第179話 一族の掟
占いやお告げといった物にそもそも明確な表現は使われない。それは敢えてそうしているのか、どうなのか。しかし、だからこそそこには解釈が物が入り込む余地が存在し得る訳で。自分に都合良く解釈して悦に入る人がいれば、いやいやそれじゃダメでしょと慎重さを求める人もいるでしょう。
占ったらこんなのが出た、夢に見た、お告げがあった等々、それらの解釈を人は占い師、神主さん、僧侶、陰陽師といったその道の専門家に頼み、神仏からのメッセージをより正確に把握しようと古来から努めて来た。今昔物語集や宇治拾遺物語なんかにもそんな話があるよね。
今日、斉藤はそうした古来からの習わしに則って(?)グレンダ女王が受けた北の大精霊からのお告げに対し、俺達はお告げのミッション達成をしたと解釈した。
俺は真琴が集めてくれた仲間達にこの解釈と元の世界に戻るべく行動する旨を説明した。まぁ、説明したのは斉藤だが。元の世界、日本やアメリカ出身者達は元の世界に戻る事に異議は唱えなかった。問題は仲間内で元々この世界の出身であった者達の希望だ。中には故郷であるこの世界に残りたいと願う者がいるかもしれない、と思ったのだが…
「リュータ、何でそんな事を態々私達に訊くの?私達はリュータの婚約者なの。私達の居場所は常にリュータの傍らなんだから。ね?みんな?」
「勿論です!」
「…当然」
エーリカの言葉に力強く賛同するサキとアーニャ。勿論、俺だって一緒に来てくれると思っていたさ。
だけど、ユリィはどうだろうか?エーリカ達はこっちの世界出身とはいえ、家族や部族が向こうの世界に転移している。だが、ユリィには戦兎族という母体があり、仕える主君がいる。そこで俺がユリィに婚約者だからと一緒に向こうの世界へ行くよう迫ればユリィは俺とグレンダ女王の間で板挟みになってしまわないだろうか?しかも、ユリィはあの北の精霊樹の守り手を自認する戦闘民族である戦兎族だ。何かしら厳しい掟とかあるんじゃないだろうか?
「もちろんリュータと一緒に行くわよ?」
「え?一族の掟とか、そういうのは大丈夫なのか?」
俺がそう訊くとユリィは一瞬呆けた表情をするとぷっと吹き出した。だけじゃなくエーリカ、アーニャも笑い出す。
「何よ、その一族の掟って?そんなのある訳無いじゃないw」
いや、エーリカ、そんな風に言わなくったって…
俺がショックを受けていると、ユリィが説明してくれた。
「エルム大森林は、この世界の中で中立が認められてどの国も不可侵としているでしょ?だから大森林内の民は互いに争う事も少ないから、どの部族も婚姻に関しては比較的自由にしてるの」
「そう。エルム大森林には君主による苛政も過度な収奪も無い。食糧も豊富で部族間の争いも少ないから厳しい掟で共同体を縛る必要が無い」
ユリィの言葉を次いで続けたアーニャの説明に納得する。
「だが、そうは言っても戦兎族は少々特殊だろ?他の部族や街よりも縛りがキツそうに思えるが」
戦兎族は北の精霊樹の守り手を自認する女王の元、鉄の掟でまとまった戦闘民族というイメージだ。抜け出す者は許さない!少なくとも俺の中で、ではあるが。
「リュータ、何か変な事を考えてそうだけど、そんな事無いから。結婚だって女王様に許しを頂ければ問題無いよ。って言うか、戦兎族の女は結婚とかの前に子供出来てるのが専らだけどね」
うん、どうも大丈夫らしい。そうなんだ、戦兎族は子供が先に出来ちゃうんだ。
〜・〜・〜
やはり、元の世界からの転移者からは何ら異議は出なかった。これから俺達は森の民とは別れて元の世界に戻るべく北の精霊樹の元へ行く。
ガーライル達狼獣人(舞狼奴)、アーニャお付き猫獣人達(CO2ニャルコーシス)、虎獣人双子のラミッドとアミッド、ラミッドと恋仲猫獣人ミア、斉藤の弟子狐獣人アックス。彼等も例外無く一緒に向こうの世界へ行く事を望んだ。
と、ここで焦りを見せる男が若干一名存在した。その男の名は武田泰信と言い、国防陸軍少尉の階級を有する若き軍人だ。彼にはこの世界で出会い、戦いの中で相思相愛となった恋人がいる。彼の恋人は誰あろう戦兎族の女戦士ケリィ、その人である。
さぁ、この事態に武田泰信少尉はどう出るのか?ユリィは俺の婚約者としてグレンダ女王の許しを得て俺と一緒に向こうの世界に行くと言う。武田少尉とケリィは恋人同士になったとなっているとはいえ、まだ婚約までには至っていない。このままではどっち付かず。武田少尉はケリィをどうするのか?
「ケ、ケリィ!」
どうも武田少尉の腹は決まったようだ。
俺達の話し合いにユリィと共に呼ばれて来ていたケリィ。俺達と森の民が袂を分つかもしれない中、彼女の相棒のユリィが俺と一緒に向こうの世界へ行く道を選んだ。ケリィはそうした経緯をずっと黙って見続けていた。
武田少尉はケリィの名を呼ぶと、彼女が座る椅子の前へと歩み進む。そしてケリィの手を取って立ち上がらせると、そのままケリィの両手を包み込むように握り、心持ち引き寄せた。
「ケリィ、女王陛下には必ずお許しを頂くから俺と一緒に来て欲しい。君の事を誰よりも愛している。どうか俺と結婚して下さい」
突然目の前で始まった求婚劇に一同固唾を飲む。
ゴクリ。
僅かに俯いたケリィからはその表情は窺えない。やがてケリィは武田少尉に両手を握られたまま彼の顔を見上げると、徐にその形の良い唇を開いた。
「うん、どこへでもヤスに着いて行くよ。ヤス、私もあなたを誰よりも愛してる」
くしゃっと表情を崩した武田少尉がケリィを抱きしめると、ケリィも武田少尉の背中に両手を回し、二人は強く抱きしめ合う。
この瞬間、向こう世界出身者の頭の中には「エンダァァァ〜♪」というホイットニー・ヒューストンの美しい歌声が聞こえた事だろう。かく言う俺もその一人だから。だが、次の瞬間にはそこにいた全ての者達からの祝福の歓声と口笛によって頭の中まで埋め尽くされてしまっていた。
キャー!おめでとう。少尉、良く言った!おめでとうケリィ!ヒューヒューやったな、おい!少尉、ケリィを泣かすなよ?良かったね、ケリィ、等々。
真っ赤になって恥ずかしがる武田少尉は笑顔の大沢軍曹やオスカーに肩を叩かれたりベッドロックされたりとお約束にいたぶられている。それとは対称的に、満面の笑顔のケリィは感極まって泣き出したユリィに抱きつかれて女の子達に囲まれていた。
婚約者として連れ帰ったケリィとの婚姻に日本政府がどう対応するのか非常に興味深いところではある。だが、今後の活動方針に関し、こうして仲間内での最大の懸念(あの二人どうするんだろう?ヤキモキ)が解消されて俺達の行動にも弾みが付く事だろう。
と、誠にめでたいこの祝福ムードの中ではあったが、俺には新たな懸念が想起されていたのだ。何かと言えば、この後、俺と武田少尉はそれぞれユリィとケリィとの婚姻の許しを得るためにグレンダ女王の元へ行かなければならないからだ。はぁ、一体どんな顔して行けばいいんだかな?
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それでは次話もお楽しみに!




