第174話 精霊樹だよ、全員集合!
アースラ大陸。この異世界にある最大の大陸である(らしい)。そのアースラ大陸の西端にある巨大クレーター、その外輪山に囲まれた森林地帯を外輪山も含めてこの世界の人々はいつからかエルム大森林と呼んでいる。
サラクーダ市やキャストン市で接収した世界地図を見るに、アースラ大陸は俺達の世界で言えばユーラシア大陸に相当するようだ。そして西欧辺りの位置にフランスくらいの面積のクレーターがある、と想像して貰えばエルム大森林のイメージとしては当たらずしも遠からずといったところだろうか?
このエルム大森林、外輪山が西の大洋からの湿った風で雲を作りだして雨を降らし、北からの冷気を遮断するため温暖な気候だ。そのため外輪山の中に植物が繁茂する条件が整い、大森林とも樹海とも呼ばれる森林地帯が誕生するに至った。
とは言え、これは地理Bではなく一応ローファンタジー。要するに何が言いたいのかと言えば、日本じゃ白神山地や屋久島辺りでしか見られないような大木がここではそこいら中に生えているとい事。
そんな大木に登り、俺達は現在、北の精霊樹の周辺に屯する魔王国軍部隊を偵察中、というか敵情視察中だ。
俺も師匠やエーリカ、日本の神様のお蔭で様々な術や魔法が使えたりする。だが、どうしても透視とか遠見といった"視る"という事に関した魔法は使えない。精々が元来の2.0の視力を身体強化の魔法で2.5に出来るくらいだ。まぁ俺には仲間がいるので、そういった事は得意な仲間に丸投げのおんぶに抱っこしている。至らない部分を補い合うのが仲間だからな、そこに不満は無い。無いどころか、そのお蔭で俺の傍にフレデリカという美少女がいて千里眼で支えてくれるのだから寧ろ大歓迎!
そんな訳で、俺とエーリカとフレデリカは縄文杉のような大木の、これまた太い枝に腰掛けている。俺が目を凝らしても10km以上も離れた魔王国軍の部隊は薄っすらとしか見えないが、フレデリカの千里眼なら奴らのテントの中まで見通せる。
と、俯いて目を瞑っていたフレデリカが徐に顔を上げて瞼を開いた。
「どうだった?」
フレデリカは軽く深呼吸すると、自身が千里眼で見た敵情について説明する。
「はい、精霊樹の周辺にいる魔王国軍の戦力は人数で言えば概ね2万人くらいです。様々な外観の種族の混成で、」
フレデリカによれば、魔王国軍の主力は鬼族や他にも角の生えた種族(羊族に牛族)で、そいつらによる歩兵に弓兵。
その他にもケンタウロスの騎兵(?)、ミノタウロスの重装歩兵!リザードマンの槍兵、魔物を使役するガミラーゼ族の部隊もいて、その総戦力は2個師団といったところ。
「ギャオー!」
と、突然、俺達の上空から何かの鳴き声が聞こえ、黒い影が通り過ぎた。
「それにあんなのもいるしね」
エーリカが視線で追う先には飛び去って行くワイバーンの姿があり、更に北の精霊樹の上空にも輪を描くようにワイバーンの群れが飛んでいた。
「こりゃあまた、上も下も鉄壁の防御だな」
「ええ」
「ですね」
俺達3人は互いに顔を見合わせて「はぁ〜」と溜息を吐いた。
そろそろ頃合いと見た俺は、同じ木や周囲の樹上で同じく敵情を視察している他のチームへ念話で撤収を命じた。
〜・〜・〜
「お帰りなさいリュータ、エーリカさん、フレデリカさん」
拠点に戻った俺達3人は早速サキの出迎えを受けた。
「わざわざありがとう、サキ」
俺がサキの頭を撫でると、レマールが背中にしがみついて来た。
「おかえり〜リュータ」
「おう、ただいまレマール」
「リュータ、皆さんお待ちですよ」
レマールを背負ったままちょっと不機嫌になったサキに「わかった」と返事をすると、俺は司令部としている大型テントへ向かった。
俺がサキに急かされるようにして赴いた先には大型テントの前にタープか張られていて、その下には折り畳みのテーブルと椅子が並べられていた。そして既に何人もが席に着いていた。
「皆さん、お待たせしました」
