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第180話 沈黙の精霊樹

北の精霊樹は魔王国にとってどのような意味を持つのだろうか?奴等は占領した北の精霊樹を守るために師団相当の守備隊を配備していたのだ。


その戦力たるや、鬼族の歩兵、弓兵を基幹とし、ミノタウロスの重装歩兵にケンタウロスの騎兵隊、ガミラーゼ族を中心とした魔法部隊、そしてワイバーンの竜騎兵。打撃力こそ少ないものの、機動力に航空兵力まで網羅した複数の兵科に渡る?り、守備に徹するならば使い勝手の良い万能兵団と言って良いだろう。


恐らく同様の戦力が西や南の精霊樹にも同様の戦力が配備されているはずだ。世界中の国々に戦争ふっかけている魔王国にしてみたら、これ程の戦力を精霊樹守備のためだけにエルム大森林貼り付けておかなくてはならないのは、かなりの遊兵を出す事となる。精霊樹にはそれ程の価値があるという事なのだろう。


だが、今しがた俺達はその北の精霊樹を守る大兵力を壊滅させたところだ。そして今、俺は聳え立つ北の精霊樹を前にして佇んでいる。


水竜レマールの降らせた雨がまだあちこちで燃えている火の手に降り注ぎ、燃え崩れて倒壊した建物や地面から白い煙と蒸気を上げていた。


更に辺りを見渡せば、幾千もの魔族兵達の骸が累々と重なり、地獄巡りの絵巻にでもありそうな光景を創り出している。


「リュータ教官、魔王国軍の残敵掃討は終わりました。敵の生き残りは逃亡したようで、北の精霊樹周辺に敵影は見えません」


フレデリカが千里眼で索敵した結果を教えてくれた。


「有難う、リッキー。まだ危険があるかもしれないからこのまま離れず、一緒に居てくれ」


「はい!…そうします」


フレデリカは嬉しそうに返事をすると、俺の腕にそっと自分の腕を絡めた。


〜・〜・〜


自分達の意思を確認した後、俺は緊急の話し合いがあるとして有志連合や各部族の長に集まって貰った。斉藤の助言を受け、俺はそこで彼等に向こうの世界から転移して来た仲間達と北の精霊樹に向かう旨を告げた。


この衝撃は強かったようで、忽ち集まりの場は騒然としたものとなった。「はい、ここで解散です。皆さん、後はご勝手に」と言ったようなものだからな。


すると、ダークエルフはアヴリル氏族のカチュアさんが早速噛み付いて来た。


「おい、神使様よぉ、それはアタシ達を見捨てるって事かよ?」


ダークエルフだけに言動が黒ギャルっぽい。だがそれがいいという貴兄も居ようが、俺はちょっと。などと考えていると、斉藤がその辺りの説明を淡々と進める。その様は正に激流を制するは静水…


「先程も説明した通り、北の大精霊のお告げは生き残った森の民を率いて北の精霊樹にまで来た事で終わっている。大精霊はその後の事については全く言及していない。ここから先をどう動くかは各自の自由だ」


「要するに神使様方には我々の面倒を見る義務は無いと仰るのですかな?」


ドワーフの頭領ワルターさんがこめかみをヒクヒクさせながら尋ねると、斉藤が反論する。


「元から私達にそのような義務など無い」


「しかし、我々は神使様の命令でサラクーダ市を攻めて戦いました!」


アンドリューが斉藤にそう主張すると、有志連合サイドからはうんうんと頷く様子が見える。


「それは"森の民を率いて"というお告げの範囲内だからだ。サラクーダ市の市民も難民達も"森の民"であり、彼等が魔王国軍に囚われているのならば"森の民"を"率い"なければならない以上、彼等を魔王国軍から解放しなければならない。その必要上、私達、有志連合軍、戦兎族の3者が目的のため手を結んだのが神聖パレンナ同盟だ」


