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第170話 ドラゴン、付いてくるってよ

その日の夕暮れ。俺はアーニャに案内されてキャストン侯爵家の墓所へ来ていた。貴族の墓所はその城内にある事も多いらしいが、その墓所は城から少し離れたレマーレード湖を見下ろせる高台にあった。


そこからの眺望は夕焼けのオレンジ色に染まる西の空と外輪山の山の端、星の瞬きも見え始めた濃紺の天空、そしてそれらを映し出すレマレード湖の湖面。幻想的な光景は美しい事、この上ない。


墓地は残念ながら暫く手入れがされていなかったせいで草が伸び放題になっていた。俺達は参道とその周辺を風魔法を使って草を刈り、吹き飛ばしてアーニャの母親が眠る墓へ辿り着く。


この世界、というかエルム大森林があるこの地方の墓は貧富、貴賤により大きさや材質は異なり、形にバリエーションはあるものの基本となるデザインは一緒だ。その形は直方体の上に四角錐が乗っているデザインで、アーニャの母親の墓もその範疇から逸脱していない。しかし流石に領主の妻の墓なので少し大きめで、関東で良く見る板碑のように緑がかった石材使われ、その表面は鏡のように磨かれている。


アーニャはここに来るまでの間に皆で摘んだ野草の花を墓前に供えると、屈んで片膝を突んで両手を組み、静かに両眼を閉じ今は亡き母親に祈りを捧げた。


俺達もアーニャの後ろでそれぞれの文化や宗教の作法に則って祈りを捧げた。日本人である俺、雪枝、舞、真琴は立ったまま両手を合わせて目を瞑り、フレデリカは映画とかで良く見るキリスト教徒のように手を組んで祈る。


(アーニャのお母さん、俺はアーニャを愛しています。とても大切な女性(ひと)です。アーニャの事は一命に替えても必ず守りますから、どうか安心して下さい)


と、俺はそう心の中でアーニャの母親に語りかけた。勿論、アーニャの母親がそれに応える事はない。きっと、あちら様も娘の祈りを聞いている最中だろうし、俺がいくら魔法が使えようが神々の加護を得ようが死者と語り合う事は出来ない。


だが、その時、突然吹いた一迅の風、そのひゅぅぅ〜という音に混じって


"娘を宜しくね、神使さま?"


という少し悪戯っぽい女性の声を聞こえたのは気のせいだろうか?


すっかり日は暮れて、光は山の端の残照ばかり。俺は最近漸く見慣れたこの世界の星座、特に南十字星に似た星座を見上げる。


(アーニャは任せて下さい。お袋さん)


アーニャの亡き母に伝わるかどうか。だが俺は風の音に混じって聞こえた声に返すようにそう心の中で思った。


〜・〜・〜


高台の墓地からキャストン市へ戻る途中、道を降ってゆくと湖畔に出る。俺達一行は魔力による身体強化で夜目が利くため、夜道で明かり無しでも特に不自由する事は無く歩く事が出来るが、夜空に浮かぶ月(ソーマの方)の白々とした月明かりが鏡のような湖面に映えて、湖の周辺を明るく照らしている。


「なんか幻想的ですね?」


月光に照らされたあまりにも美しい景色に思わず足を止めて眺めていると、傍に来ていたサキが俺の左手に自分の指を絡めてそう呟いた。サキはこういう機会を決して逃さない。


「そうだな」


俺も嫌ではないので、絡められたサキの指をしっかり握って恋人繋ぎにした。


「あ〜、サキちゃんは抜け目ないなぁ。じゃあ先輩の反対側は私が頂きますって、ええ⁈」


舞が俺の右腕に自分の左腕を絡めようとした途中、湖面を見て驚きの声を上げてしがみついて来た。


俺も釣られて湖面に目を向けると、そこには湖から長い肢体の竜が首を伸ばして俺達を見詰めていたのだ。


突然の竜の出現に皆からは驚きの声が上がる。その出現は本当に突然だった。あれほど大きな竜種が接近していたのなら、その強大な魔力を感知するはずなのだ。しかし、この竜は少しも俺達に自らの魔力を感じさせなかった。もし、この竜が俺達に攻撃意図があったならば俺達はいきなりブレスを食らって全滅していた。