席に着いていたメンバーは今まで共に戦って来た有志連合や戦兎族の幹部だけでなく、ドワーフ、エルフにダークエルフといった新顔が加わっている。
有志連合からはアンドリューだけではなく、戦場で行方不明になったアルベルトさんの跡を継いで有志連合軍の司令となったヒト族のオズワルドさんも出席している。オズワルドさんは筋骨逞しく、短く刈り込んだ銀髪にカイゼル髭の壮年男性で、ここに至る途中で立ち寄ったピースマック市の領主だった方だ。
戦兎族からはグレンダ女王と側近のラキィさん。
その他の新顔さん達が誰かといえば、エルム大森林の北部外輪山とその麓に居住するドワーフ部族連合の総統ワルターさん、森エルフはシルヴァ支族の族長エルンストさんに同じくバーシュ支族の族長ゴーシュさん。
そしてダークエルフはダリューク支族の族長ウルドさんとアブリル支族の族長でカチュアさん。
因みに森エルフの族長はどちらもそれはイケメンで、ダークエルフの族長は2人とも女性。ウルドさんは女傑といった感じの美人お姉さんで、カチュアさんはウルドさんより少し年下のちょっとオラついたレディースの総長風美人。この2人を例えるなら極妻とヤンキー娘か?
「おい、女待たせるとかいいご身分だな、ハーレムキング様は」
え、早速絡まれた?カチュアとか名前は可愛い風なのに、見た目だけじゃなくてやる事までレディースかよ。しかも早速誰か俺の事をハーレムキングとか教えてるし。
「よさないかアブリルの。神使様に失礼だぞ」
バーシュ支族の族長ゴーシュさんがカチュアさんを嗜めてくれた。こう言ってはなんだが、エーリカのところのサバール支族の連中と違ってこっちのエルフ達はとても気立が良くて協力的で礼節をもって遇してくれている。この違いはなんだろうか?まぁ、サバール支族の場合は俺とエーリカが恋人になったのが気に入らないからだろうが。
「ふん、こちとら森のお上品なエルフ様とは違って正直なもんでさ、思った事がつい口に出ちまうのさ」
「まったく、山出しが!」
「あぁ?」
両者の間に険悪な空気が流れる。エルフとダークエルフが仲悪いって本当だったんだな。なんて思っていると、そんな空気を吹っ飛ばす怒声がドワーフのワルターさんから放たれた。
「やめんか馬鹿者!神使様の御前だぞ!」
雷親父の一喝で険悪な空気は一掃された。しかし、その代わりに気不味い雰囲気が…
"おい、早く何とかしろよ"
くっ、斉藤め。だが、斉藤だけじゃなく真琴、エーリカ、アーニャからも「どうにかしろ」という視線をびしびし感じる。しょうがないな。
「敵情の視察に出ていたとはいえ、遅れたあのはこちらの落ち度です。申し訳ありませんでした」
こんな時は手っ取り早く謝ってしまえ。舐められるって?いいんだよ、面倒臭いんだから。先に進める方が重要だ。
「それでは第1回の顔合わせ会を始めましょう」
俺が頭を下げると、「ふんっ」と腕を組んでそっぽを向いたカチュアさん。その様子を見てもう騒ぐ事は無いと見たのか、司会役のエーリカが顔合わせ会を進めた。
〜・〜・〜
キャストン市を出発して街道を北上する事5日。神聖パレンナ同盟軍は北の精霊樹を望む地点にまで至った。そこでグレンダ女王が本拠地に残してきた戦兎族と参加の獣人族が俺達に合流した。その後、有志連合軍の本隊も合流。
そうこうしているうちに、更にドワーフの部族連合、森エルフのシルヴァ支族とバーシュ支族、そしてダークエルフのダリューク支族とアブリル支族が合流を申し入れて来て現在に至っているという訳だった。
そうして俄かに3000人以上の大集団になってしまった俺達。しかも何か新たな面子も一癖も二癖もありそうで。
さて、呼びつけるだけ呼びつけておいて俺には全く知らんぷりな北の大精霊さんは何を考えているのか。そして何をすれば元の世界に戻る事が出来るのだろうか?
ジタバタしても疲れるだけなので、まずは様子見としようかな。
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それでは次話もお楽しみに!