斉藤はここで一旦口を閉じると、ジロリと一同を睨め回した。


「3者の合意の元で皆が神使と呼ぶこのヒジカタが盟主に担ぎ上げられたに過ぎない。こうした経緯を忘れてはならない」


正に誰もぐぅの音も出せない程の正論にアンドリューは黙って引き下がり、有志連合の幹部達も下を向いてしまった。斉藤と口喧嘩して今まで勝てた奴はいないからなぁ。


と、そこで森エルフはシルヴァ氏族のエルンスト族長から投げかけられた問いでこの遣り取りは意外な方向へ進む事となった。


「我々は戦兎族のグレンダ様から北の大精霊のお告げを知らされ、それに基づいて行動してきました。グレンダ様はこの後の事については如何様にお考えか?」


エルンスト族長の問いに皆の視線がグレンダ女王に集まった。しかし、グレンダ女王は全く動じない。


「私が北の大精霊様からお告げを受けたのは事実であり、皆様にお伝えしたその内容にも一切の嘘や偽りもございません。私は飽くまでお告げを受け、そして皆様に関してはそれを伝えるのみの役割。そこには誰にも何にも無理強いするものはありません。きっと大精霊様には大精霊様の御心がお有りなのでしょう。」


訳) 私はみんなにはお告げを伝えただけで誰にも強制なんてしてませんよ?大精霊様には何か考えがあるんでしょ?


グレンダ女王のこうした発言に皆う〜んと考え込んでしまっている。確かにそうだ。グレンダ女王は大精霊からお告げを受けて「こういうお告げがありましたから異世界からの神使を迎えに行って来ますね」と周りの部族に通知しただけなのだから。そしてその通知を元に各部族が独自に、或いは連携してグレンダ女王が神使を連れ帰るのを待った。客観的に見てそこにはグレンダ女王が何かしら示唆したとか、強制した事実は無く、連れ帰った神使が自分達に何がしてくれるなどとも言っていなかった。


しかし、大精霊が森の民を率いてここまで来いとしたのは事実。ならばグレンダ女王が言うように大精霊には何か思惑があるのだろうと推測する事が出来る。


という訳で、議論は煮詰まり、これ以上は堂々巡りでその中から答えは出ないだろう。


「要するに、北の大精霊は自分の近くに俺達や森の民を集めたかったのだろう。そして、今実際にお告げの通り生き残った森の民が集結している。それからどうしろこうしろという新たなお告げが無い以上、これからは自分達で主体的に動かなければ答えは出ない。なので俺達はその答えを求めて直接北の大精霊の元へ行く。俺達と一緒に行くも自由、残るも自由だ。すぐに考えを纏めろとは言わない。それぞれ持ち帰って十分に話し合うといい。明朝、俺達は行動を起こす。それまでに決めろ」


俺は少し強めの口調で敢えて威圧的にそう言ってこの集まりを締めた。話し合いに参加した有志連合幹部や部族長達は、ある者は腕を組んで考え込み、ある者は別の者と話し合い、またある者は俺の様子を窺いながらこの場を後にして行った。


「さ〜て、みんなどうするかしらね?」


傍のエーリカが悪戯な眼差しで彼等を見ながら呟いた。


「さぁな。好きにすればいいさ。俺達は俺達のやるべき事をやるだけだからな」


「そうね。これで向こうの世界に戻れるといいね?」 


「ああ。だけど、ここはエーリカの故郷だろ?本当にいいのか?エーリカが残りたいのなら俺も残るぞ?」


「有難う、リュータ。そう言ってくれてとても嬉しいけど、私のいるべき場所はあなたの傍よ」


「…エーリカ」

「…リュータ」


俺とエーリカはしばし見つめ合い、とてもいう雰囲気になったのだが、それ以上の事をする事はなかった。何故なら、


「リュータ様、我ら黒狼族はリュータ様に忠誠を捧げ、何処までもお供させて頂きます」


「リュータ殿、我ら戦兎族もリュータ殿と共に参りましょうぞ」


立て続けに黒狼族の族長ギュンターと戦兎族のグレンダ女王の訪いがあり、両者から北の精霊樹への同行を申入れられたからだった。

ギュンターからは同行以上の申し入れだったが。


〜・〜・〜


結局、明朝を待たずして有志連合を始め、全ての部族から俺達と共に北の精霊樹へ行く事に決めたとの申し入れがあった。


再び一つに纏まったこの集団だったが、明る朝にそれぞれ戦闘員を抽出して北の精霊樹へ向けて進軍を開始したのだった。

いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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