幸いな事にこの竜からは敵意も悪意も全く感じられず、時折りパチクリする瞳が愛らしくもあった。


「みんな、この竜は湖の主でレマール。危害を加えなければ何もしないから大丈夫」


ここが故郷のアーニャはこの竜の事を良く知っているようだ。俺達に向き合うように前に立って竜を庇うように大きく両腕を広げた。


するとレマールという竜から念話が伝えられて来た。


"僕はこの湖の竜でレマール。ねぇ、君達は異世界から来た神使の一行でしょ?それで、ええと、君が神使?」


レマールはそう言って俺を神使と見定めたのか、俺を凝視する。


"俺はリュータっていうんだ、よろしくな。この世界で確かに俺はそう呼ばれているよ"


"やっぱり!リュータからは龍神様の加護を感じるもの"


レマールは岸に寄せると肢体を伸ばして大型バイク程もある蛇に似た頭部を俺に近付け、くんくんと臭いを嗅いだ。


"あ〜、いい臭い!リュータ、いい臭い!"


レマールは俺の臭いを嗅いで興奮したのか、グイッと水面から肢体を伸ばした。


レマールには手足は無く蛇のような肢体だ。全身が濃いエメラルド色の鱗に覆われ、その肢体の長さは15m程。体幹の直径は1.5mくらいだろうか。そしてレマールには背中に2対で4枚の翼か生えている。頭に近い大きな1対の翼に尾側の小さな1対の翼。南米のケツァールコアトルのようだろうか?


レマールは頭側の大きな翼をバサッと大きく広げ、"いい臭い、いい臭い"とばかりにギャーギャー鳴きながら羽ばたかす。その度に湖の水が飛沫として俺に降りかかるのだが、今のところ友好的な竜なので逃げる訳にもいかない。他のみんなは飛沫を避けて後ろの方へ逃げてしまったが。


その後、レマールは俺を質問攻めにし、明後日には北の精霊樹目指してここを出立すると知ると、"僕もリュータと一緒に行く!"と言い出したのだ。


"…別にいいけど、湖の事はいいのか?"


"うん。この湖は棲みやすいいい場所だったけど、誰もいなくなっちゃったから"


"別の世界に行っちゃう事になるかもだぞ?"


"面白そう"


まぁ、一緒に来たいと言うなら拒む理由は無い。元の世界には既に火竜のバーンとゾフィが転移して来ているし、しかもドラグとリズリィという子供達まで生まれている。


"じゃあ明後日になったら迎えに来るからな"


"うん。待ってる"


レマールは嬉しそうにそう言うと、身をくねらせて湖に飛び込んで潜り、再び浮上すると綺麗な房状の尻尾を俺達に振って湖の奥へと戻って行った。俺が再びその飛沫を浴びたのは言うまでもない。


「…リュータ、凄い。湖の主を手懐けちゃうなんて」


アーニャが呆気に取られた表情で呟くように言った。


「リュータ、また凄いのをお供にしたものね」


エーリカはほぇ〜という表情のまま言った。


「お兄ちゃん、ももたろう印のきびだんごでも食べさせたの?」


いや、妹よ。俺はのび太じゃないからな?


「竜太、三郎丸にレマール、後は巨大ロボットがあれば三つの僕が揃うわね!」


真琴、俺はバビルⅡ世でもないぞ。


みんな好き好きに感想を述べるが、どれもこの事態に呆気に取られた感じだ。それよりも俺はこの降って湧いたような事態に、あの巨体がどうやって俺に付いて来るのかと、そんな事を心配していた。


いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


津上翔一

「人の運命がお前の手にあるなら、俺が奪い返す。変身!」


『仮面ライダーアギト』より


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