戦艦ビスマルクにフレッチャー級駆逐艦でぶつかるようなもので、下手すれば鎧袖一触で粉砕されかねない。
そうした戦力差なのだから俺は遠慮なく強威力魔法攻撃を連発して、さっさとこの戦いを終わらせるつもりだ。
もうここまで来たら誰一人欠ける事無く元の世界に皆で帰るんだ。
〜・〜・〜
「とは言っても、まさか問答無用でドーン!って訳では無いんですよね?先輩」
非戦闘員達を野営地に残して前進した先で舞が心配そうにそう尋ねた。
「流石にいきなりは無いよ。示威行動で降伏勧告くらいはするつもりだ」
「でもそれだけで魔王国軍は降伏しますかね?」
「しないだろうな。けどやらないよりはいいだろ?」
「そうですね。形って大事ですよね」
「そういう事だ」
舞はいきなり俺が敵の頭上に炎や雷を雨霰と落とすものと思っていたようだ。
「いやぁ、今回の先輩はいかにもやりそうでしたから。えへへ」
笑って誤魔化す舞が可愛いからいいのだが。
〜・〜・〜
部隊を前進させて森を出ると、早速上空を旋回するワイバーンに乗った竜騎兵に発見され、問答無用の空襲を受ける。
ワイバーンの口から吐かれる火球は俺から見たらそう威力があるものではない。俺が上空に展張する電磁バリアーで火球を弾きつつ、エーリカとフレデリカが放つ光の矢で迎撃。早々にこれを撃退した。こちらに被害は無し。
更に前進させて北の精霊樹を中心とする平原に出る。俺達の接近を竜騎兵からの報告があったのか、機動力のあるケンタウロスの騎兵隊が土煙を上げてこちらに向かって来ていた。
俺は麾下の全員に行軍を停止させると、騎兵隊の長と対峙する。
「貴公が誰だかは知らぬ。だが、これより先は今のところ魔王国軍の治める地故、早々に立ち去るが良い。さすれば追撃はせぬ」
騎兵隊の長たるケンタウロスは漆黒の馬体に筋肉で張ち切れそうな堂々たる体躯の上半身。革鎧を纏い、腰に巻いたベルトに長剣を佩き、長槍を手にしている。
俺がその顔を僅かに見上げるとその額に角は無く、頭には鼻当てと頰当てと両側に一対の水牛のような角がある兜を被っている。
眼光鋭いその厳しい顔と相まって、その姿はあたかも、
「せ、世紀末覇者、だと?」
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




